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第13話 ちっとも反省なんてしていなさそうね…
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こういう時、先生という立場は大変なのだなと思った。
この国の貴族社会においては、男爵家が伯爵家に面と向かって文句を言うだなんて事が出来るはずもない。
けれど、この学園内の場合は少しだけ考え方が違っている。
生徒は貴族の子供であるだけで、本人自身が爵位を持っている人はほとんどいない。
だから、親が偉いだけで本人とはまた違うという考え方だった。
そのため、物心ついてから知り合った相手なら遠慮する関係にもなってくるけれど、小さい頃にはそんな区別がついていないから、友達は親の爵位など関係なく友達で、その関係性は大人になるまで続くし、学園の中ではそれが当たり前の世界だった。
もちろん、社交場ではこのルールは通用しない。
だから、エルダン男爵令嬢がわたしのクラスに乗り込んできて、わたしに対して文句を言いに来た事は、学園内での子供同士の口喧嘩であり、決められた罰則はない。
本人と親への厳重注意といったところだった。
それを先生はしただけなのだけれど、エルダン男爵夫妻はあからさまな贔屓だと訴えた。
「相手が伯爵家だからって向こうが悪いのに、こちらがどうして謝らないといけないんですか! 謝ってほしいのはこちらの方ですわ」
「娘が子爵令息を誘惑せざるを得ないきっかけを作ったのは、伯爵令嬢の方でしょう。どうせ、伯爵令嬢には他に好きな男がいたんでしょう? だから子爵令息は浮気をしたくなった。ベッキーが彼と一緒になる事を感謝してほしいものです。それなのに!」
これは先生から私のお父様が聞いた話であって、わたしが直接言われた訳ではない。
エルダン男爵夫妻は相手が教師だからといって、自分達の言い分をひたすら話し、注意してくれた先生が謝る羽目になってしまったそうだった。
謝るだけでは誠意が見えないなど、先生を恫喝した為、お父様の方に連絡がいった。
わたしのお父様とジェインのお父様は、先生に注意されて大人しくなるようなら、子供の喧嘩としておさめようと考えてくれていたようだけれど、相手の親が出てきたのならと、学園は介さずに、直接、エルダン男爵家に抗議を入れた。
特にわたしのお父様は本当の事ならまだしも、わたしの事を勝手な妄想で悪く言われただけに怒り心頭だった。
エルダン男爵夫妻は先生には大きな顔をしていたらしいけれど、お父様とジェインのお父様の前では、平謝りしかしなかったそう。
お父様曰く、小物感がすごかったと言っておられた。
ただ、そんな両親に育てられたのであれば、エルダン男爵令嬢があんな風に育ってもおかしくないとも言っていた。
エルダン男爵夫妻は、エルダン男爵令嬢がもう二度と、わたしやジェインのいるクラスには近付けさせないと約束し、今回の件に関しては見逃してくれるように頼んできたらしく、次はないと忠告して今回は終えたそうだった。
お父様達は本人に会っていないので、彼女自身が反省しているかはわからないから、今度、彼女が何か言ってくるような事があれば、すぐに家に連絡する様に言われたのだった。
お父様達がエルダン男爵家に行ってから、彼女が教室にやって来る事はなくなり、ローリーも学園には来ず、あっという間に日にちは過ぎた。
わたし達は進級し、新しい学年になった…といっても、クラス替えがないので、普段なら特に変わった事はないのだけれど、ローリーが転校したと先生から発表があった。
ローリーの様子は彼の友人から聞いていたから元気な事は知っていたし、このまま学園を休み続けるわけにもいかないだろうと思われていたから、クラスメイトの間でも驚きはなかった。
この頃には、ジェインと話す事が昔よりもだいぶ増えていて、今年は学級委員にわたしとジェインが任命されてしまった。
新学期の初日から、放課後に職員室に来る様に先生に呼び出されたので、2人で職員室に向かっている時に、ジェインに話しかける。
「ジェインはローリーの転園の話は知っていたの?」
「いや、知らなかった。リリアーナは知ってたのか?」
「ええ。ローリーのご両親から連絡が来ていたから」
「そうか。ローリーの事だから、リリアーナの事を諦めないと思ってたけど、大人しく引き下がってくれて良かったな」
「大丈夫よ。もし、わたしに接触してきたら、今度はもっと大事になるという話をしてくれているから」
「ローリーの両親も気の毒だ。いきなり息子が悪い男になりたいだなんて言い出して、あんな事をされたんじゃな。って、俺のせいでもあるのかもしれないけど」
「ジェインのせいじゃないわよ」
結局、ローリーが豹変してしまった理由はわからないまま。
ジェインを妬んでいる男子生徒からはローリーからわたしを奪うためにジェインが何かしたんじゃないかと言われたけれど、ジェインがそういう人ではない事はわたしがよく知っているから、そんな事は絶対にありえないと思っている。
本人に聞いてみようかとも思ったけれど、それはそれで失礼な気がするし、今は聞けていないけど、おかしくなってからのローリーの発言を思い出しても、ジェインから何か言われたという発言はしていなかったから、ジェインが何か言ったという事はないはず。
「何であいつはいきなり、俺をライバル視しはじめたんだろうな」
「皆に言われたからって言ってたわよ?」
「本当にそれだけで、あんなに変わると思うか?」
「そんな事を言われたって、わたしはローリーじゃないからわからないわ。他に考えられる事ってあるの?」
「ローリーはモテてたんだよな?」
「そうみたいね」
「……という事は?」
ジェインに聞かれて、わたしは小首を傾げる。
「わからないんだけど…」
「まあ、推測で人の事を悪く言うのも良くないしやめとくか」
職員室に向かうには渡り廊下を渡って別の校舎に行かないといけない為、渡り廊下を渡っている時だった。
女性同士の言い争う声が聞こえたので、立ち止まって、どこから聞こえてきたのか探してみると、中庭で複数人の女性が1人の女性を囲んでいるのが、私達のいる2階の渡り廊下から見えた。
何事かと思って見てみると、輪の中心にいるのはエルダン男爵令嬢だった。
「あなたのせいでローリー様が転校しないといけない事になってしまったじゃないの!」
「ローリー様を不幸にして何が楽しいの!」
エルダン男爵令嬢を囲んでいる人達は、どうやらローリーが転校してしまった事を悲しんでいるようだった。
「違うわ! ローリー様は不幸になんかなっていない! 私と婚約したんだから、幸せになったのよ! それから、転校しないといけなくなったのは元婚約者のリリアーナ様のせいよ! 私のせいにしないでちょうだい!」
エルダン男爵令嬢の言葉を聞いて、わたしはぼそりと呟く。
「ちっとも反省なんてしていなさそうね…。お父様にお話しなくちゃ」
「そうだな」
ジェインが頷いたその時、エルダン男爵令嬢が叫ぶ。
「それよりも聞いて! リリアーナ様のせいでローリー様はやせ細ってしまっているのよ! このままではローリー様が死んでしまうわ!」
ど、どういう事!?
この国の貴族社会においては、男爵家が伯爵家に面と向かって文句を言うだなんて事が出来るはずもない。
けれど、この学園内の場合は少しだけ考え方が違っている。
生徒は貴族の子供であるだけで、本人自身が爵位を持っている人はほとんどいない。
だから、親が偉いだけで本人とはまた違うという考え方だった。
そのため、物心ついてから知り合った相手なら遠慮する関係にもなってくるけれど、小さい頃にはそんな区別がついていないから、友達は親の爵位など関係なく友達で、その関係性は大人になるまで続くし、学園の中ではそれが当たり前の世界だった。
もちろん、社交場ではこのルールは通用しない。
だから、エルダン男爵令嬢がわたしのクラスに乗り込んできて、わたしに対して文句を言いに来た事は、学園内での子供同士の口喧嘩であり、決められた罰則はない。
本人と親への厳重注意といったところだった。
それを先生はしただけなのだけれど、エルダン男爵夫妻はあからさまな贔屓だと訴えた。
「相手が伯爵家だからって向こうが悪いのに、こちらがどうして謝らないといけないんですか! 謝ってほしいのはこちらの方ですわ」
「娘が子爵令息を誘惑せざるを得ないきっかけを作ったのは、伯爵令嬢の方でしょう。どうせ、伯爵令嬢には他に好きな男がいたんでしょう? だから子爵令息は浮気をしたくなった。ベッキーが彼と一緒になる事を感謝してほしいものです。それなのに!」
これは先生から私のお父様が聞いた話であって、わたしが直接言われた訳ではない。
エルダン男爵夫妻は相手が教師だからといって、自分達の言い分をひたすら話し、注意してくれた先生が謝る羽目になってしまったそうだった。
謝るだけでは誠意が見えないなど、先生を恫喝した為、お父様の方に連絡がいった。
わたしのお父様とジェインのお父様は、先生に注意されて大人しくなるようなら、子供の喧嘩としておさめようと考えてくれていたようだけれど、相手の親が出てきたのならと、学園は介さずに、直接、エルダン男爵家に抗議を入れた。
特にわたしのお父様は本当の事ならまだしも、わたしの事を勝手な妄想で悪く言われただけに怒り心頭だった。
エルダン男爵夫妻は先生には大きな顔をしていたらしいけれど、お父様とジェインのお父様の前では、平謝りしかしなかったそう。
お父様曰く、小物感がすごかったと言っておられた。
ただ、そんな両親に育てられたのであれば、エルダン男爵令嬢があんな風に育ってもおかしくないとも言っていた。
エルダン男爵夫妻は、エルダン男爵令嬢がもう二度と、わたしやジェインのいるクラスには近付けさせないと約束し、今回の件に関しては見逃してくれるように頼んできたらしく、次はないと忠告して今回は終えたそうだった。
お父様達は本人に会っていないので、彼女自身が反省しているかはわからないから、今度、彼女が何か言ってくるような事があれば、すぐに家に連絡する様に言われたのだった。
お父様達がエルダン男爵家に行ってから、彼女が教室にやって来る事はなくなり、ローリーも学園には来ず、あっという間に日にちは過ぎた。
わたし達は進級し、新しい学年になった…といっても、クラス替えがないので、普段なら特に変わった事はないのだけれど、ローリーが転校したと先生から発表があった。
ローリーの様子は彼の友人から聞いていたから元気な事は知っていたし、このまま学園を休み続けるわけにもいかないだろうと思われていたから、クラスメイトの間でも驚きはなかった。
この頃には、ジェインと話す事が昔よりもだいぶ増えていて、今年は学級委員にわたしとジェインが任命されてしまった。
新学期の初日から、放課後に職員室に来る様に先生に呼び出されたので、2人で職員室に向かっている時に、ジェインに話しかける。
「ジェインはローリーの転園の話は知っていたの?」
「いや、知らなかった。リリアーナは知ってたのか?」
「ええ。ローリーのご両親から連絡が来ていたから」
「そうか。ローリーの事だから、リリアーナの事を諦めないと思ってたけど、大人しく引き下がってくれて良かったな」
「大丈夫よ。もし、わたしに接触してきたら、今度はもっと大事になるという話をしてくれているから」
「ローリーの両親も気の毒だ。いきなり息子が悪い男になりたいだなんて言い出して、あんな事をされたんじゃな。って、俺のせいでもあるのかもしれないけど」
「ジェインのせいじゃないわよ」
結局、ローリーが豹変してしまった理由はわからないまま。
ジェインを妬んでいる男子生徒からはローリーからわたしを奪うためにジェインが何かしたんじゃないかと言われたけれど、ジェインがそういう人ではない事はわたしがよく知っているから、そんな事は絶対にありえないと思っている。
本人に聞いてみようかとも思ったけれど、それはそれで失礼な気がするし、今は聞けていないけど、おかしくなってからのローリーの発言を思い出しても、ジェインから何か言われたという発言はしていなかったから、ジェインが何か言ったという事はないはず。
「何であいつはいきなり、俺をライバル視しはじめたんだろうな」
「皆に言われたからって言ってたわよ?」
「本当にそれだけで、あんなに変わると思うか?」
「そんな事を言われたって、わたしはローリーじゃないからわからないわ。他に考えられる事ってあるの?」
「ローリーはモテてたんだよな?」
「そうみたいね」
「……という事は?」
ジェインに聞かれて、わたしは小首を傾げる。
「わからないんだけど…」
「まあ、推測で人の事を悪く言うのも良くないしやめとくか」
職員室に向かうには渡り廊下を渡って別の校舎に行かないといけない為、渡り廊下を渡っている時だった。
女性同士の言い争う声が聞こえたので、立ち止まって、どこから聞こえてきたのか探してみると、中庭で複数人の女性が1人の女性を囲んでいるのが、私達のいる2階の渡り廊下から見えた。
何事かと思って見てみると、輪の中心にいるのはエルダン男爵令嬢だった。
「あなたのせいでローリー様が転校しないといけない事になってしまったじゃないの!」
「ローリー様を不幸にして何が楽しいの!」
エルダン男爵令嬢を囲んでいる人達は、どうやらローリーが転校してしまった事を悲しんでいるようだった。
「違うわ! ローリー様は不幸になんかなっていない! 私と婚約したんだから、幸せになったのよ! それから、転校しないといけなくなったのは元婚約者のリリアーナ様のせいよ! 私のせいにしないでちょうだい!」
エルダン男爵令嬢の言葉を聞いて、わたしはぼそりと呟く。
「ちっとも反省なんてしていなさそうね…。お父様にお話しなくちゃ」
「そうだな」
ジェインが頷いたその時、エルダン男爵令嬢が叫ぶ。
「それよりも聞いて! リリアーナ様のせいでローリー様はやせ細ってしまっているのよ! このままではローリー様が死んでしまうわ!」
ど、どういう事!?
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