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 中には大慌てで会場を出て行こうとする者もいる。
 陛下が商品の代金の未払いと言っていたので清算しに向かったのかもしれない。
 ふぅーと息を吐き出す。長居は無用だ。
 もう、子爵令嬢としてするべきことは終わった。
 アイリーンにひどいことをした人たちがどうなるかはどうでもいい。
 離婚されるのか廃嫡になるのか婚約破棄されるのか。お家取り潰しに降爵に……。聞き取り調査で切り返しいろいろな人にひどい行いをしていたら自業自得だろう。私は関係ない。
 ……それがたとえお父様であっても。
 ダンスホールから廊下に出たところで呼び止められる。
「ヴァイオレッタ、待って!」
 振り返るとハルーシュ様だ。
「先ほどは助けていただきありがとうございました」
 丁寧に頭を下げる。
「それは……当たり前のことをしただけで……それよりも」
 ハルーシュ様は切羽詰まった表情を見せた。
「アイリーンはどうしたの?なぜ、アイリーンもヴァイオレッタも、両方あなたで……アイリーンは姿を現さないの?」
「それは……」
「どうして?もしかして体調が悪いの?」
「あ、あの……」
「ヴァイオレッタが体調を崩して領地で静養していると噂で聞いたけれど……アイリーンはお茶会に出ているというし……お茶会に行って見ればアイリーンではなく本物のヴァイオレッタがアイリーンの姿をしていて……教えて欲しい、アイリーンが今どうしているのかだけでも」
 必死なハルーシュ様の様子に、アイリーンがとても愛されているのが分かった。
 だけど……。
 私の一存でアイリーンのことを伝えるわけにはいかない。
 もし、私がアイリーンだったら、このままひっそりと身を引こうと思っているはずだ。
「噂通り……領地で静養しているの。命に別状はないから……だけど、アイリーンからハルーシュ様に連絡を取りたいと言い出すまで待って。そっとしておいてあげてほしいの」
 ハルーシュが苦しそうに眉を寄せた。
「アイリーンが、そう言ったの?どうして……。兄が何かアイリーンに言ったの?」
 頭を横に振る。
「いいえ……。アイリーンの意思で。ハルーシュ様と最後にあった数日後に夜会で倒れて家に運ばれたの。それでしばらく静養することに……」
「倒れた……?」
 それは調べればきっと分かること。
 嘘は言っていない。
「では急ぎますので失礼いたします」
 小さく頭を下げて廊下をずんずんと進んでいく。
 すでに参加者は会場に入っているため、ほとんど人の姿はない。
 このままジョアン様が用意してくださった馬車に乗れば子爵家とは永遠にさようならになるはずだ。
 ヴァイオレッタともお別れ。私はソフィアンナとして生きる。
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