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第拾伍話-異人

異人-6

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 その日も依頼はなくしっかりと9時間睡眠をした長四郎は、自室のテレビの電源を入れ電気ケトルに水を注ぎ入れスイッチを入れる。
 カチッとお湯が沸いた音がしたので、インスタントコーヒ―の紙パックをセットしたマグカップにお湯を注ぎ入れた。珈琲を淹れ終えた長四郎は、テレビ前のソファーに座り映っていたニュースを聞き流す。
 依頼が無いかスマホで確認していると、テレビから「港区のタワーマンションで道前宗介さん39歳が殺害されました」というフレーズが聞こえてきたので長四郎はテレビに目を向けた。
「殺人容疑で逮捕されたのは、アメリカ国籍のミシェル・ガルシアです」
 ニュースアナウンサーが淡々とニュースを読み終え、別のニュースへと移った。
「マジか・・・・・・」口をあんぐりと開けた長四郎は放心状態になる。
 自分が行っていたのは、殺人の手助けだったのかということ、そして、殺人幇助の疑惑が自分に降りかかってくるのではないかという恐怖心が長四郎を襲った。
「どうしよう」
 困り果てた顔になる長四郎は落ち着くために、珈琲を飲む。
 それから暫くの間、心を無にしぼぉ~っとしていると、スマホに着信が入る。
 見知らぬ電話番号からで、取り敢えず出た。
「もしもし」
「熱海長四郎さんですか?」
 電話の相手の開口一番の台詞はそれだった。
「そうですけど。ご依頼ですか?」長四郎がそう質問すると、相手は鼻で笑い話を続けた。
「違います。私、警視庁捜査一課で刑事をしています。厭那いやなと言います。実は、昨日起きた殺人事件についてお話を聞きたいことがありまして、任意ではありますが警視庁へ出頭して頂けませんでしょうか?」
「はぁ、分かりました」
 ここで断ると、面倒くさい事になるのは目に見えたので長四郎は厭那の言葉に従うことにした。
「では、1時間後に来てください」厭那はそれだけ告げると電話を切った。
 長四郎はスマホから耳を離しながら「横暴な奴だな」と呟き、出かける準備を始めた。
 10分もかからないうちに準備を終えた長四郎は、警視庁へと向かった。
 ご命令通り、警視庁へと出頭した長四郎は受付の女性警官に用件を伝えると厭那を呼び出してくれた。
 待機用のベンチに座り、厭那が来るのを待つ。
 5分後、けだるそうな顔をした厭那が姿を現した。
 厭那の見た目は30代半ばといった感じの男で、意識が高い事に憧れていそうな雰囲気を出している人間だなと長四郎は感じた。
「あなたが、熱海長四郎さん?」そう言う厭那の目は、長四郎は小馬鹿にしているといった感じの目であった。
「あ、申し遅れました。五反田で熱海探偵事務所をやっております。熱海長四郎と申します」
 長四郎は愛想笑いを浮かべながら名刺を渡すのだが、厭那はそれをひったくるように奪いジャケットの胸ポケットにしまった。
「では、こちらへ」何食わぬ顔で案内する厭那について行く長四郎は、取調室へと通された。
「それで、殺人事件の話でしたよね?」
 パイプ椅子に座った長四郎はすぐ様、話を切り出した。
「ええ、そうです。道前宗介さんの事件です」
「言っておきますけど、私は何もしていないですよ」
 その一言に、犯人若しくは共犯が言う台詞だと言わんばかりの目で長四郎を見る。
「勿論、分かってますよ。ミシェル・ガルシアさん、ご存じですよね?」
「知っていますよ。昨日、道前さんの素行調査を共にしましたから」
「素行調査。何の為に?」
「さぁ、こちらも守秘義務というものがありますから。依頼理由は、お答えできないんですよ」長四郎の飄々とした態度に厭那は少しムッとしながら取り調べを続けた。
「依頼人と共に調査することはあるんですか?」
「まぁ、滅多にないですけど。彼女の場合は、彼女の職業柄もありまして、個人的に気になったので同行を許可したんです」
「職業柄・・・・・・確かに彼女はバウンティハンターでしたね。でも、探偵の職業とは程遠いものかと私は思うんですが」
「そう思うのは勝手です。あの、これ以上話しても事件に繋がるような話は聞けないと思うのですが、帰って宜しいでしょうか?」
「何を言っているんだ。あんたは? あんたは重要参考人なんだよ! 簡単に帰れると思うなよ。後、共に行動していた女子高生に姿もこちらは把握済みなんだ。未成年者の不法就労で引っ張っても良いんだぞ?」
 急に口が悪くなる厭那に動じることはなく長四郎は淡々とこう答えた。
「どうぞ、ご勝手に」と。
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