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第65話 エモいセリフ

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 不思議な感覚だった。ロミオ……もとい、舞原さんにあんなセクシーな表情出来るなんて。
 正直、年齢よりもガキみたいに思ってた。ドSの陽キャ。確かにつかみどころのない人物とは思ってたけど、それはこういう意味じゃなくて。子供っぽいとこもあるし、天然発言もある。
 総じて何考えてるのかわからないってことで。

「どうしたの? 今日は上の空だね。彼のことでも思ってる?」

 神崎さんの長い指が僕の頬を撫ぜる。ふと目を向けると、二つのヘーゼルアイが僕を愛おしそうに見つめていた。

「あ、ううん。まさか」

 でも他の男のことを考えてたのは当たりだ。ダブルベッドの上、肌触りのいいシーツが心地よい。神崎さんの厚い胸板が覆いかぶさってくると、僕は自然と背中に手を回す。

「いいんだよ? 考えてても。私はあの男みたいに独占欲強くない」

 こめかみのあたりにキスをして、僕の大事なところに手を伸ばす。

「あん……それって、逆に聞こえる」
「え? ふふふ。さすが作家さんだ。よくわかってる」

 今度は濃厚な口づけを交わす。右手は動きを止めずに忙しい。気持ちよくて、僕は足を神崎さんの足に絡めた。

「今、何を考えてます?」
「意地悪……あなたのことに決まってる……あ……んん」

 嘘か本当か。誰にもわからないことをどうして聞くんだろう。

「私も……あなたのことだけを考えてますよ」

 ――――嘘ばっかり……。

 煌めくような瞬間を味わいながら、僕は心の中でそっと呟いた。



 今、僕はPCの前に座って画面とにらめっこしてる。神崎さんとのデートの翌日。つまり土曜日の朝だ。
 昨日の舞原さんの印象が消えなくて、これをなんとかロミオに落とし込みたいと思案中なのだ。突然キャラ変するんじゃなくて、徐々に引き出していきたい。彼はまだ登場したばかりだからここからが肝心なところだ。

 ――――昨日の神崎さんとのデートも良かったな……。ああいうセリフ、どうして思いつくんだろう。

 神崎さんは僕のこと、『さすが作家さん』とか言ってたけど、自分の方がずっとエモいセリフを吐いてるよ。参考にしたいけど、僕は官能小説書かないからなあ。

 九条さんとの獣のような荒々しいセックスも素敵だし、神崎さんとの知的遊びのようなのも好きだ。この両極端なところが堪らない……。
 もう完全に人間失格の域に達してるな、僕は。これでいいわけない。絶対良くない。わかってるけど……。
 
 そう、こんなことは長くは続かない。三者三葉、脛に傷持つ者同士であっても。その終わりは突然、クリスマス気分が抜けない師走の終わりにやってきた。




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