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「見せたいものがあると言っただろ?ほら、こっちだ」
 ルーノ様に手を引かれ、生垣でできた迷路を進み、抜けた先には。
「綺麗……」
「だろう?」
 一面に広がる花の絨毯。
 それも、濃淡の違う紫色の花で模様が描かれている。
 紫の花の絨毯が広がっている。
 優しい春風に、さわさわと揺れる様子もとても可愛い。
 しばらく無言で美しい景色を見ていた。
「アイリーンに見せたかったんだ。この花、ヒヤシンスって言うんだ。本当は、黄色やピンクや白や赤、いろいろな色を咲かせるらしんだけど、あえて紫だけを植えてるんらしい」
 ポカーンとした顔で思わずルーノ様を見てしまった。
「詳しいんですね……」
 この間は薔薇くらいしか知らないと言っていたのに……。
「あはは。実は事前に教えてもらったんだ。花言葉も知っているぞ?紫の花ことばは『許してください』と『初恋のひたむきさ』だそうだ。なんでも神話がもとになった花言葉だそうだ」
 しゃがんで、ヒヤシンスの花をじっくりと眺めた。
 濃い紫色は、ルーノ様の瞳の色に似ている。
 室内では濃紺に見えたルーノ様の瞳は、太陽の元では動きによっては少し紫っぽく見えることもある。
 許してください……。
「庭師には積んでいいと許可をもらっているよ」
 私の隣にしゃがむルーノ様。
「花言葉を、もう一度教えて」
 横を向けば、ルーノ様の顔がすぐ近くにある。肩と肩が触れ合う。
「許してください」
 ルーノ様の口がゆっくりと花言葉を口にする。
 ルーノ様の瞳の色に一番近い濃い色のヒヤシンスを1つ摘む。
 5つほどの可憐な花のついたヒヤシンスを二人の前に差し出した。
「許してください……それから」
 ルーノ様が口にした花言葉を繰り返す。
「初恋の……ひたむきさ」
 ルーノ様がもう一つの花言葉を口にした。
 ルーノ様の瞳色をしたヒヤシンスを、チーフポケットに刺した。
「初恋のひたむきさ……」
 熱に浮かされたように、ルーノ様の言葉を繰り返す。
 チーフポケットにヒヤシンスを刺した手をルーノ様が握った。
「許してください……」
 ルーノ様から出た言葉に、続けた。
「許してください」
 誰に、何を許しを乞うのか。
 アイリーンのフリをして騙していること?
 それとも……ルーノ様を好きになってしまったこと?
 ルーノ様が私の手を口もとに持っていき、そっと指先に唇を押し当てる。
「許して、ください」
 好きですと言う言葉の代わりに、まるで呪文のように……口をついて出る言葉。
 ああ、紫のヒヤシンスは、どうしてそんな花言葉を持ったの?
 私のように……許されない恋をしてしまったの?
 ルーノ様が尚も、私の指先に唇を押し当てる。
「許してくれ……」
 ルーノ様は何に対して許しを請うというのか。
「俺には、君に何も与えることはできない……弟の愚かな罪の責任を取らなければならないのだ」
 弟の罪?
「私は……ルーノ様に何かをいただこうとは思っていません。宝石もドレスも……それから将来の約束も」
 ああと、ルーノ様が小さく頷いた。

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