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裏切られて悲しいや悔しいよりも、まずは、この場では負けたくないほうの気持ちが勝った。
だってたとえ、浮気された方にも原因があるといったとしても、浮気する前に、まずは嫌なところがあったなら、相手に改善を求めるべきだと思う。
そう思って、気持ちを切り替え、義母を見て言う。
「ほったらかしになんかしていません! それに、例え、もしそうだったとしても、許す理由にもなりませんし、浮気しても良い理由にはなりません。けれど、離婚はいたします。そのかわり慰謝料をもらえる事が条件です」
「なんなの、あなたは! すぐにお金の話!? まったくなんて卑しい人なの、あなたは!」
「何を言ってるんですか! 元々はあなたの息子さんの不貞が原因なんでしょう! それくらいしか私にはもらえるものがないんですよ!」
「原因はあなたにあるのよ!」
義母はお話に出てくる意地の悪い狐みたいな顔をして、私を指差して続ける。
「とっとと出ていきなさい! 慰謝料がほしいなら、伯爵家にある好きなものを持っていけばいいわ! この穢れた血の女が!!」
穢れた血というのは、私の祖父母が誰かを知っているからだろう。
この人は、魔法使いに対する過激な差別主義者だったのね。
彼女が私をいじめていた理由が、最後の最後にやっとわかった気がした。
「ありがとうございます。出て行けて幸せですわ」
感情のこもっていない礼を言ってから立ち上がると、なぜかオルザベートも立ち上がる。
「ありがとう、エアリス! 円満解決だから、私達、これからも友達でいられるわよね? 住む場所が決まったら教えてね? また一緒にお茶をしましょう」
「は? あなた、何を考えてるの? そんなわけないでしょう。よくそんな事が言えるわね」
親友だと思っていたオルザベートに対しても、裏切られたという嫌悪感しかない。
もう二度と会う気になんてなれない。
そう思って、正直な気持ちを伝えると、ロンバートが庇う。
「おい、エアリス、なんて事を言うんだ! 君の親友だろう!?」
「本当に親友なら、あなたと寝たりしないわ」
「エアリス、それが君の本性か!」
突然、ロンバートが怒り始めた。
この人にキレられる理由なんてないんだけど?
「君がそんなに心の狭い女だとは思ってなかった! 目障りだ! 顔も見たくない! 早く出ていけ!」
「それはこっちのセリフだわ。言われなくても出て行きます」
「このクズが!」
「うるさい。あなたの方がよっぽどクズよ」
睨みつけると、ロンバートは怯んで後ずさる。
こんな情けない男だっただなんて…。
怒りと悔し涙をこらえながら部屋から出て、急いで別邸から出たところで義父が追いかけてきた。
「本当にすまない。息子と妻はどうにかしている」
「いいんです。ロンバートやオルザベートの本性がわかって良かったです。お義父様はお身体を大事にして下さい。今まで、ありがとうございました。そして、申し訳ございませんでした」
目の敵にしてくる義母とは違い、義父は優しかった。
入り婿である義父は立場が弱く、意見しにくいはずなのに、出来る限り、私を助けようと頑張ってくれていた。
そして、そのせいで小柄な義父が大柄な義母から暴力を受けている事も知っている。
その暴力が私にいかないようにもしてくれていた。
なのに、私は助けてあげられなかった。
今、思えば、私も最低な人間だ。
だから、素直に気持ちを伝えると、髪に白いものが混じり、疲れ切った表情の義父は言う。
「わからないけれど、僕も離婚した方が良い気がしてきたよ」
「……それがよろしいかもしれませんね。その時は私の実家にご連絡下さい。住む家くらいでしたら用意できると思います」
「そんな訳にはいかないよ」
「いいんです。お義父様の優しさへの、せめてもの恩返しに、もしくは罪滅ぼしになりますから」
「…ありがとう。どうしようもなくなったらお願いするよ。君も身体に気を付けて。幸せになってくれ」
握手をして別れると、私はすぐに伯爵家に戻り、慰謝料として伯爵家にあった現金、そしてお金になりそうな金品を何点かもらい、すでに執務机の上に用意されてあった離婚届を書いて伯爵家を飛び出した。
だってたとえ、浮気された方にも原因があるといったとしても、浮気する前に、まずは嫌なところがあったなら、相手に改善を求めるべきだと思う。
そう思って、気持ちを切り替え、義母を見て言う。
「ほったらかしになんかしていません! それに、例え、もしそうだったとしても、許す理由にもなりませんし、浮気しても良い理由にはなりません。けれど、離婚はいたします。そのかわり慰謝料をもらえる事が条件です」
「なんなの、あなたは! すぐにお金の話!? まったくなんて卑しい人なの、あなたは!」
「何を言ってるんですか! 元々はあなたの息子さんの不貞が原因なんでしょう! それくらいしか私にはもらえるものがないんですよ!」
「原因はあなたにあるのよ!」
義母はお話に出てくる意地の悪い狐みたいな顔をして、私を指差して続ける。
「とっとと出ていきなさい! 慰謝料がほしいなら、伯爵家にある好きなものを持っていけばいいわ! この穢れた血の女が!!」
穢れた血というのは、私の祖父母が誰かを知っているからだろう。
この人は、魔法使いに対する過激な差別主義者だったのね。
彼女が私をいじめていた理由が、最後の最後にやっとわかった気がした。
「ありがとうございます。出て行けて幸せですわ」
感情のこもっていない礼を言ってから立ち上がると、なぜかオルザベートも立ち上がる。
「ありがとう、エアリス! 円満解決だから、私達、これからも友達でいられるわよね? 住む場所が決まったら教えてね? また一緒にお茶をしましょう」
「は? あなた、何を考えてるの? そんなわけないでしょう。よくそんな事が言えるわね」
親友だと思っていたオルザベートに対しても、裏切られたという嫌悪感しかない。
もう二度と会う気になんてなれない。
そう思って、正直な気持ちを伝えると、ロンバートが庇う。
「おい、エアリス、なんて事を言うんだ! 君の親友だろう!?」
「本当に親友なら、あなたと寝たりしないわ」
「エアリス、それが君の本性か!」
突然、ロンバートが怒り始めた。
この人にキレられる理由なんてないんだけど?
「君がそんなに心の狭い女だとは思ってなかった! 目障りだ! 顔も見たくない! 早く出ていけ!」
「それはこっちのセリフだわ。言われなくても出て行きます」
「このクズが!」
「うるさい。あなたの方がよっぽどクズよ」
睨みつけると、ロンバートは怯んで後ずさる。
こんな情けない男だっただなんて…。
怒りと悔し涙をこらえながら部屋から出て、急いで別邸から出たところで義父が追いかけてきた。
「本当にすまない。息子と妻はどうにかしている」
「いいんです。ロンバートやオルザベートの本性がわかって良かったです。お義父様はお身体を大事にして下さい。今まで、ありがとうございました。そして、申し訳ございませんでした」
目の敵にしてくる義母とは違い、義父は優しかった。
入り婿である義父は立場が弱く、意見しにくいはずなのに、出来る限り、私を助けようと頑張ってくれていた。
そして、そのせいで小柄な義父が大柄な義母から暴力を受けている事も知っている。
その暴力が私にいかないようにもしてくれていた。
なのに、私は助けてあげられなかった。
今、思えば、私も最低な人間だ。
だから、素直に気持ちを伝えると、髪に白いものが混じり、疲れ切った表情の義父は言う。
「わからないけれど、僕も離婚した方が良い気がしてきたよ」
「……それがよろしいかもしれませんね。その時は私の実家にご連絡下さい。住む家くらいでしたら用意できると思います」
「そんな訳にはいかないよ」
「いいんです。お義父様の優しさへの、せめてもの恩返しに、もしくは罪滅ぼしになりますから」
「…ありがとう。どうしようもなくなったらお願いするよ。君も身体に気を付けて。幸せになってくれ」
握手をして別れると、私はすぐに伯爵家に戻り、慰謝料として伯爵家にあった現金、そしてお金になりそうな金品を何点かもらい、すでに執務机の上に用意されてあった離婚届を書いて伯爵家を飛び出した。
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