14 / 45
9
しおりを挟む
その日の放課後。
いつもと同じ様に友人と教室を出て、ショー様に挨拶をして馬車に乗り、馭者に話をして、とりあえず学園を出てもらった。
学園の裏側で馬車を停めてもらい、徒歩で来ている平民が多く使う門の方から、忘れ物をしたと言い訳をして中に入った。
そして、教室に入ると、トーリ様が自分の席に座っていて、当たり前だけれど、授業が終わってかなり経っているからか、彼以外、中には人がいなかった。
「お待たせして申し訳ございません」
「いや、こちらこそ手間を掛けさせて悪いな。人払いをさせてるし、今日は習い事があるから遅くなるとショーには伝えてある。それに、ショーの動きは監視させてるから戻ってくる事があっても俺達が一緒にいた事は気付かれる事はないと思う」
「あ、あの…、一体、どういう事なのでしょう? そこまでしなければならない必要はあるのですか?」
早速、本題に入ってみると、トーリ様は自分の席の隣の席を手で示した。
(座れという事かしら?)
そう思って、隣の席に座ると、トーリ様が話し始めてくれた内容は、わたしが予想していた通りだった。
ただ、トーリ様の場合はわたしよりももっと酷い状況で、婚約者どころか、友人まで奪いにかかってくるらしく、それは幼い頃からそうなのだという。
(わたしの場合は、友人までは奪ってこようとしなかったから助かったわ。トーリ様達の場合は双子だから余計に友人も気になるのかもしれないわね…)
もし、自分がお姉様と双子だったりすると思うとゾッとした。
「俺が嬉しそうだったり楽しそうにしていると、ショーは面白くないみたいだ。だから、俺はあいつに感情を悟られない様に表情を変えない様にした。無表情でいれば、ショーは俺が相手に対して、どう考えているかわからないみたいだな。俺が好意を持っているとか、仲良くしたいと思っているのがわかると、奪いにかかってくる」
「奪った後はどうされるんですか?」
「俺が感情を出さなくしたきっかけは、7年くらい前の出来事なんだが、俺に婚約者が決まった。政略結婚だから、お互いに恋愛感情はなかったが、相性は悪くなくて親しくしていた。だけど、ショーが彼女に近付き、彼女を俺の婚約者から自分の婚約者にさせた。もちろん、その時は彼女も同意してた」
そこで一度言葉を区切った後、小さく息を吐いてからトーリ様は続ける。
「ただ、しばらくしてから、彼女が俺の元に来て、やはり、俺の婚約者に戻りたいと言ってきた。俺にしてみれば意味がわからなくて、婚約者の件は断ったが、何があったのか聞いてみると、ショーが彼女に罵詈雑言や卑猥な言葉を浴びせていた事がわかった。ただ、どんな事を言われたかはわかっていない。口に出したくないというから深くは聞かなかったが、後で母上から確認してもらったところ、体型の事や顔の事など外見の事を散々罵ってきたらしい。そして、彼女には僕はもったいないからと婚約を自分の方から解消しろと…」
トーリ様は少しだけ感情の色を見せて、悲しげな顔をしたので、首を傾げる。
「では、再度、婚約をされたんですか?」
「という話になったんだが、彼女の両親がそれを止めてきた。それはそうだろう。自分の娘を酷く傷付けた相手の双子の兄とまた婚約なんて願い下げだろう?」
「もしかして、今まで婚約者が決まらないのは、そのせいなんですか?」
「ああ。先にショーに婚約者を決めてしまおうと思って動いてもらったが、ショーは自分に婚約者が出来ても、俺の婚約者の方が良く見えてしまうみたいだった。そして、大体の女性は、外見が良くて上辺は優しいショーに落ちる」
「ショー様はわたしには早速、本性を見せてくれた様に思えましたが…」
「まだ、会って間もないのにか…?」
わたしだったら、好きになったりしないと思って素直に言ってみると、トーリ様は聞き返してきてから、難しい顔をした。
「あの…、どうかされましたか?」
「いや、なんというか、言いづらい」
「言いづらい?」
聞き返して小首を傾げる。
そして、少し考えてから気が付いた。
(まさか、そんなわけないわよね? そんな理由だったら、本当に腹が立つんだけれど…!?)
「もしかして、ショー様はわたしなら簡単に落とせると思ってます?」
「その可能性は高い」
「し、失礼な…! わたしは失恋したばかりで…!」
「事情は聞いてるよ。だから、ショーはそう思ってるのかもしれない」
「そ、そんなに簡単には落ちるつもりはないです! れ、恋愛経験はゼロに近いですけれど…」
(本当に好きだったのよ。他に好きな人がいるとわかっていても、長く思い続けられるくらい)
俯いて小さく息を吐くと、トーリ様が言う。
「とにかく、俺には関わらない方が良いと思う。関わればショーの興味は増すから、君が不快な思いをする可能性が高くなる」
「あの、その事なんですが…」
わたしはクボン侯爵やお義兄様が考えているんじゃないかと思う事を、トーリ様にも伝えてみた。
「まあ、言いたい事はわからないでもない」
「姉に一泡吹かせたいんです。トーリ様にもお手伝い願えませんでしょうか?」
わたしのお願いに、トーリ様は訝しげな顔をしたけれど、話を聞いてくれるのか、続きを促してくれる。
「とりあえず、話をしてくれないか? それから考える」
わたしは自分の考えている事を、トーリ様に話す事にした。
いつもと同じ様に友人と教室を出て、ショー様に挨拶をして馬車に乗り、馭者に話をして、とりあえず学園を出てもらった。
学園の裏側で馬車を停めてもらい、徒歩で来ている平民が多く使う門の方から、忘れ物をしたと言い訳をして中に入った。
そして、教室に入ると、トーリ様が自分の席に座っていて、当たり前だけれど、授業が終わってかなり経っているからか、彼以外、中には人がいなかった。
「お待たせして申し訳ございません」
「いや、こちらこそ手間を掛けさせて悪いな。人払いをさせてるし、今日は習い事があるから遅くなるとショーには伝えてある。それに、ショーの動きは監視させてるから戻ってくる事があっても俺達が一緒にいた事は気付かれる事はないと思う」
「あ、あの…、一体、どういう事なのでしょう? そこまでしなければならない必要はあるのですか?」
早速、本題に入ってみると、トーリ様は自分の席の隣の席を手で示した。
(座れという事かしら?)
そう思って、隣の席に座ると、トーリ様が話し始めてくれた内容は、わたしが予想していた通りだった。
ただ、トーリ様の場合はわたしよりももっと酷い状況で、婚約者どころか、友人まで奪いにかかってくるらしく、それは幼い頃からそうなのだという。
(わたしの場合は、友人までは奪ってこようとしなかったから助かったわ。トーリ様達の場合は双子だから余計に友人も気になるのかもしれないわね…)
もし、自分がお姉様と双子だったりすると思うとゾッとした。
「俺が嬉しそうだったり楽しそうにしていると、ショーは面白くないみたいだ。だから、俺はあいつに感情を悟られない様に表情を変えない様にした。無表情でいれば、ショーは俺が相手に対して、どう考えているかわからないみたいだな。俺が好意を持っているとか、仲良くしたいと思っているのがわかると、奪いにかかってくる」
「奪った後はどうされるんですか?」
「俺が感情を出さなくしたきっかけは、7年くらい前の出来事なんだが、俺に婚約者が決まった。政略結婚だから、お互いに恋愛感情はなかったが、相性は悪くなくて親しくしていた。だけど、ショーが彼女に近付き、彼女を俺の婚約者から自分の婚約者にさせた。もちろん、その時は彼女も同意してた」
そこで一度言葉を区切った後、小さく息を吐いてからトーリ様は続ける。
「ただ、しばらくしてから、彼女が俺の元に来て、やはり、俺の婚約者に戻りたいと言ってきた。俺にしてみれば意味がわからなくて、婚約者の件は断ったが、何があったのか聞いてみると、ショーが彼女に罵詈雑言や卑猥な言葉を浴びせていた事がわかった。ただ、どんな事を言われたかはわかっていない。口に出したくないというから深くは聞かなかったが、後で母上から確認してもらったところ、体型の事や顔の事など外見の事を散々罵ってきたらしい。そして、彼女には僕はもったいないからと婚約を自分の方から解消しろと…」
トーリ様は少しだけ感情の色を見せて、悲しげな顔をしたので、首を傾げる。
「では、再度、婚約をされたんですか?」
「という話になったんだが、彼女の両親がそれを止めてきた。それはそうだろう。自分の娘を酷く傷付けた相手の双子の兄とまた婚約なんて願い下げだろう?」
「もしかして、今まで婚約者が決まらないのは、そのせいなんですか?」
「ああ。先にショーに婚約者を決めてしまおうと思って動いてもらったが、ショーは自分に婚約者が出来ても、俺の婚約者の方が良く見えてしまうみたいだった。そして、大体の女性は、外見が良くて上辺は優しいショーに落ちる」
「ショー様はわたしには早速、本性を見せてくれた様に思えましたが…」
「まだ、会って間もないのにか…?」
わたしだったら、好きになったりしないと思って素直に言ってみると、トーリ様は聞き返してきてから、難しい顔をした。
「あの…、どうかされましたか?」
「いや、なんというか、言いづらい」
「言いづらい?」
聞き返して小首を傾げる。
そして、少し考えてから気が付いた。
(まさか、そんなわけないわよね? そんな理由だったら、本当に腹が立つんだけれど…!?)
「もしかして、ショー様はわたしなら簡単に落とせると思ってます?」
「その可能性は高い」
「し、失礼な…! わたしは失恋したばかりで…!」
「事情は聞いてるよ。だから、ショーはそう思ってるのかもしれない」
「そ、そんなに簡単には落ちるつもりはないです! れ、恋愛経験はゼロに近いですけれど…」
(本当に好きだったのよ。他に好きな人がいるとわかっていても、長く思い続けられるくらい)
俯いて小さく息を吐くと、トーリ様が言う。
「とにかく、俺には関わらない方が良いと思う。関わればショーの興味は増すから、君が不快な思いをする可能性が高くなる」
「あの、その事なんですが…」
わたしはクボン侯爵やお義兄様が考えているんじゃないかと思う事を、トーリ様にも伝えてみた。
「まあ、言いたい事はわからないでもない」
「姉に一泡吹かせたいんです。トーリ様にもお手伝い願えませんでしょうか?」
わたしのお願いに、トーリ様は訝しげな顔をしたけれど、話を聞いてくれるのか、続きを促してくれる。
「とりあえず、話をしてくれないか? それから考える」
わたしは自分の考えている事を、トーリ様に話す事にした。
94
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
私達、婚約破棄しましょう
アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。
婚約者には愛する人がいる。
彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。
婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。
だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
婚約解消の理由はあなた
彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。
私の人生を壊したのはあなた。
許されると思わないでください。
全18話です。
最後まで書き終わって投稿予約済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる