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第玖話-オニ

オニ-8

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 燐が学校の校門を潜ると、5時間目終了のチャイムが鳴っていた。
「5時間目が終わったか・・・・・・」そう呟き校舎に向かって歩き出す。
 すると、最悪なタイミングで体育館から出てきた熱血教師に見つかった。
「羅猛っ! お前、また学校をさぼっていたな!!」
「サボっていませんけど」
「噓をつけ! お前が校門から入って来るのを俺はみたんだぞ」
「先生、そんなにキレ散らかすと脳の血管が切れますよ」
「やかましいっ! 職員室に来いっ」
 燐の腕を掴み職員室に連れて行こうとする。
「ちょっと、止めてください。離してください」燐は冷静に伝える。
「ダメだ! お前は逃げるからな!!」
「ふぅー」燐は息を吐くと同時に、心の中であまり使いたくない手だが仕方ないと呟き「チカァァァァン! 離してぇぇぇぇぇ!!」その一言で在校生の目が一気に熱血教師に向く。
 その瞬間、熱血教師の手が燐の腕から離れる。
「じゃあな。痴漢教師」燐は熱血教師にそう告げて校舎の方に走り出す。
 その光景は、痴漢教師から逃げる女子高生の姿そのものだった。
 燐はそのまま校舎に入り、事務室へと向かう。
 だが、入口の前で立ち止まる。
 その理由は、簡単であった。
 ここで珠美に接触したら、川尻にバレてしまうしかつ珠美の素性を理由もなしに聞け出せるわけもない。
 燐は思案していると「羅猛氏」と声をかけられる。
「あ、地牛君」
 声の方を向くと、並外商事のサーバーにハッキングをかけた張本人が立っていた。
「事務室に用なの?」物珍しそうに燐を見る地牛。
「あ、そうだ。ちょっと、来て!」
「いや、これから授業が」教室に戻ろうとする地牛の腕を引っ張り学食へと連れ出す。
「座って」
 燐は地牛を学食の椅子に座らせる。
「強引な女は嫌われるよ。マジで」
 地牛のその言葉に長四郎みたいなことを言いやがると思いながら、燐は本題を切り出した。
「実はさ、地牛君がハッキングしたのがバレたみたいなの?」
「あーやっぱり」
「やっぱりって。地牛君がハッキングバレるの嫌だって言ってたじゃん」
「それもそうなんだけど。俺もバカじゃないから保険は打ってあるんだよね」
「保険?」
「そ。手の内は明かせないが普通の奴じゃあ、この俺の元には手が届かないかなぁ~」
 地牛は勝ち誇ったような顔をする。
「じゃあさ、もう一度ハッキングしてくれないかしら?」
「報酬も無しには嫌だよ。第一、この前の報酬すら貰っていないし」
 燐は川尻の個人データのハッキングを依頼した際、女の子を紹介すると言ったのだ。
「それは今現在、選定中なの。地牛君がすぐに振られないようにね」
「サラッと俺をdisってる気がするんだけど」
「滅相もない」
「まぁ、いいや。で、俺は何のデータを拾って来れば良いわけ?」
「やってくれるの?」思わず身を乗り出してしまう燐に「やるよ」と地牛は冷静に答える。
「ありがとう」
「礼は良いから、早く教えてくれ」
「ごめん。ごめん」と謝り依頼内容を伝える。
「この川尻珠美さんって人の情報が欲しい。この学校の事務職員として働いているはずだから」
「それは良いけど。この学校のサーバーには履歴書ぐらいしか得られるものがないけど」
「それだけで十分よ」
「分かった。それとこちらからも一つ質問しても?」
「何よ?」
「これって、探偵の彼氏からの依頼」
「彼氏じゃないし。てか、あいつが彼氏だって誰が言っていたわけ?」
「海部リリだけど」
「あいつぅ~」燐は拳を固め今度会ったらタダじゃ済まさないそう心に誓う。
「じゃあ、調べておくから。データはこの前のように遅れば良いかな?」
「それでお願い」
「じゃ、とびきり可愛い娘宜しくね」地牛はそう言って立ち上がり、授業に戻って行った。
「さ、私はどうしようかなぁ」
 次の行動を思案しようとした時、校内放送が流れた。
「二年B組の羅猛燐。直ちに職員室に来るように!!」熱血教師の声だった。
「やばっ、早くずらかるべし。べし」
 燐は急いで学食から出て学校から姿を消すのだった。
 その頃、警視庁に帰投した絢巡査長を「ご苦労さぁ~ん」とパソコンと睨めっこしている一川警部。
「疲れたぁ~」
 絢巡査長は、椅子に座りその身を預けぐったりとする。
 そんな絢巡査長に、齋藤刑事が「お疲れ様です」と言いながらコーヒーを出す。
「ありがとう。ていうか、居たんだ」
「はい」
「彼ね。所轄署の捜査方針に疑問を持っとうらしいっちゃ」
「へ~」絢巡査長はそう返事しながら、コーヒーを飲む。
「実は、捕まえた不良グループ何ですが・・・・・・」
 あの後、木谷田課長と共に帰投した齋藤刑事は不良グループの一人、風間かざまの取り調べにお同席した時の事であった。
「お前がやったんだろう?」木谷田課長は冷静な口調で風間に問いかける。
「知らねぇよ」
 風間は木谷田課長と視線を合わせないように左横を見ながら答えた。
「そうか」
「これは、事件当夜現場近くで取られたオービスの写真だ。ここに映っているバイク、お前のだよな? 運転しているのは」
「確かに俺だが、それだけの理由で俺が犯人だって言っているのか? 冤罪だ。冤罪」
 その一言で、木谷田課長がキレた事は横で見ていた齋藤刑事には分かった。
「だが、事件現場の廃工場はお前らの溜り場だって知っているんだよ!」
 机をバンっと思い切り叩き、木谷田課長は風間を恫喝する。
 それに驚いたのか。風間は身体をビクッとさせるが、そんな恫喝に負けじと反論する。
「普段から溜り場にしている。近くを通っただけで警察は犯人だと言うのか? ええ?」
 負けじとガンを飛ばす風間は続ける。
「現場に俺達の髪の毛とか落ちてたとか、言うんじゃねぇよな? それはあそこを溜り場にしていた俺達だ。その様な証拠があっても不思議じゃないからな。凶器、凶器を見せろよ。それが俺達の物だって証明してみろよ!」そう言って、机を蹴飛ばす風間に反論できない木谷田課長。
 以上の発言を聞いているうちに、齋藤刑事の中でこの風間という青年が犯人ではないのかという考えに至ってきた。
「俺からも良いかな?」ここで齋藤刑事は質問することにしてみた。
「何だよ」
「凶器って何だと思う?」
「はぁ? 凶器も分からないで俺の取り調べしてんのか? あんた」
「良いから答えてくれ」
「そ、そうだな。あの工場に落ちていた石とかじゃねぇか」
「成程。因みになんだが、今回の事件のニュースは見たか?」
「いいや。仲間からあそこの廃工場で死体が見つかったって言うのだけ聞いた。普段からバットとか凶器になるようなもん持ち歩いてねぇからな」
「分かった。ありがとう」
 齋藤刑事は風間の回答を聞き自分が何をすべきか理解し、「失礼します」と木谷田課長に断りを入れ取調室を出て自分だけで捜査を開始し、今に至る。
「という事がありましてね」
「ふーん。で、その風間とかいう子の知り合いに「どうり」の三文字が当てはまる人物は居たの?」という絢巡査長の質問に「居ませんでした」と即答する齋藤刑事。
「因みに被害者の知り合いの方にも「どうり」の三文字が当てはまる人物は居ませんでした」絢巡査長は疲れ切った感じで報告した。
「手がかり無しですか・・・・・・・」齋藤刑事は悔しそうな顔を浮かべていると「それはどうかな?」と言いながら長四郎が部屋に入って来る。
「長さんの方は成果があったんですか?」絢巡査長の問いに「うん」とだけ答えるのだった。
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