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第二章 破滅の赤

牢屋でお茶会

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「そう言えばお二人はおいくつなんですか?ちなみに私はあと数か月で5歳になります」

「なら同じだな。俺はつい先日誕生日を迎えた」

「私も既に五歳よ。というか貴方さっきのあれは何!?この国の大魔導士ですらこんなこと出来やしないわ…」


ルクレツィアは魔力が多い子供は見た目と年齢が釣り合っていない場合があると知っていたため、二人の魔力量ではその問題はない事を理解した。のほほんとお茶を楽しむルクレツィアのペースに飲まれかけていた二人だが、目の前の非現実的な状況にハッとし先ほどの魔法について問い詰めた。


「え?いやいや確かに併用は私も習得するのに苦労しましたがそこまで使ってる魔法は特に難しいものでは…」

「そうじゃないの貴方この国の人間ではないわよね?実際にこの国の魔法を見たらそれが普通じゃないことが分かるわよ!」

「まぁまぁ落ち着いて。ルカ、僕らの常識じゃ魔法は効果の大小によって長さは変わるけど必ず詠唱をするんだよ。そして得られる効果は人によって違う。それぞれ属性が決まっていて大抵は一人一属性、まぁ平民はそもそも魔力が少なく滅多にいないんだけどね。そしてリリーや俺が驚いたのは君がどの属性にも当てはまらない魔法、それも無詠唱で複数行使したからなんだ。…ねぇルカはどこから来たの?この国の外はその方法が当たり前なの?」


二人の誤魔化すことは許さないという真剣な視線を受けルクレツィアは悩む。元々なぜ自分から誘拐されようとしたのかを説明するはずが二人は完全に魔法に気がそれている。しばらく悩んだ末ルクレツィアはあることを思いついた。


「まず私の話をしましょう。それと本来説明しようとしていた誘拐されようとしていた理由も。リリーの言うように私はこの国の者ではありません。ですが幼い頃から師と森で暮らしていたのでどこの国出身かは知らず答えようがないのです。今回私がこの国を訪れた…飛ばされた?理由は師に勧められた書物禁書を開いたらこの国の山に居たからです。多分転移だと思うんですが帰り方が分からずおそらく師の修行の一環だと思うので生き抜いてやろうと思っています」

「えぇぇ…貴方のお師匠様中々鬼畜ね。それでどうして誘拐に繋がるの?どこかのお金持ちの家にでも買われようと?確かに貴方は売れるだろうけど…その見た目じゃ逆に危ない趣向の方に買われていかがわ「なるほど君くらい強ければ犯罪組織に乗り込んでこっそり一財産儲けることも可能だろうね。まぁその話を信じればだけど」

「ちょっとツヴァイどうしてそんなこと言うのよ」

「いえ慎重になることはいい事です。そしてその仮定は正解ですよ、やはりツヴァイは私と同じ悪人志向ですね!」

「ねぇリリーこいつを助けようとしたのは失敗かもしれない、人生のね。思考が犯罪者のそれだよ」

「それを言い当てたツヴァイに言われたくないでーす。それに私は『悪いことしてると仕返しされちゃうんだぞ!』という考えを教えてあげようという…そう慈善活動です。題して『因果応報お前のものは俺のもの計画』です。そのお礼にお金を根こそぎ頂こうとしていただけなのです」

「なるほど建前は十分だ」

「貴方達『慈善活動』って意味を一度辞書で確認すべきよ、あと正規の手はずを踏まないと例え犯罪者組織だとしてもお金を盗めば略奪とみなされ捕まるんだからね。気づかれないよう宝石には手を出さず現金を少しだけ盗むのよ。もしくは派手に暴れて騎士団を呼ぶの。活躍すれば合法的に褒章お金が入るわ」

「「なるほど流石ボス」」

『おいツッコミが不在だぞ』

『ラトは主様が幸せそうだから気にしないのです』


ルクレツィアは同世代との交流にいつになく興奮していた。今まで捻くれた老人やら口を開けば生意気なことを宣う従者二人、家族のようなのほほんとした会話や意地悪なからかいなどをしてくる精霊たち、そもそもお茶の席に着きたがらないペットなどルクレツィアのお茶の相手は身内だけのものであった。前世の記憶として友人との会話のテンポや話題を知ってはいたが今世ではその経験が全くない。そもそも人間が師であるゴルバチョフしかいないため人のコミュニケーションとやらがよく分からないのだ。そのためツヴァイとリリーにとっては得体のしれない少女との手に汗握る会話交渉であるのに対し、ルクレツィアは裏を読み読み当てられるこの化かし合いお茶会を楽しんでいたのだった。しかしツヴァイは終始人当たりのよさそうな笑みを浮かべていたがその背はグッショリと汗をかきカラカラの口を潤すように唾を飲み込んだ。


「ふぅお二人ともそんな警戒されなくとも毒なんて仕込んでませんよ?まぁ現状私が怪しすぎるのが悪いんですけど…とりあえず私がお二人の脅威であることは変わりないですし武器をお渡ししましょう」

パチンッ

「「なっ!」」


ルクレツィアが指を鳴らすと二人についていた首枷が消えた。二人は突然軽くなった首元に驚き、目を見開き思わず首に手を当てる。『これで魔法が使えるでしょう』と言わんばかりのルクレツィアを見て二人は目を合わせ頷くと恐る恐る口を開いた。


「偉大なる火のミコトよ我が魔力を捧ぐ《火華の癒し》」

「偉大なる火のミコトよ燃え舞う炎よ我が魔力を捧ぐ《火翔の鳥》」


リリーの魔法により柔らかなオレンジの炎で出来た花が目の前のカップに落ち浮かんだ。沸騰するわけでも熱くなるわけでもなくしばらくすると溶けて消えてしまった。リリーはそれを見てほっとしたように息を吐いた。ツヴァイは詠唱を終えると肩に赤く燃え盛る炎を纏った鳥が止まり頬に頭を擦り付けていた。見た目とは裏腹にツヴァイには火傷のあと一つなく熱さを感じていないようだった。そんな二人をルクレツィアはいつの間にか閉じていた目を開け二人の様子をじっと見つめる。口元は笑みを浮かべているが何か考えている様子であったが、突然申し訳なさそうに眉を下げるリリーに驚きキョトンと首を傾げた。


「ルカ疑ってごめんなさい。確かに貴方の入れてくれたお茶に問題はなかったわ…せっかく入れてくれたのに…ごめんなさい」

「ぇ、いえいえ疑うのが正解ですから気にしないでください!」

「そうだよリリー謝る必要ない、どうせルカは僕たちがどう出るか様子を見ようとしてやっていたことなんだから。あーあ僕自分でも結構優秀だと思ってたのにへこむ。ねぇ人を威圧するのって魔法だったりする?」


ツヴァイは先ほどまでルクレツィアと裏の読み合いをしていた様子とは打って変わり、不貞腐れたように背もたれに身体を預けた。だがその視線はルクレツィアをしっかり向け答えを待っていた。リリーはその態度に驚きジッと見つめツヴァイの考えを読もうとしているようだった。反対にルクレツィアはリリーの反応に気にしないでほしいと両手を体の前で振っていたが、ツヴァイの確信めいた質問にニヤリと笑い返すだけだった。


「あーやだやだ、何でも知ってますって顔しやがってむかつく。んでたちはお目にかかりましたか異国の魔法師様?出来れば生きて家に帰りたいんですがそこんところどうお考えで?」


ツヴァイは背もたれに預けていた体を起こし机に頬付くと前髪を掴みクシャッと乱した。悔しそうなそれでいて好奇心を隠せていない瞳で見つめ片方の口の端を上げ笑う。


「ふふっではあと一つ。二人の身分と名前、姿を嘘偽りなく教えてください」

指を一本立て可愛らしく傾げた顔にそえる姿はとても愛らしく見る者を魅了するが、ツヴァイはその見た目に騙されてはいけないことを既に理解している。今の自分では目の前に優雅に座る人形のような美しい悪魔少女に勝てない。流石に心が読めるなんてことは無いだろうが間違いなく嘘を見抜くことが出来る観察眼を持っているだろう。こちらをじっと見つめる紫の瞳は美しく宝石のようでありながらもどう出るか試しているのが分かる挑発的な感情が見え隠れする。ツヴァイは隣に座るリリーを見ると膝の上で固く握り絞められてる小さな手を握る。緊張し考え込んでいたリリーは手を握られたことでハッと顔を上げる。二人の視線が重なると答えは出たのか頷きルクレツィアの目をしっかりと見つめた。


「「【解除】」」


二人の姿が少しズレたかと思えばそこには真っ赤に燃えがる炎のような髪と瞳の少年と、咲き誇るバラのような深紅の髪と瞳の少女が居た。























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ルクレツィアが滅茶苦茶悪役に見える

次回 魔法使いの少年少女
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