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第一章 無知な少女の成長記

愛されヒロイン

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生まれる前の記憶がある。生きる前の記憶がある。聞いたもの、見たもの、感触、匂い、味、感情全ての記憶がありのまま私の頭の中に鮮明に残っている。


一番最初の記憶は暗くて暖かくてフワフワしてる。今思えば一番んだと思う。

次は途切れ途切れの記憶。何だか興奮して目に入る手も自分のものだと分からないような記憶で口から勝手に音が出る。常に誰かいて温かい光で私を包んでしまう。これがエルお兄ちゃんが言っていた体内魔力の循環なんだろうか、全身がポカポカ温かくなってまた意識が遠のく。


「アナ……お嬢様。今日はいいお天気ですね」


いつも私の傍でお世話してくれるお姉さんの名前は知らない。私は自分の名前も容姿も知らない。この頃は特に気にすることはなかったけど、今思えば私は両親に愛されてはいなかったのかもしれない。記憶にはこのお姉さんを含む侍女数人だけで両親らしい人も私の名前を呼んでくれる人は居ない。



そんな日々が変わったのは月明かりのない真っ暗な夜。私が気が付いたのは私を攫った人たちが魔物に襲われ戦っている最中で、その数秒後私は川に流された。

青い目の彼と出会ったのはもちろん初めてで、その瞬間彼にもう一度会わないといけないという気持ちが沸き上がり必死に生きようともがいた。本当は彼のかけた魔法は消え私は冷たい水の中に沈んだんだ。そして……思い出した記憶



この記憶があってこそ今私は生きていて強くなって苦しんでいる。今と違って感情はなくこうだったということしか覚えていない。それでも幼い無知なにはその記憶は衝撃的だった。







私はシングルマザーの母と祖父母の家に住んでいた。父との交流はあり行事があれば必ず二人で参加してくれていた。どちらかといえば父は単身赴任していて家に居ないといった感覚なのだろうか、今のにはわからない。


「ねぇママ、ママ!見てみて陽菜ひなね持久走大会で三位だったんだ!」

「あっそう」そういって私の母親は私の方を見向きもせずに携帯をいじっていた。私はブーブー文句を言いながら祖父母の所に行く。純粋に褒めてほしかった私は昨日も褒めてもらったはずの祖母にもう一度褒めてもらおうとするのだ。だけどそれだけじゃ終わらず

「どうしてあんたはそんな態度とるのっ!?陽菜ちゃんを褒めてあげなさいよ!」

そんな母にヒステリックに喚き散らす祖母。そして逆上する母。私はそれを聞きただテレビを見ていた。泣くことはなく無心でテレビを見ていた。


「ねぇママ、ママ手をつなごっ」


そういって差し出す手はなく私は揺れる母の手を掴んだ。だけどそれは振り払われ


「あんたの手ベタベタして気持ち悪い」


それでも私は文句を言って手をつなぎ続けた。母は諦めたのかそれ以上は何も言わず買い物を続ける。ふと視界にカートに乗った子供が目に入ると、母は「あれに座らせれば良かった」と呟き買い物を済ませた。


「あれ陽菜にはキツイからヤダ」


そういう私の顔は笑っていたのだろうと思う。でもその視界に母を映すことはなくただ買い物客を見つめていた。


「ねぇママ、ママ抱っこして!」


買い物に行くと必ず子供を抱きかかえる家族を見る。重たそうに抱えるお母さん、兄弟に抱っことせがまれ囲まれるお父さん。いつしか私は母のことを「ママ、ママ」と連呼していた。一度では反応しない、その事実に少なからずショックを受けていたのだろうかそれはずっと続いていた。


「ねぇママ、ママなんで陽菜と一緒に住んでくれないの?」


一度も聞くことはできなかった言葉をノートに書いた。あれから母は私と住むことは無くなった。祖父が死にいつも喧嘩してしまう祖母との三人暮らしは嫌だったのだろうかわからない。だけど週末は必ず会いに帰ってきてどこかに連れて行ってくれる。母に愛している、好きだ大切だなんて言葉はもらえない。祖母が叔母が文句を言てもみな同じような性格だから喚き散らし喧嘩を始めてしまう。でもその言葉の中に「不細工なんだもん」「面倒じゃん」「可愛くない」そんな言葉が紛れていたのを隣の部屋でテレビを見ながら聞いていた。お気に入りのアニメを大音量で聞く。テレビの音量を上げる癖がついてしまったのはこのせいだろうか、三人の口論をかき消してくれるこの音が、非現実想像が心地よかったのだろうか。記憶ではその時の私の顔は分からない。だけど涙を流すことはなかったようだ。


「パパどうしてママとパパは一緒にいないの?」


これも聞けなかった言葉でノートの端にかいた呟き。今の私ルクレツィアから見れば私はとても空気の読める子供だった。気まずくなる、困ってしまう会話は決してしていなかったし我儘も顔を見ながら、断れれば泣くわけでも喚くわけでもなく文句を言ってそれで終わり。ただ一度だけ失敗があった。父がお正月に実家の集まりに連れて行ったくれたのだ。いとこたちとの、叔父さん叔母さんたちとのお正月は笑い声の絶えない、今まで母方のお正月との違いに愕然とした。それを体験したはどう思ったのだろうか。そして言ってしまったのだ。


「え、今年から大晦日行けないの!?」

「ごめんね。パパの仕事が忙しくて空いてないんだ」

「そっか……うち母方の正月は楽しくないからヤダな」


呟いた言葉は静かな車の中では父の耳に入るには十分で…ただ「ごめんね」と言って頭を撫でられた。父はよく私の頭を撫でていた。今の私ルクレツィアは師匠に撫でられ好きになったと思っていたけど、無意識のうちに撫でられることを求めていたのかもしれない。



母はよく私や祖母に「人には迷惑をかけるな」と言っていた。祖母が事故にあい死んだ時


「死ぬときは一人で死になさい。人に迷惑を掛けたら駄目。人を殺してしまうなんて論外」


この時私は何も言わなかった。ただ水玉模様に濡れる地面を見つめ風で揺れる葉の音を聞いていた。台風が近づいていると会話した祖母。祖母に育てられた私が静かに泣いていたことが印象的だった。

それ以降その言葉を聞き続けていたからか私は人に心から頼ることはなかったんだと思う。簡単な資料作りなんかは手伝ってもらったりしていたけど、悩みの相談や人が面倒におもうことを手伝って欲しいとは言っていない。言ってはいけないと思っていたのだろうか、なまじ器用で何でも出来てしまっていたからか頼る必要もなかったのだろうか。




それから大きくなっていくにつれ家族に固執することがなくなったのかフラフラとで歩く日々が続いた。その頃には容姿も変わり母に「可愛くない」と言われた顔も、周囲には逆の意見が返ってくる。そうして心の寂しさを紛らわそうとしているのか、私は色々な男のもとに居た。

ここまでくれば幼いルクレツィアの心も純粋な子供のそれとは言えず、暗い部屋の熱をただ平然と受け入れていた。特に執着することはなく色々なの所を渡り歩き家に帰らない日々が続いていた。

そんな中でも私を見捨てなかった幼馴染により高校に進学し、今までのいい加減な人生をやり直そうとしていたのだろう。自分を明るいところに救い出してくれた幼馴染には感謝しているし大好きだと伝えると、彼は真剣な顔で私に告白した。だが私は彼に友愛はあれど情愛を抱くことはなかったことを伝えるが、それでもといいと、傍にいたいと言われた。それでも断った私をは不思議に思った。


「自分みたいなやつが一緒にいて、君を汚すことなんてできない」


一人部屋で放ったその呟きがの頭をガツンと殴り衝撃がルクレツィアの精神を襲った。

これが今のを形成した最たる理由だろう。家族の寂しさを知り人に迷惑をかけないこと嫌われない失わない自分いい子であれ、まだ初恋とも理解できなかった淡い気持ちを持った瞬間それを手放さなければいけないかもしれない事例を作るな。空気を読み自然な愛される子であると演じるのではない。そうなのだと自分を偽れ、なりきれ。そんな子供キャラだろう?





この気持ちは陽菜も同じだったのだろうか





ある日、家族は死んだ。家族だけじゃなく友達も知らない人もみんなみんな消えてしまった。


「陽菜ちゃん大変だったわね」


遠くに住んでいた叔母に引き取られた私はから見ると人格が変わったかのようだった。


「お母さん、お父さん私一人でも頑張るから心配しなくても大丈夫だよ」


悲劇のヒロイン、健気ないい娘、愛された子供、そんなふうに見えたの心は誰なのだろう。
飲み込まれそうな不快感にルクレツィアは考えることをやめた。











ーーーーーーーーー
話が重すぎてすみませんっ

次回 剣と槍
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