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オマケ
私の前世
しおりを挟む小学校高学年生だった私は、教室内にあった共同図書の棚で、一冊のBL本に出会った。
共同図書の棚というのは、ここにある本は誰でも自由に読んでいい。持ち帰って読んでもいいけど読んだら棚に返してね。というルールの下、各自が持ち寄った本が置いてある場所である。
そこに誰が置いたか分からないがBLのアンソロジー本があった。小説と漫画とが混ざったオリジナルアンソロジーだった。
タイトルは『萌え男子 ぼく男の子なのに女の子みたいになっちゃいます スクール編』
サブタイトルには『俺様生徒会長×男の娘』や『風紀委員長×下っ端チワワ男子』など、少々ショタ臭かった。
だが、立ち読んでみれば、そこには未知の世界が展開されていて私は大興奮した。
内容が内容だけにその場で読みづらくなって、その本は家に持ち帰って読んだ。
翌日には棚へ返却した。
返却しているところをクラスメート数人に見られ、こそこそ指差して嗤っていることには気づいていた。
ああ、あの人たちもこのBL本を読んだのだなと、その程度に思っていた。
BL本は女子に人気だった。さもありなん。
男子は目もくれず、一部文系女子に回し読みされ、この教室の共同図書にはBL本が置いてあると他のクラスにも知れ渡るのに、そう時間はかからなかった。
「誰ですか、こんな本を棚に置いたのは……!」
とうとう問題になった。露骨な性描写が描かれているのだ。普通に考えてアウトだろう。
担任の女教師は噴煙上げて怒っていた。
おそらく主任教師あたりから叱責されたのだろう。
なぜ担任であるお前が有害図書の存在を知らないのだと。
共同図書の棚に置いていい本の管理は担任がしているはずだった。
誰もが好きな本を置けるが、それには担任の許可が必要なのだ。当たり前だけど管理責任者ってのはいる。それが担任の女教師だ。
けれど担任はそれを怠った。皆が好き勝手に本を置いていたのにチェックしなかった。
「みんな良い子だから安心だわ」というのが担任の口癖だった。脳みそお花畑教諭である。
その脳みそに花が咲いてた担任は、一たび問題が起こった今、自分のことを棚に上げて子供たちを責めてきた。
クラスの中から犯人を探そうと躍起になっていた。
「良い子たちの中に悪魔がいたわ!」と、わけわからんことも叫んでいた。
「私は信じていたのに……! 信じていたからこそあなたたちの自由にさせたのに……!」と、錯乱して喚いていた。
責任転嫁もいいところだ。だけど生徒にとったら、先生をこんなに乱してしまったのは我々の所為だ的な雰囲気になっていた。
誰も、先生の所為だとは詰らなかった。このことだけ鑑みれば、確かにこのクラスの子たちは良い子たちが多かったのだろう。
良い子たちの代表、クラス委員長の女の子が言った。
「はい。私、朱宮さんが本を置いているところを見ました」と。
朱宮とは私のことだ。私の名前は朱宮茉莉。
クラスメイトからは苗字で呼ばれていた。名前で呼んでくれるような親しい友達はこのクラスにはいなかった。
私は犯人に祭り上げられた。
本を置いたのは私ではないというのに。
弁解はさせてもらえなかった。
本を返却しているところをクラスメートの女子たちに見られていたからだ。
女子たちは口々に言った。
「私も置いてるところ見た」
「朱宮さんだよ」
「その本、持って来て置いたの私たちが見たもの」
「先生、犯人は朱宮さんでーす」
担任は彼女たちの言い分を信じた。
私には罰として一週間の奴隷当番が科せられた。
奴隷当番とは、クラスの係りの仕事、どれでも肩代わりさせられる雑役当番のことである。
はっきり言って虐めである。
しかも先生ぐるみの虐めである。
アホらしい。
奴隷にされた翌日は学校へ行かなかった。
母にそのことを伝えたら、母も、「そんな学校、行かなくてよろしい」と言ってくれた。
しばらくして、担任の女教師は学校から居なくなった。どこか余所の学校へ移ったとも、退職したとも噂は聞いたが、真実は知らない。
その噂話を持ってきたのはクラスメートの女子たちだ。わざわざ我が家まで来て、ピーチクパーチク喚き立てた。
「朱宮さんが学校来ないのは私たちのせいじゃない」
「先生が居なくなったのも私たちのせいじゃない」
「朱宮さんを犯人にしたのは委員長だ」
「委員長が言ったからそうだと思って」
というのが彼女たちの言い訳だった。あくまでも自分たちは悪くないとの主張だ。
そして責任転嫁。最初に声を上げた委員長が悪いと愚痴ってから、帰って行った。
何しに来たんだおまへら。
次の日も私は登校しなかった。あくる日も、その次の日も、もう二度と、学校へは行かなかった。
学校にも行かず何をやっていたかというと、漫画を読んでアニメを観て過ごしていた。その内にアニメ絵を描き出し、推しカプをつくり、漫画にして薄い本をネット販売し始めた。
家から一歩も出ずに同人活動だ。ひゃほーう。今日もポテチうめー。
以上が私の、『ヒキコオッターフジョシ』になった顛末である。
*
どうしたアンソニー?
急に顔伏せて、机に突っ伏して。
「いやだって、普通の女の子ならメンタルごりごり削られる案件だろ今のは……。それを淡々と振り返りつつも、あっさり綺麗に纏めて脳内で披露してくれるから、何事かと思った」
勝手に私の脳内を読んだのアンソニーですが。お前も責任転嫁が甚だしいな。
「だからどうして雄々しいのマリちゃんは。俺の嫁はどうしてこんなに面白いかなあ」
そこで、くふくふ笑えるアンソニーが何を考えているかなんて大体わかるよ。
私のこと、クンクンしてハスハスしてペロペロしたいのだろう。そうだろう。18禁BLの薄い本のように薄い本のように……!
「分かってるなら話が早い。マリちゃん、愛してるよ」
「……………………ぷぅ」
真っ直ぐこっち見て言うなアンソニー。
「なんだよ、ぷぅって! なんだよもう、もう! たまに喋っても面白いんだからマリちゃんはもう俺にいたずらされるべきだと思うな!」
ひやああこっちくんな変態、手をわきわきさせるな! ロープ! ロープ見えてる!
「大丈夫。逃げなければ縛らないから」
逃げたら縛る気満々ですなこのオラつき俺様騎士めええ!
この前のガーディナーズ・フェスティバルでのパレード、めっちゃ格好良かったわ! あれがうちの旦那だと思うと鼻から汁が垂れてきおったわ!
「罵りながら褒められた。ありがとう」
通常営業すぐるアンソニー……!
夫婦になっても変わらないアンソニーが素敵すぎて眩暈起こしそう。
「俺の方こそ、夫婦になっても変わらないマリちゃんが好きだよ」
ひいんイケボ……イケメンボイスが私の耳を犯しにかかってくる。
そのまま夜まで待てないアンソニーに美味しくいただかれたのは言うまでもない。
合掌。
応援ありがとうございます!
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「妄想具現化」スキル欲しすぎる人生だった……_:(´ཀ`」 ∠):
心の底からの願望をありがとうございます( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )わたしもほすい
異世界転生したらきっと手に入りますよ!ww
鬼畜眼鏡「いつから本物だと思っていた?」
『妄想具現化』を解除。
「。。。恐るべきスキルね、我が同士」
「3D大画面の威力だねー」
ひゃだ妄想具現化さんったら3Dだったの?wwww
スキル『いえすろりー(略)』が弱くなるのは当然でしょう。
だって育つから。 今後は『いえす奥さんNOよそ様』ですよ!
く、ほのぼのだと思ってたらえっちだった。(悪いとは言ってない無問題)
『いえす奥さんNOよそ様』!素晴らしい!
女には走らない眼鏡ですが、奥さんがアレなので男と絡ませようとしてくるかもしれません。とんだ夫婦になりそうですねw
えろくてすみませんʅ(◔౪◔ ) ʃ
感想ありがとうございました~!