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人それぞれの企みと行動……。8

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「という感じで、私はローレンスの根本的な性格を変えたい。だから、ローレンスの一番問題になっている過去を私は知りたいんだ」
「…………」
「……すー、すー」

 私の感情補正も入った無駄に長い話に、オスカーはたまに気になった点を私に質問しつつ、難しい顔をして聞いた。

 そんな私たちにディックは今日の出来事で余程、疲れてしまっていたようでオスカーの肩に頭を預けながら眠ってしまった。

 それだけ私はべらべらと喋っていたのだ、それはもう口が疲れるぐらいには。

 オスカーは冷えきったカモミールティーを飲んで、自分の肩に寄りかかってすっかり眠ってしまったディックを少し乱暴に引っ張って、ソファに横にならせ、自分の腿を枕にしてやった。

 男同士の膝枕状態など、年の離れた兄弟ぐらいでなければやらないだろと思いつつ、真剣に考えてくれているオスカーにそんな事は言えずに、私もお茶を飲む。

「…………おおかたは理解した……それで“保険”なんだな。手は悪くねぇが、詰めが甘いだろ」
「?……何の話」
「いや、こっちの話だ。とにかく、お前の気持ちも、ローレンス殿下の人となりも少しは把握できたな。それで、今探してんのは、そのローレンス殿下の一番重要視している過去って奴か。それが分かればお前は、論破できると」
「……多分ね、そうだと思う」
「それでお前、それを素直に受け取って、過去探しの旅にでも出るつもりかよ」
「え?いや、出ないけど……でも、過去って言っても色々あるし、誰から話を聞いたらいいのか考えてる」

 オスカーの少し、バカにしたような態度に、何か変な事を言っただろうか?と首を傾げる。けれど彼は、そんな私に少し悪い笑みを浮かべる。

「なら、一番信頼しているお前の身近な奴から、殿下の過去の話を聞け。そんでな、その次はそいつが聞くべきだと思う相手に聞いたらいい」
「身近……ヴィンスかな」
「まぁ、それは誰でもいいがな。そうやって話を聞いてくだろ。そうすると他人視点からの重要な過去ってのが上がってくるな?」
「……うん」
「ただ、それはな、ブラフだと俺は思う。所詮、答えなんて本人の心の中以外ねぇだろ」
 
 最後に自分のさきほどまでの発言をまるで、意味がなかったかのようにそう言って、ティーカップをソーサーにおいて、ディックの髪を片手で弄ぶ。

「それは……そうだけど」
「だろ、どうせ他人から、得られる情報なんてな、本人が話をする時に言ってる本音の十分の一も無い。お前は別に、事実を暴く記者じゃねぇんだ。殿下の中身を知りたいんなら、結局お前が話すのはローレンス殿下だろ」
「…………確かに」

 オスカーに言われて納得してしまう。すっかり、他人からローレンスの事を全部聞いて、それで彼を理解できるような気がしていたのだが、そんなはずがない。

 あの奇っ怪な人の事を全部わかっている人なんているはずがないのだ。

「だからな、お前は、話を聞いた振りをして、全部わかったつう顔して、やつの前に立つだけでいいだろ」

 彼は、少し興奮気味に言う。ローレンスの事をやつよばわりは普段しないのだが、指摘する間もなく続ける。

「そうすりゃ、折れんじゃねぇのか?だってあの王子様はお前に愛されたいんだろ?」
「…………そう、なの?」
「さぁな」

 私にも分からない事を言われて、聞き返せばオスカーはあっさりと言う。

 ……それはいいとしてだ、でも、それだと、私がローレンスに何か言って、なんかこう色々として、解決しようとしていた話が一気に簡単な作業になってしまう。

 それに、わかった振りで本当にいいのだろうか、だってあのローレンスだ。それだけでは駄目な気がしてしまう。

「でも、それだと……なんて言うか。……確かに、どんな事が自分にどんな影響があったかなんて自分にしか分からないけど、出来るだけ知ってから話した方が……」
「出来るだけ知ってからっつうのは賛成だが…………はぁ、お前なぁ。言葉の意味をそのまま受け取り過ぎじゃなねぇ?」
「どういう事?」

 きょとんとする私に、オスカーは、目を細めて少し、睨むようにして言う。

「そんだけ計算高い、性格の悪いやつがな……曖昧だが、本音で、言ったんだろ。クレアが全部知って問い詰めて来たら、自分の行動原理は瓦解するって」
「うん、まぁ、そんな感じ」
「ならそれは、他人がやっても同じ事になんのか?」

 他人というのは私以外と言うこと?

 それは……どうだろう。そんな事をローレンス相手にしたら、乱暴どころの騒ぎではなく、たぶん事件だ。

 そこまで考えてようやくオスカーが言いたいことに気がついた。

 ……つまりオスカーは、私はもう既に、ローレンスに望まれていると言いたいのだろう。

「…………オスカーは、ローレンスは私だからそうすることを許してくれるっていいたいの」
「そうだな。だって、今までの話聞いてっと、どう考えても、ローレンス殿下は……お前に自分のどうしようもない悪癖を変えてほしんだろ。だから、隙なく過去も知っとけって思ってんだ」
「……」
「ただな、ローレンス殿下自身も随分自分に鈍感だろ?だから、その気持ち自体自覚がねぇのかもな。それでも、他人から見ればそうみえんだよ」

 オスカーが言えば言うほど、納得がいってしまい、確かに、ローレンスは絶対に自覚が無さそうだと思うし、危うく私も、彼の過去探しの旅に出るところだったと反省した。

 過去の話は聞きに行く。けれど、一番、重きを置かなきゃいけないのは、ローレンス本人だ。それを忘れるところだった。

「まぁ、とにかくお前はやれる事だけやって、早くまた奴に会ってこい。それでもまだ、呪いの力が欲しいなんて言うなら、その後また考えたらいいだろ?」
「…………うん……ありがと。オスカー。やっぱり、相談は貴方に限るね」
「チッ、ご名誉な事だが、お前もっと、従者と騎士に相談しろ。正直な、俺よりは事情に詳しいだろ?」
「うーん、そうなんだけどね。……やっぱり、浮気相手との恋愛感情とか相談するのは……どうなのかなって」

 もっともな指摘に、素直に答える。私の返答にオスカーはぱちぱちと瞬きをして「は?」と少し間の抜けた返答を返す。

 言っていなかっただろうか、私は今、三人の彼氏がいる三又女なのだ。わざわざ公言もしていなかったので、オスカーが知らなくても無理はない。

「……お前それ……今更だろ」
「?」

 彼は少し身を乗り出していい、膝の上に頭の乗せていたディックは少し身動ぎする。それを強引にわしわしと頭を撫でて再度寝かし付けながらオスカーは、少し声のトーンを抑えて言った。

「だいぶ前から、クリスティアンと、あいつら不憫だよなって話してたからな?」
「……ふ、不憫って?」
「最終的にローレンス殿下にもってかれんもの確かに不憫だが、ずっと、ヴィンスの方も、サディアスの方も分かりやすかっただろ?」
    
 そんな事を言われても私は、ちょっと前まで、チェルシーがサディアスの事を好きだと思っていたから、まったく眼中になかったし、ヴィンスは、友達とか、恋人とかすっ飛ばして家族枠である。

「まったく気が付かれないまま、お前が色んなことに巻き込まれて何だかんだ苦労してんのあいつらだろ?」

 ……確かにいろいろと迷惑はかけているけれども。

「あいつらの恋心踏みにじってんのは今更なんだから、お前はさっさと、なんでも相談して、身の振り方考えろよ」
「ふ、踏みにじって……え、踏みにじっては…………いるか」

 そんな酷いことしてない!と否定したかったのだが、確かに踏みにじっていると言われれば踏みにじってるのだから仕方がない。

「だろ?……結局、お前がどうにかなって一蓮托生なのは、ヴィンスとサディアスだ。不安にさせとくと地盤が崩れるからな。いちばん厄介だ。きっちり取り込んで捕まえとけ」

 かっこよくそう言われて、なんだか、オスカーは私と別の世界線で生きているのでは無いかと思うぐらい、絶妙な言葉のニュアンスの違いを感じるのだが、彼に取って愛や情でたらしこんだ相手には、そういう価値観なのだろう。

 少しならがら、ディックが心配になったが、それはまぁ、何かあったら今度は私が二人の相談相手になろうと決めつつ、うんうんと頷く。

 そのまま、オスカーとは細々としたことを話したが、結局彼は、部屋に来た時に負っていた怪我について触れることはなかった。



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