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第玖話-オニ

オニ-9

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「それで、何が分かったんですか?」齋藤刑事の質問を無視し、長四郎は一川警部に尋ねる。
「どうすか? なんか出そうっすか?」
「なんせ、過去の事件やけん。該当データを探すのが大変なのよ」
「ちょっと、良いですか?」
 長四郎と一川警部の会話に齋藤刑事は入り込み、パソコンの目の前に座っている一川警部を横にスライドさせて一川警部のスマホに書かれた情報を見ながらキーボードのキーを叩き始める。
「ありましたよ」5分もかからず、必要な情報の検索を終えた。
「は、早い」これがジェネレーションギャップがとショックを受ける一川警部を他所に長四郎は画面に映る情報を見つめる。
 その情報とは、川尻が顔に在籍していた会社の社員が事件に巻き込まれていないかというものであった。結果は、過去二回とも殺人事件で迷宮入りしていた。
 一つ目の事件は、川尻の勤めていた会社のクレーンから吊らされた絞殺死体が見つかった事件。二つ目の事件は、深夜、会社近くの公園で轢死体となっている川尻の同僚が発見された。
 そして、川尻の転職したタイミングは殺人事件が発覚して一ヶ月後の事であった。
「でかしたぞ。モブ刑事」長四郎は齋藤刑事の肩をポンっと叩く。
「あ、ありがとうございます」
「長さん、説明して欲しいんですけど」
 絢巡査長にそう言われた長四郎は「ああ、悪い」と断りを入れ説明を始める。
「今日、俺は並外商事に人事データを見させて貰ったんだけど。これと言って、目立つ人物も居なくてね。で、血生臭い匂いを出している川尻に目をつけることにしたの。
しかも、川尻は二回も転職している。そこが気になってね」
「この過去二回の事件も同じ職場の同僚を殺しているはずと踏んだ。そういう事ですか?」
「That’s Right.冴えてるね、絢ちゃん」と長四郎に褒められ「どうも」とだけ返答した。
「あの血生臭いと言うのはどういう事でしょうか?」齋藤刑事は、その部分の説明を求める。
「そうか。モブ刑事には知らなかったな」
「何です? 勿体ぶらずに教えてくださいよ」
「えーやだ」長四郎は面倒くさそうに答える。
「チっ」盛大に舌打ちする齋藤刑事に「あ、今舌打ちした。舌打ちしたよね?」長四郎は食いつくが「知りません」の一点張りで否定される。
「ま、何にせよ。この二つの事件を追わな行かんね」
「そうすっねー」長四郎は適当に相槌を打つ。
「でも、ここを攻めたって今回の事件の証拠に繋がるとは思えませんが・・・・・・」
 齋藤刑事は思った事をそのまま述べた。
「証拠は掴めなくても、手口は見えてくるんじゃないかな?」絢巡査長が諭すように言った。
「そうですかねぇ~」齋藤刑事は腑に落ちないといった感じの反応を示す。
「明日から、絢ちゃんは一件目の事件、齋藤君は二件目の事件を調べてくれる?」
 一川警部にそう指示され二人は同時に『分かりました』と了承した旨を伝える。

 翌日、地牛から珠美の履歴書のデータを貰った燐は長四郎の事務所を尋ねる。
 入口の看板はCloseとなっていたが、燐はOpenの文字に変えてドアを開けようとするが、鍵がかかっていた。
「あれれ? おかしいぞぉ~」
 普段は開いていてもおかしくない時間なはずと思い、スマホの時計を見て確認する。
 時刻は午前10時を示していた。
 燐は蹴飛ばして無理矢理でも壊してやろうかとも思ったが、それよりも良い手を見つけた。迷いなく燐は入口近くの横にある火災報知器のボタンを押す。
 因みに、読者諸君は真似しないように。
 そして、押したと同時にその場にけたたましい音が鳴り響く。
 押した張本人もその場に居ることは出来ず、階段を降りて外に逃げ出す。
 その音を聞きつけてか、野次馬が集まり始めていた。
 燐は野次馬の一人に「大丈夫か」と声をかけられたので「大丈夫です」と返答すると、今度は別の野次馬が「火の手は何階?」と聞いてきた。
 そこで、燐は理解した。この野次馬達は、本当にこのビルから火災が発生していると思っている事を。
 とはいえ、中に居る住人を起こすために火災報知機を押したとは言えないので返答に困っていると「どうやら、誤作動のようです」そう答えたのは寝ぐせが付いた頭でパジャマ姿の長四郎であった。
「ああ、誤作動。なら良かった」と野次馬が胸を撫で降ろすと同時に消防車のサイレンが聞こえてきた。
「こっちです!」長四郎は手を挙げて消防車を誘導する。
 長四郎は駆け付けた消防隊員に火災報知機の誤作動である事を伝えた。
 納得した消防隊員は一応、ビル内部に火災の痕跡がないかを確認し消防署へと帰って行った。
「ふぅー」息を吐いて落ち着きを取り戻す長四郎に「よっ、おはよう」と吞気に挨拶する燐。
 だが、長四郎の顔は今まで見たことのない顔で燐を睨みつけていた。
「ど、どうしたの?」
「来い!!」
 長四郎は燐の耳を引っ張り、事務所に連行する。
 ドアを閉めると同時に「どういうつもりだ!!」長四郎は燐をしかりつける。
「ご、ごめん」
「ごめんで済んだら、警察はいらなぁいんだよ!!」
「ひっ、ひぃ!」燐は長四郎のあまりの形相に驚き、悲鳴のようなものを上げるが、そんな事お構いなしに長四郎からこっぴどく怒られた燐なのであった。
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