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第二部
公爵家のお茶会にてⅨ
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「お待たせ致しましたわ」
「どうってことないわよ」
ビビアン様は特に気にする風もない様子です。お皿の料理が半分ほどなくなっているので、食事をして待って下さっていたのでしょう。
ディアナは待ち人がいることなど忘れたように、料理をじっくりと見て回っていて、私は時々ビビアン様の方を窺いながら、いくらなんでも待たせすぎではとハラハラしてディアナにつきあっていました。
ビビアン様は鷹揚な方なのでしょう。
さっきのディアナの発言と容姿がきつめに見えるので、ちょっとドキドキして身構えてしまいましたが。
椅子に座ってさっそくジュースに手を伸ばしました。
爽やかな酸味と甘みのバランスが絶妙。独特な香りも特徴的で風味豊かで美味しい。
これを口にできただけでもお茶会に参加してよかったと思えるくらい。美味しいものを食べると幸せな気分になれるって本当ですね。
「ところで、ディアナ」
「何でしょう? ビビアン様」
お互いに食事をしながら穏やかな雰囲気になってきた頃、ビビアン様が口を開きました。
「その、ビビアン様っていうのはやめてほしいのだけど。あなたとは幼馴染でしょう。様はいらないわ」
「優しい心遣い感謝致します。けれども、そういうわけにはいきませんわ。いくら小さい頃は呼び捨てだったとは言え、今は分別もつく年齢なのですから、そこはキチンとしませんといけませんわ。公爵令嬢であるビビアン様に失礼に当たりますから」
手にしていたナイフとフォークを置き、ビビアン様を見据えるとディアナはきっぱりと言い切りました。
「また、そんな他人行儀なことを。わたくしはディアナのことを幼馴染で親友と思っているのに。親しい者同士で呼び捨てにすることくらい普通でしょう?」
ビビアンと呼んでもらえないことが不満なのでしょう。
親しい友人であれば身分関係なく呼び捨てにするのはよくあること。公爵家の令嬢を呼び捨てにできるのは限られているのでしょうけど。
「親しき中にも礼儀あり、ですわ。ビビアン様。仲が良いからと言って何でも許されると思ってはいませんわ。わたしは伯爵家の娘。ビビアン様は公爵家のご令嬢なのですから、その爵位にふさわしい呼び方をしなくては申し訳ないですもの」
何のかんのと理屈をつけて、頑なに呼び捨てを拒むディアナ。
「わたくしがいいと言っているのに。まったく、お堅いのだから。でも、そこがディアナの良いところなのかしら」
爵位を重んじて彼女を尊重する態度に自尊心をくすぐられたのか、まんざらでもない様子のビビアン様。
「そう言って頂けると、有難いですわ。ビビアン様、ありがとうございます」
ことさら、表情を明るくしてお礼を言うディアナに満足したのか、説得するのを諦めたのか、ビビアン様は食事を再開させました。
食事をする様子がどことなく弾んでいるように見えるので、満足しているのかもしれません。
この後は主にディアナとビビアン様が話題を提供して、当たり障りのない会話をしながら食事を終えました。
「友人と約束があるので、ここで失礼するわね。今日は楽しかったわ。また、ご一緒しましょう」
鮮やかな笑顔を残して、ビビアン様は去っていきました。
友人と約束って、時間は大丈夫だったのかしら?
それとも、時間が余っていたから、暇つぶしに私たちに声をかけたのかしら?
「友人と約束って、どのくらい待たせたのかしらね」
ジュースをストローでかき混ぜながらディアナが呟きました。
えっ? まさかのそっちですか。
驚いて目を瞬かせていると口の端をあげてニヤリと笑います。笑顔が黒いですけれど。
「いつものことよ。相手はよほど心が広くないとつき合いづらいわよね。慣れてしまえばどうってことないんでしょうけれど。それと、呼び捨ての件ね。あれ、毎回会うたびに同じことをやっているのよ。なんていうか、プライドを保つ上で必要な会話なの。あのやり取りでご機嫌になるんだから、安いものよね」
あっけらかんと一刀両断にしちゃうディアナは最強だわ。
第二の王家と言われるマクレーン伯爵家の令嬢から、尊ばれる存在。それだけでも優位性をあげる一助となっているのでしょう。
ビビアン様の望みどおりに乗っかるディアナは感心を通り越して怖いです。
「そういえば、ビビアン様が私に聞きたいことがあると言われてましたけど、どんな内容だったのでしょう?」
ふと、思い出してしまいました。
いくつか話題はありましたけどたわいない話ばかりで、特に問われることもなくお帰りになりましたから、結局分からず仕舞い。
「あら。言われてみれば、彼女そんなこと言ってたわね。本人が忘れているくらいだから、大したことではなかったのではないの? 気にすることはないわよ」
「そうよね。大事な話なら真っ先に話しているわよね」
嵐が去ったような変な疲労感を覚えていると目の前にはお水が運ばれてきました。
先ほどのメイドです。
頼んだわけでもないのに……びっくりして透明なお水を眺めていると
「さて、口直しをしたら、外に出てみましょうか。お茶会に招待されているんですもの。いろんな方と交流を持たないともったいないわよ」
グラスの半分くらいのお水をグッと飲んだディアナが話しかけます。
口直し。
ジュースの濃厚な味が口の中に残っていますし、気持ちを切り替えるためにも効果がありそうです。飲み干すと無味無臭のお水が気分をさっぱりさせてくれました。
「フローラに紹介したい人が何人かいるのよ。つきあってくれるとうれしいわ」
「ええ。喜んで」
お茶会は人脈作りと情報収集の場ですものね。
じっとしていては目的は果たせませんから。
さっそく、庭園へと足を運ぶと、ディアナからいろんな方を紹介されて有意義な時間を過ごすことが出来ました。
「どうってことないわよ」
ビビアン様は特に気にする風もない様子です。お皿の料理が半分ほどなくなっているので、食事をして待って下さっていたのでしょう。
ディアナは待ち人がいることなど忘れたように、料理をじっくりと見て回っていて、私は時々ビビアン様の方を窺いながら、いくらなんでも待たせすぎではとハラハラしてディアナにつきあっていました。
ビビアン様は鷹揚な方なのでしょう。
さっきのディアナの発言と容姿がきつめに見えるので、ちょっとドキドキして身構えてしまいましたが。
椅子に座ってさっそくジュースに手を伸ばしました。
爽やかな酸味と甘みのバランスが絶妙。独特な香りも特徴的で風味豊かで美味しい。
これを口にできただけでもお茶会に参加してよかったと思えるくらい。美味しいものを食べると幸せな気分になれるって本当ですね。
「ところで、ディアナ」
「何でしょう? ビビアン様」
お互いに食事をしながら穏やかな雰囲気になってきた頃、ビビアン様が口を開きました。
「その、ビビアン様っていうのはやめてほしいのだけど。あなたとは幼馴染でしょう。様はいらないわ」
「優しい心遣い感謝致します。けれども、そういうわけにはいきませんわ。いくら小さい頃は呼び捨てだったとは言え、今は分別もつく年齢なのですから、そこはキチンとしませんといけませんわ。公爵令嬢であるビビアン様に失礼に当たりますから」
手にしていたナイフとフォークを置き、ビビアン様を見据えるとディアナはきっぱりと言い切りました。
「また、そんな他人行儀なことを。わたくしはディアナのことを幼馴染で親友と思っているのに。親しい者同士で呼び捨てにすることくらい普通でしょう?」
ビビアンと呼んでもらえないことが不満なのでしょう。
親しい友人であれば身分関係なく呼び捨てにするのはよくあること。公爵家の令嬢を呼び捨てにできるのは限られているのでしょうけど。
「親しき中にも礼儀あり、ですわ。ビビアン様。仲が良いからと言って何でも許されると思ってはいませんわ。わたしは伯爵家の娘。ビビアン様は公爵家のご令嬢なのですから、その爵位にふさわしい呼び方をしなくては申し訳ないですもの」
何のかんのと理屈をつけて、頑なに呼び捨てを拒むディアナ。
「わたくしがいいと言っているのに。まったく、お堅いのだから。でも、そこがディアナの良いところなのかしら」
爵位を重んじて彼女を尊重する態度に自尊心をくすぐられたのか、まんざらでもない様子のビビアン様。
「そう言って頂けると、有難いですわ。ビビアン様、ありがとうございます」
ことさら、表情を明るくしてお礼を言うディアナに満足したのか、説得するのを諦めたのか、ビビアン様は食事を再開させました。
食事をする様子がどことなく弾んでいるように見えるので、満足しているのかもしれません。
この後は主にディアナとビビアン様が話題を提供して、当たり障りのない会話をしながら食事を終えました。
「友人と約束があるので、ここで失礼するわね。今日は楽しかったわ。また、ご一緒しましょう」
鮮やかな笑顔を残して、ビビアン様は去っていきました。
友人と約束って、時間は大丈夫だったのかしら?
それとも、時間が余っていたから、暇つぶしに私たちに声をかけたのかしら?
「友人と約束って、どのくらい待たせたのかしらね」
ジュースをストローでかき混ぜながらディアナが呟きました。
えっ? まさかのそっちですか。
驚いて目を瞬かせていると口の端をあげてニヤリと笑います。笑顔が黒いですけれど。
「いつものことよ。相手はよほど心が広くないとつき合いづらいわよね。慣れてしまえばどうってことないんでしょうけれど。それと、呼び捨ての件ね。あれ、毎回会うたびに同じことをやっているのよ。なんていうか、プライドを保つ上で必要な会話なの。あのやり取りでご機嫌になるんだから、安いものよね」
あっけらかんと一刀両断にしちゃうディアナは最強だわ。
第二の王家と言われるマクレーン伯爵家の令嬢から、尊ばれる存在。それだけでも優位性をあげる一助となっているのでしょう。
ビビアン様の望みどおりに乗っかるディアナは感心を通り越して怖いです。
「そういえば、ビビアン様が私に聞きたいことがあると言われてましたけど、どんな内容だったのでしょう?」
ふと、思い出してしまいました。
いくつか話題はありましたけどたわいない話ばかりで、特に問われることもなくお帰りになりましたから、結局分からず仕舞い。
「あら。言われてみれば、彼女そんなこと言ってたわね。本人が忘れているくらいだから、大したことではなかったのではないの? 気にすることはないわよ」
「そうよね。大事な話なら真っ先に話しているわよね」
嵐が去ったような変な疲労感を覚えていると目の前にはお水が運ばれてきました。
先ほどのメイドです。
頼んだわけでもないのに……びっくりして透明なお水を眺めていると
「さて、口直しをしたら、外に出てみましょうか。お茶会に招待されているんですもの。いろんな方と交流を持たないともったいないわよ」
グラスの半分くらいのお水をグッと飲んだディアナが話しかけます。
口直し。
ジュースの濃厚な味が口の中に残っていますし、気持ちを切り替えるためにも効果がありそうです。飲み干すと無味無臭のお水が気分をさっぱりさせてくれました。
「フローラに紹介したい人が何人かいるのよ。つきあってくれるとうれしいわ」
「ええ。喜んで」
お茶会は人脈作りと情報収集の場ですものね。
じっとしていては目的は果たせませんから。
さっそく、庭園へと足を運ぶと、ディアナからいろんな方を紹介されて有意義な時間を過ごすことが出来ました。
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