わたしの婚約者の好きな人

風見ゆうみ

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  その日の放課後。

 いつもと同じ様に友人と教室を出て、ショー様に挨拶をして馬車に乗り、馭者に話をして、とりあえず学園を出てもらった。

 学園の裏側で馬車を停めてもらい、徒歩で来ている平民が多く使う門の方から、忘れ物をしたと言い訳をして中に入った。

 そして、教室に入ると、トーリ様が自分の席に座っていて、当たり前だけれど、授業が終わってかなり経っているからか、彼以外、中には人がいなかった。

「お待たせして申し訳ございません」
「いや、こちらこそ手間を掛けさせて悪いな。人払いをさせてるし、今日は習い事があるから遅くなるとショーには伝えてある。それに、ショーの動きは監視させてるから戻ってくる事があっても俺達が一緒にいた事は気付かれる事はないと思う」
「あ、あの…、一体、どういう事なのでしょう? そこまでしなければならない必要はあるのですか?」

 早速、本題に入ってみると、トーリ様は自分の席の隣の席を手で示した。

(座れという事かしら?)

 そう思って、隣の席に座ると、トーリ様が話し始めてくれた内容は、わたしが予想していた通りだった。

 ただ、トーリ様の場合はわたしよりももっと酷い状況で、婚約者どころか、友人まで奪いにかかってくるらしく、それは幼い頃からそうなのだという。

(わたしの場合は、友人までは奪ってこようとしなかったから助かったわ。トーリ様達の場合は双子だから余計に友人も気になるのかもしれないわね…)

 もし、自分がお姉様と双子だったりすると思うとゾッとした。

「俺が嬉しそうだったり楽しそうにしていると、ショーは面白くないみたいだ。だから、俺はあいつに感情を悟られない様に表情を変えない様にした。無表情でいれば、ショーは俺が相手に対して、どう考えているかわからないみたいだな。俺が好意を持っているとか、仲良くしたいと思っているのがわかると、奪いにかかってくる」
「奪った後はどうされるんですか?」
「俺が感情を出さなくしたきっかけは、7年くらい前の出来事なんだが、俺に婚約者が決まった。政略結婚だから、お互いに恋愛感情はなかったが、相性は悪くなくて親しくしていた。だけど、ショーが彼女に近付き、彼女を俺の婚約者から自分の婚約者にさせた。もちろん、その時は彼女も同意してた」

 そこで一度言葉を区切った後、小さく息を吐いてからトーリ様は続ける。

「ただ、しばらくしてから、彼女が俺の元に来て、やはり、俺の婚約者に戻りたいと言ってきた。俺にしてみれば意味がわからなくて、婚約者の件は断ったが、何があったのか聞いてみると、ショーが彼女に罵詈雑言や卑猥な言葉を浴びせていた事がわかった。ただ、どんな事を言われたかはわかっていない。口に出したくないというから深くは聞かなかったが、後で母上から確認してもらったところ、体型の事や顔の事など外見の事を散々罵ってきたらしい。そして、彼女には僕はもったいないからと婚約を自分の方から解消しろと…」

 トーリ様は少しだけ感情の色を見せて、悲しげな顔をしたので、首を傾げる。

「では、再度、婚約をされたんですか?」
「という話になったんだが、彼女の両親がそれを止めてきた。それはそうだろう。自分の娘を酷く傷付けた相手の双子の兄とまた婚約なんて願い下げだろう?」
「もしかして、今まで婚約者が決まらないのは、そのせいなんですか?」
「ああ。先にショーに婚約者を決めてしまおうと思って動いてもらったが、ショーは自分に婚約者が出来ても、俺の婚約者の方が良く見えてしまうみたいだった。そして、大体の女性は、外見が良くて上辺は優しいショーに落ちる」
「ショー様はわたしには早速、本性を見せてくれた様に思えましたが…」
「まだ、会って間もないのにか…?」

 わたしだったら、好きになったりしないと思って素直に言ってみると、トーリ様は聞き返してきてから、難しい顔をした。

「あの…、どうかされましたか?」
「いや、なんというか、言いづらい」
「言いづらい?」

 聞き返して小首を傾げる。

 そして、少し考えてから気が付いた。

(まさか、そんなわけないわよね? そんな理由だったら、本当に腹が立つんだけれど…!?)

「もしかして、ショー様はわたしなら簡単に落とせると思ってます?」
「その可能性は高い」
「し、失礼な…! わたしは失恋したばかりで…!」
「事情は聞いてるよ。だから、ショーはそう思ってるのかもしれない」
「そ、そんなに簡単には落ちるつもりはないです! れ、恋愛経験はゼロに近いですけれど…」

(本当に好きだったのよ。他に好きな人がいるとわかっていても、長く思い続けられるくらい)

 俯いて小さく息を吐くと、トーリ様が言う。

「とにかく、俺には関わらない方が良いと思う。関わればショーの興味は増すから、君が不快な思いをする可能性が高くなる」
「あの、その事なんですが…」

 わたしはクボン侯爵やお義兄様が考えているんじゃないかと思う事を、トーリ様にも伝えてみた。

「まあ、言いたい事はわからないでもない」
「姉に一泡吹かせたいんです。トーリ様にもお手伝い願えませんでしょうか?」

 わたしのお願いに、トーリ様は訝しげな顔をしたけれど、話を聞いてくれるのか、続きを促してくれる。

「とりあえず、話をしてくれないか? それから考える」

 わたしは自分の考えている事を、トーリ様に話す事にした。
 
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