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8  着せ替えさせられるティータイム

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 それから3日後、私はリュカのお母様である、トラブレル王国の王妃陛下の部屋にいた。
 昨日の内に両陛下に両親と共に挨拶を済ませ、無事に婚約を認めてもらった。

 そして、その時にこれからの暮らしをどうするかという話になった。
 これからの暮らしというのは、私の身をどこにおくかということだ。

 王妃になるというのなら、トラブレル王国の歴史や現代の貴族のことなど、今までそう多くは学んでこなかったものを覚えなければならなかった。

 これが私の住んでいるアグリタ王国なら違っていた。
 小さな頃からアグリタ王国の貴族の名前などは覚えさせられたし、自分の国のことは学園でも習ってきた。
 でも、トラブレル王国については歴史はまだしも、貴族については、1から覚えなければならないし、人数も桁違いだった。

 だから、色々なことをトラブレル王国で学べば良いのではないかという話にもなった。
 でも、出来れば、学園のことがあるから、私はアグリタ王国に戻りたかった。
 アグリタ王国の自分の家でもトラブレル王国の貴族についての勉強はできるはずだからだ。

 両親には席を外してもらい、両陛下とリュカと私の四人で改めて話をした。

 両陛下には、時間が巻き戻る前の事情をリュカがすでに話をしてくれていた。
 このまま、トラブレル王国に留まれば、違う学園に転園しないといけなくなる。

 今までの友人と離れなければいけないし、復讐したい相手に接触できなくなる。
 だから、もう少し時間が欲しいと懇願すると、リュカも一緒に両陛下に頼んでくれた。

 あえて、復讐という道は選ばずに幸せな道を探す。

 そのほうが良いのではないかとも思った。

 でも、今すぐに答えを出さなくても良いと、王妃陛下は優しく声を掛けてくれた。
 そして、四人だけの話を終えたあとは、私の両親を呼んで、学園が長期の休みに入っている間だけ、私を預かりたいと話をしてくれた。
 両親はそれを承諾すると仕事があるからと言って、私を残してアグリタ王国に帰っていった。

 私の通っている学園はちょうど、60日間の長期休みに入ったばかりだった。

 なぜ、私を長期休暇の間だけ、こちらに滞在するように望まれたのか、最初は意図がわからなかった。

 もしかしたら、王妃陛下にいじめられたりするのかしらと不安になったりもしたのだけれど、それは杞憂に終わった。

 王妃陛下の目的は、私を着せ替え人形にすることだとすぐにわかったからだ。

「リリー! 義理の母親になる私から、いいえ、これは王妃命令よ! この中から、あなたが気に入ったものを教えてちょうだい!」
「……気に入ったもの、ですか」

 数時間程前から、私は何着ものドレスを王妃陛下に言われるがままに着替えて見せていた。
 最終的に、王妃陛下は自分では決められないと判断したらしく、私に決めさせることにしたようだった。

「さあ、リリー、どれがいいの!?」

 再度問われてしまったので、私は王妃陛下が着ているドレスを見つめる。
 プリンセスラインのピンク色を基調としたドレスで、リボンは少なめだけどレースがとても可愛い。
 王妃陛下は派手さはないけれど、可愛い系のドレスがお好きなのではないかと考えた。

「そうですね。王妃陛下が選ばれたものですし、どれも素敵だとは思うのですが」
「リリー、家族になるのだから、エマで良いわ。お義母様って呼んでくれても良いのよ?」
「ありがとうございます。では、エマ様と呼ばせていただきます」

 エマ様は日頃のお手入れの賜物なのか、肌は透き通るように白く、吹き出物などは一切見当たらない。
 小柄で細身という体型ということもあり、まるで少女の様な若々しい見た目で、目は大きく、澄んだ湖のような青色の瞳がとても綺麗だ。

 こんなことを言っては失礼かもしれないけど、動物に例えるならリスみたいで、とっても可愛いらしい。

 そんな風に思ったあと、すぐに頭を切り替えて、エマ様の好みそうなドレスを選んだのだった。



*****

「母上、あまりリリーを困らせないで下さいよ」

 長い間、拘束されている私を気遣ってか、ティータイムの時間にリュカがやって来た。
 すると、エマ様はリュカに見せたいからと言って、先ほど、私が選んだドレスに着替えるようにお願いしてきた。

 私が大人しく隣の部屋に着替えに向かうと、エマ様がリュカに話しかける声が聞こえてきた。

「リリーは賢い子ね。これから着てもらうドレスは、私の好みを判断して選んでくれたみたい。こんなことを言ってはいけないかもしれないけれど、本当に婚約者が変わって良かったわ。前の令嬢はツンケンしていて可愛げがなかったもの」
「母上が自分の好みを押し付けようとするからでしょう」
「あら、話を聞いたところでは、あなたの無実を信じなかった子なのでしょう?」
「だから、リリーを巻き込んでしまったんですよ」

 リュカの声はどこか暗くて、私を助けたことを後悔しているのかもと不安になった。
 すると、エマ様が尋ねる。

「リリーを巻き込んだことを後悔しているの?」
「はい。だけど、リリーをあのまま……たくなかったんですよ」

 リュカはメイドに聞かれては困ると思ったのか、声のボリュームを下げた。

「ねえねえ、リュカ、もしかして、リリーのことが好きなの? もちろん、嫌いなら最初から助けようとしないのでしょうけど」

 エマ様は小声のつもりなんでしょうけれど、耳を澄ませて聞いていたからか、話の内容は聞き取れてしまった。
 リュカがなんと答えるのか気になって、着替えどころではなくなってしまう。

「す、好き……って? まだ、お互いのことを詳しくは知らないですし」
「それはわかっているわよ。だけど、日にちは関係ないでしょう? そういえばリュカ、どうして顔もほとんどわからないのに、彼女がリリーだと確信できたの?」

 リュカがなんと答えるか気になったけれど、着替えのほうに集中しなくてはいけなくなり、その後の会話は聞くことはできなかった。
  
 着替え終えたあとは、エマ様からお借りしているメイドに化粧をしてもらい、二人の前に立つことになった。

「あの……、どうでしょうか」

 おろしていた髪をシニヨンにし、小花が散らされたピンク色のドレスに身を包んだ私はドキドキしながら尋ねる。

 メイドを連れてこなかった私は、両親が帰ってからは自分でメイクをしていた。
 だから、ちゃんとしたメイクが出来ていなかった。
 エマ様に仕えているメイドは、やはり自分でするメイクとは違い、仕上がった私はまるで別人だったから、余計に緊張した。
 すると、私を見たリュカは、なぜか口を小さく開けたまま固まってしまった。

 リュカの向かい側に座っていたエマ様は笑顔で立ち上がり、手を叩きながら言う。

「リリー! 本当に可愛いわ! ねえ、リュカもそう思うでしょう? ……というかリュカ、あなた、なんて間抜けな顔してるのよ」
「いや、女性って化粧の仕方が違うだけで、全然イメージが変わるんだなと」
 
 リュカが答えた瞬間、エマ様はリュカを睨んで叫ぶ。

「リュカ! あなた、女性にそんなことを言うなんて! 可愛いと思うなら、素直に可愛いと言いなさいな! 嫌われるわよ!」
「き、嫌われるのは嫌です! ただ、俺は、その、悪い意味で言ったわけじゃなくて。大体、可愛いだとか、そんなことを簡単に言ったら軽く見られるじゃないですか」

 オロオロしているリュカを見て思う。

 リュカはスタイルも良いし、顔も整っている。
 性格だって悪いわけではないけど、女性に対する免疫がないのかも。
 そこは、嘘でも似合うとか可愛いって言うところでしょう。

「リリー! 怒っていいのよ!」

 私が不満そうな顔をしていたからか、エマ様が叫んだ。
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