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終章 ゼンマイ
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二つの生物を創造してから早十日が経とうとしていた。
今ではもう、人間は子供を作り始めている。最初こそ自分がなぜこんな場所にいるのか戸惑っていたが、猿という生物が進化して自分たちが生まれたという記憶を埋め込んでいるため、案外すんなり生活するようになっていた。更に、神々が与えた異能、というより勝手に身体機能として備わってしまった魔法を使う者も現れ始めていた。それで火を扱ったり、水で喉を潤したりと、知恵を働かせる個体も多々が見受けるようになっている。
水の神、火の神、風の神、論理の神、等々。皆あの一件から人間を力で監視するようになり、その話題は時折神々の間でも浮上するようになっていた。
そんな中発足された会議。想像直前にクロノスが言った、贈与《ギフティッド》を誰に配るかが議題である。
全ての神が出席する会議は、開始早々混沌と化していた。
「はいはい! 俺この人間がいい! 可愛いくて守ってやりたくなるから!」
「私はこの子! イケメンだし、顔を傷つけてほしくないの! だからこの子よ!」
などと、好き勝手にいい連ねていた。大抵は静かにしているのだが、三割ほどの神が荒ぶることにより、会議の進行が滞ってしまっていたのだ。
「……どうしたものですかね」
「安心しろ、いつものことだ」
席は螺旋状に備わっている。その一番上の層に腕を組む厳格な雰囲気を漂わせている神が、息を吸った。
「静まれぇぇぇぇいいいいいい‼」
轟く絶叫。あまりにも多すぎる声量に、空間が怯む。びりびりと震えて、それに伴ってそれまで騒いでいた神たちも、皆一様に静寂になる。
全員が席に着いたことを確認した武の神――――ヅチァラは、その佇まいを崩さずに続ける。
「今回の議題はっ‼ 創造の神イザナキが作り出したどの人間に贈与を与えるかということであるっ‼」
声を張り上げるのが二回目でも、ヅチァラの声量は減退しなかった。むしろひとつ前よりも強くなっている気さえする。
クロノスは正直この馬鹿みたいにデカい声が嫌いと思っているが、会議が進むのなら……と、腹を括っていた。さらに言えばこれは彼の既定路線であり、避けては通れない道なのだ。
耳の穴に人差し指を突っ込みながら横に目をやると、同じく議会に出席していたベッセルも、手のひらで耳全体を覆っていた。
(まぁそりゃ、こんなん素で聴けるわけないわな)
耳を塞いでやっと耐えられる声量。それほどまでに、ヅチァラはうるさかった。
「今現在、この世界に存在する人間は約千名‼ そして、我が今からその者たち名前を呼んでいく‼ お前たちは贈与《ギフティッド》を与えたいものへ、各自好きに挙手せよ‼」
今も尚、空間は振動している。まるで空間が地震を起こしているかのように、空気が、激しく揺れ動いていた。
ヅチァラは少しだけ間隔を空けてから、手元にある髪を両手で持って、眼球を動かしてまたもや口を開いた。
「テルラ・ヴェイレス‼」
一人目、上がらない。
ヅチァラは周囲を満遍なく見渡し、手を挙げるものがいないと判断すると、次に移った。
「フェルマ・リーナール‼」
二人目も、上がらない。
彼の挙動は一人目と全く同じだった。
「メイ・クイントス‼」
三人目でようやく手が上がる。一人ではなく若干名。
「ではメイ・クイントスに贈与《ギフティッド》を授けるものとする‼」
ペンでその名の横に印をつけると……次に移行した。
そこから、概ねはこれの繰り返しであった。挙手する者がいなければ即座に次の名前を読み上げ、挙手する者がいればその人間に贈与《ギフティッド》を与えることをヅチァラが宣言し、また次の者を読み上げる。
ちなみに、授ける能力はランダムだ。指定してしまったら面白くないだろと神の間で意見があがったからである。
やがて千名すべての者の名前が挙がると、ヅチァラがその場を去って、会議は終幕を迎えた。名前を読み上げ挙手するものを確認するだけの単調な作業なはずなのに、ヅチァラの声量はこれっぽっちも落ちていなかった。
そんな事情あってか、それまで息を殺すようにしていた神々たちは肩の力を抜き始め、肩や首を回すなどしてみな疲労を訴えていた。
「会議が早く進むのはいいのだけど、やっぱり彼が司会をやると疲れるわね。誰かほかに人にしないかしら、イザナキくん」
ベッセルが長い髪を揺らしながら首を捻る。
「そうだな。今度会ったら頼んでみるか」
静寂が訪れる中、クロノスは周囲が転移《ワープ》していく様子を見て、ベッセルへと声を掛けた。
「帰るか」「帰りましょうか」
二人は顔を見合わせ、タイミングが合ったことへの驚きと、可笑しさを表情で出す。
その後、彼らは自分たちの家へと転移《ワープ》して、帰っていった。
今ではもう、人間は子供を作り始めている。最初こそ自分がなぜこんな場所にいるのか戸惑っていたが、猿という生物が進化して自分たちが生まれたという記憶を埋め込んでいるため、案外すんなり生活するようになっていた。更に、神々が与えた異能、というより勝手に身体機能として備わってしまった魔法を使う者も現れ始めていた。それで火を扱ったり、水で喉を潤したりと、知恵を働かせる個体も多々が見受けるようになっている。
水の神、火の神、風の神、論理の神、等々。皆あの一件から人間を力で監視するようになり、その話題は時折神々の間でも浮上するようになっていた。
そんな中発足された会議。想像直前にクロノスが言った、贈与《ギフティッド》を誰に配るかが議題である。
全ての神が出席する会議は、開始早々混沌と化していた。
「はいはい! 俺この人間がいい! 可愛いくて守ってやりたくなるから!」
「私はこの子! イケメンだし、顔を傷つけてほしくないの! だからこの子よ!」
などと、好き勝手にいい連ねていた。大抵は静かにしているのだが、三割ほどの神が荒ぶることにより、会議の進行が滞ってしまっていたのだ。
「……どうしたものですかね」
「安心しろ、いつものことだ」
席は螺旋状に備わっている。その一番上の層に腕を組む厳格な雰囲気を漂わせている神が、息を吸った。
「静まれぇぇぇぇいいいいいい‼」
轟く絶叫。あまりにも多すぎる声量に、空間が怯む。びりびりと震えて、それに伴ってそれまで騒いでいた神たちも、皆一様に静寂になる。
全員が席に着いたことを確認した武の神――――ヅチァラは、その佇まいを崩さずに続ける。
「今回の議題はっ‼ 創造の神イザナキが作り出したどの人間に贈与を与えるかということであるっ‼」
声を張り上げるのが二回目でも、ヅチァラの声量は減退しなかった。むしろひとつ前よりも強くなっている気さえする。
クロノスは正直この馬鹿みたいにデカい声が嫌いと思っているが、会議が進むのなら……と、腹を括っていた。さらに言えばこれは彼の既定路線であり、避けては通れない道なのだ。
耳の穴に人差し指を突っ込みながら横に目をやると、同じく議会に出席していたベッセルも、手のひらで耳全体を覆っていた。
(まぁそりゃ、こんなん素で聴けるわけないわな)
耳を塞いでやっと耐えられる声量。それほどまでに、ヅチァラはうるさかった。
「今現在、この世界に存在する人間は約千名‼ そして、我が今からその者たち名前を呼んでいく‼ お前たちは贈与《ギフティッド》を与えたいものへ、各自好きに挙手せよ‼」
今も尚、空間は振動している。まるで空間が地震を起こしているかのように、空気が、激しく揺れ動いていた。
ヅチァラは少しだけ間隔を空けてから、手元にある髪を両手で持って、眼球を動かしてまたもや口を開いた。
「テルラ・ヴェイレス‼」
一人目、上がらない。
ヅチァラは周囲を満遍なく見渡し、手を挙げるものがいないと判断すると、次に移った。
「フェルマ・リーナール‼」
二人目も、上がらない。
彼の挙動は一人目と全く同じだった。
「メイ・クイントス‼」
三人目でようやく手が上がる。一人ではなく若干名。
「ではメイ・クイントスに贈与《ギフティッド》を授けるものとする‼」
ペンでその名の横に印をつけると……次に移行した。
そこから、概ねはこれの繰り返しであった。挙手する者がいなければ即座に次の名前を読み上げ、挙手する者がいればその人間に贈与《ギフティッド》を与えることをヅチァラが宣言し、また次の者を読み上げる。
ちなみに、授ける能力はランダムだ。指定してしまったら面白くないだろと神の間で意見があがったからである。
やがて千名すべての者の名前が挙がると、ヅチァラがその場を去って、会議は終幕を迎えた。名前を読み上げ挙手するものを確認するだけの単調な作業なはずなのに、ヅチァラの声量はこれっぽっちも落ちていなかった。
そんな事情あってか、それまで息を殺すようにしていた神々たちは肩の力を抜き始め、肩や首を回すなどしてみな疲労を訴えていた。
「会議が早く進むのはいいのだけど、やっぱり彼が司会をやると疲れるわね。誰かほかに人にしないかしら、イザナキくん」
ベッセルが長い髪を揺らしながら首を捻る。
「そうだな。今度会ったら頼んでみるか」
静寂が訪れる中、クロノスは周囲が転移《ワープ》していく様子を見て、ベッセルへと声を掛けた。
「帰るか」「帰りましょうか」
二人は顔を見合わせ、タイミングが合ったことへの驚きと、可笑しさを表情で出す。
その後、彼らは自分たちの家へと転移《ワープ》して、帰っていった。
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