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押し倒させていただきます ③
しおりを挟む(あら、あっという間に形勢逆転?)
息を呑む暇もなく、クリストフが覆いかぶさってきて唇を奪われる。
彼の舌がうごめき、飲み込み切れなかった唾液が頬を伝う。
「あっ、んっ、んんっ! ひゃっ」
性急な手つきで寝衣を脱がされる。どこかがビリッと破れる音がした。
あらわになった乳房にクリストフが顔をうずめる。胸の尖端の突起をくわえられると、全身を痺れが突き抜けた。
「やあっ、それ、だめっ」
「はぁっ、ミルドレッド……!」
クリストフの呼吸が荒い。彼はわたしの両足を抱え上げて、太ももの間に腰を入れた。
ついに本当の夫婦になれるのだろうか。
初めての行為は痛いものだと聞いていたので、ちょっと怖い。一方で、必死な表情のクリストフに胸がときめく。
だけど、ことはそうすんなりとは進まなかった。
「あぁん、む、無理」
クリストフのそれがわたしの中に入ってこようとしている。めりめりと体が裂かれてしまいそうだ。
「クリストフさま!」
騎士の力で押し込もうとするけれど、そんなところに物を入れた経験なんてないのに、いきなり大きな異物が入るわけがない。
「痛いっ! 痛いです~」
「ミルドレッド!? す、すまない」
半泣きのわたしを見たクリストフが、はっと正気を取り戻した。
持ち上げていたわたしの足をそっと下ろし、呆然と頭を抱え込む。
「俺はなんということを……」
大きな体を縮めてしょんぼりしている旦那さま。
その姿を見ていたら、我慢できない自分が悪いような気がしてくる。叱られた大型犬のようなひどい消沈ぶりだった。
「い、いえ、わたくしこそごめんなさい。こ、こんなことで泣いてしまって」
でも、ちゃんと謝ろうと言葉を絞り出すほど、代わりに涙が出てきた。
わたしは肩を震わせてしゃくり上げた。
せっかくクリストフがその気になってくれたのに、わたしのせいで失敗してしまった。
きっと甘い体験になるだろうと夢見ていた初めての行為は、ただ痛いだけだった。
しかも、未遂だ。
泣きじゃくるわたしをじっと見ていたクリストフは、婚約してから今日までで一番怖い顔をしていた。
赤い前髪が乱れて額に落ち、緑色の瞳を隠している。
「頭を冷やしてくる」
「え……?」
止める暇もなかった。
振り返りもせずに寝室を出ていくクリストフ。その背中が扉の向こうに消えるのをわたしは言葉もなく見つめていた。
結局その夜、彼は帰ってこなかった。
わたしがあまりにふがいないので、その道のプロのところに性欲を解消しに行ってしまったのかもしれない。こんな妻はもういらないだろうか。
でも、わたしと彼の結婚は、家同士の関係にかかわる政略結婚。気持ちが通い合わなくても、離婚はできない。
(わたしはお飾りの妻として、白い結婚のまま一生を過ごすことになるの?)
切なさと悲しみが涙となってあふれて、なかなか寝つくことができなかった。
翌朝、起こしに来たメイドがわたしの腫れたまぶたを見てびっくりしていた。泣いた理由はうやむやにしたけれど、真っ赤な目はごまかせない。
その日の午前中は、目もとを冷やすだけで終わったのだった。
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