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プロローグ

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 榊木諒は焦っていた。
 数ヶ月前に大学四年になった俺は、周りが続々と就活を始めているのを横目に「一体俺はどんな仕事がしたいんだ……」と自問自答しながら悶々とした日々を過ごしていた。
 そんな帰り道、信号が青になるのを待ちながら小さくため息をつく。学校から家までの数十分の間にもう何度ため息をついたか分からない。
 憂鬱な気持ちのまま、赤から青に変わる信号を確認し横断歩道を渡る。

キキキキィーッ!!

 突然激しいブレーキ音が鳴った。
 何事かと思い振り向く間も無く、俺は体に物凄い衝撃を感じた。

 目の前に広がる真っ赤な世界。だんだんと遠のいていく周囲の音。

(あ、これ俺死んだわ)

 自分でそう理解した瞬間、突然真っ白な空間に移動した。
 混乱していた俺の前に、白い煙のようなものがもくもくと立ち上る。そして、そこから現れた「神」と書かれたTシャツを着た男。

(なんだこの見るからに怪しいやつ)

 色々なことが起こりすぎてどこから処理していいのやら分からない。
 しかし、そんな俺の困惑なんて気にもせずに男はこちらにやってきて俺の前で立ち止まる。

「君に選択肢をやろう」

 おお、なんかちょっと神っぽいな。まさか本当に神なのか?
 選択肢か、生き返れたりしないかな……さすがにそんな都合のいいことはないか。

「転生出来るけど、する?」
「…………?」

 ものすごく軽い感じで尋ねられた。そんなんでいいのか神よ。
 だがしかし、転生か……ちょっと楽しそうではあるよな。男の夢というか。どうせ死ぬなら転生してみるのもありかもしれない。
 まあこの胡散臭い男をどこまで信じていいのかは分からないが、言ってみるくらいはいいだろう。

「転生したいです!」

 そう口にした途端、俺はまばゆい光に包まれた。


 どれくらい経ったのかは分からない。眩しさから目を瞑り、よくわからない浮遊感で動けずにいると、すとん、と地面に足がつく感覚があった。
 光が消えたのを感じ、俺はゆっくりと目を開けた。チカチカする目を擦ると、少しずつ景色が色付いていく。
 周囲は木に包まれており、風に煽られさわさわと音を立てている。そして、ずっと都会で暮らしていた俺にはあまり馴染みのない土の香りがした。
 くるりと辺りを見渡すと、東の方角に洋風の大きなお城が見えた。

 ここどこだよ。自称神様は、転生とは言っていたがどんな世界に転生するかは言っていなかった。聞いておけばよかった……。

 城があるということは、おそらくその周囲には城下町があるだろう。微かだが人の声も聞こえるし、少し進めば誰かに出会えそうだ。
 森の中にずっといるわけにもいかないし、一先ずそこに向かって歩くことに決めた。
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