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第36話 小学生なみ
しおりを挟む多分僕はチョロいんだと思う。それは凄く自覚してる。
だから好きな人に自分の気持ちをすぐ悟られるし、すぐ落とされる。極めつけは浮気もされる。それに付け込んでくる猛者にもすぐ尻尾振っちゃう。あーあ。
――――わかってるけど、よく言えば素直、悪く言えば尻軽なんだよね。
なんとなくモヤモヤを抱えたまま、僕は筋トレに勤しんだ。
自分をいじめてると、その瞬間だけはモヤモヤが消える(それどころじゃなくなる)。そう考えれば、やっぱりジムは楽しいね。
「さて、僕からはこれくらいです。後はランニングでもバイクでも、鮎川さんのお好みで」
「ああ、うん。今日もありがとう」
「なんか今日はすごくスムーズに行きましたね。あ、そうか。神崎さんからのちょっかいがなかったからだ」
うっ。これわざとじゃないよね? いや、絶対わかってて言ってるな。
「え? あ、そう言えば今日は来てないんじゃない?」
なんてすっとぼけてみた。タオルで汗を拭きながら表情を隠す。
「いや、来てますよ。はあ、なるほどお」
舞原さんは形の良い顎を右手でなぞる。なにがなるほどだよ。
「これ罠ですよ。神崎さんもずいぶん古典的な手を使うなあ。こんなの中学生だって引っ掛かりませんよ」
どうせ僕は小学生なみですよ。
「エアロバイクにするよ。じゃあまた火曜日お願いするね」
応じる気分にもならず、僕はさっさとその場を去った。窓際にずらっと並ぶエアロバイク。数人の会員が各々のス
タイルでペダルを漕いでいる。神崎さんの姿はなかった。
――――ま、その小学生なみの手法なら、敢えて僕の隣にはこないだろ。
そう思うと残念よりもホッとするのが本音だ。僕はいつも『大体この辺』で漕いでるバイクに跨った。
結局、予想通りというか、エアロバイクに神崎さんは現れなかった。いや、正確に言うと隣に来なかっただけだ。
随分離れた場所で漕いでる姿を、バイク終了後に見かけた。完全に避けられたってこと。
――――確かに露骨だよね。僕に興味がなくなったんならそれはそれで構わないよ。
言いながら、降りてから目が探してた。それで見つけたわけだから。
シャワーを浴びながら、この複雑に絡んでいる僕の気持ちを洗い流す。流せるものならば。
今朝、家を出るギリギリまで九条さんの電話を待っていた。僕が家を出る午前10時は、パリの深夜3時頃だからさすがにもう電話はかかってこない。
――――寂しいとか、もう考えないようにしよう。あの美青年のことも……関係ない。
汗を流して幾分スッキリした。スキップまではいかないけど、足取り軽く駐車場に向かう。エレベーターのドアが開き、ホールに出てすぐ僕は固まった。
そこにはライトブラウンの髪にヘーゼルアイを持つ男。神崎さんが笑みを浮かべて待っていた。
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