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  ノックが聞こえた。

「母上、クラウスです。入ってもいいですか」

「どうぞ」

  ナディア様の声を聞き、クラウスが入室した。

  クラウスの顔色が悪い。具合が悪いのだろうか。

「クラウス、二人きりにしてあげるわ。頑張りなさい」

  そう言うとナディア様は、退出して行った。

  室内には、サラが待機しているので二人きりではないが……ピリピリした空気に私は、緊張した。

  クラウスが、話掛けてきた。

「すまなかった」

「えっ」

  何に対しての謝罪が分からなかった。そして不安になった私は、返事をしてから、クラウスに近寄った。

「俺だけ楽しんで、リリアーナをひとりぼっちにした。本当にごめん」

「私、怒ってないよ。見学するのもそれなりに楽しかったし。あっ!  次は本を持って行こうかなって考えいたのよ。そうしたら、クラウスも集中出来るでしょ」

  私の言葉にクラウスは、顔を青くした。

「ごめん。本当にごめんね。ひとりで退屈だったよね。俺、リリアーナの婚約者なのに、リリアーナのことより、自分のことばかり……ごめんな」

  私は、少し戸惑って返事をする。

「えっ、クラウスそんなに謝らないで。私、怒ってないよ」

「怒ってない?  俺の事を嫌いになった?」

「怒っても、嫌いにもなってないよ」

「本当に?」

「本当よ」

  クラウスは、ほっとした顔をしたので、私は話を続けた。


「それにね。クラウスが運動頑張ってくれて嬉しいの。また、少し痩せたよね。見学をしている時にね、気づいたのよ」

「ああ。また、服を新調したよ」

  クラウスは、そう言うと私を抱き締めて話を続けた。

「恐かったんだ。リリアーナが、俺の事嫌いになって、遠くに行ってしまう気がした」

「私は、クラウスの側にいるよ。ずっと、いるよ」

  クラウスは私を抱き締めていた腕に、さらに力を入れて、きつく抱き締める。
  クラウスの腕が触れている背中が熱を持った気がした。

「リリアーナ、待っていて。必ず痩せて、俺の気持ちを伝えるから。それまで、待っていて欲しい」

  私の身体が暑くなる。心臓の音がやけにうるさい。
  きっと、顔も赤くなっているだろう。

「うん、待ってるわ。私もクラウスの隣に立てるよう、勉強を頑張るから」

  クラウスは、抱き締めたまま私の頭にキスをした。


  クラウスが離れて、私の視界にサラが入る。

  は、恥ずかしい……サラに見られてたんだ。

  サラは、顔に表情を出さず、とても優秀な侍女だった。
  クラウスが少しぎこちなく、私に話掛けた。

「み、みんなの所に戻ろうか。今は、噴水が見えるテラスでお茶をしているよ。俺たちも行こう」

「う、うん」

  クラウスの言葉になんとか返事をした私は、お兄様達がいる場所へ、クラウスと向かって行った。

  クラウスと距離が少し近づいたようで、私は嬉しかった。
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