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第拾捌話-美味

美味-5

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「イタタク?」
「ほら、よくお昼の番組とかで料理紹介しているタレントシェフだよ!」
「ああ、そういや見た事あるかも。流石は、学校をサボって昼間から家でゴロゴロしているだけの事はあるな」
 そう言った瞬間、燐の蹴りが長四郎の尻に浴びせられる。
「ふげっ!」長四郎は断末魔を上げながら倒れこむ。
「自業自得ね」
「クッソぉ~」
「ここ最近、征伐を受けていないから安心しきっていたのがダメなのよ」
「くぅ~」
 悔しそうな顔を浮かべる長四郎は痛みを堪えながら立ち上がる。
「これからどうするの?」
「なぁ、イタタクは結構、テレビに出ているの?」
「うん、そうだよ。というか、流行りの料理人だよ」
「流行りの料理人かつテレビに出る人であれば、テレビ局の人と面識あるよね?」
「そう言えば、そうね。その可能性はあるけど、被害者と面識があるかまでは分からないよ」「だから、確認してもらうの」
 長四郎の頼みごとをしに行った一川警部達を探しに、共用フロアに出る。
「居ないなぁ~」
 右、左と見ながら燐と共に探していると、少しヨレヨレのスーツを着たおでこの広い男が歩きにくそうに通り過ぎて行った。
「あの」呼び止めたのは長四郎であった。
「はい、何でしょうか?」
 おでこの広い男は振り返りながら、長四郎に尋ねる。
「貴方、刑事さんですよね?」
「えっ! どうして、分かるんですか?」
「いや、激務をこなす刑事さん特有の靴底の減り方をしているんだなと思いまして」
 長四郎に言われた男は自分の靴底を見て確認すると、確かに長四郎の言う通り靴底はすり減っていた。
「あ、ホントだ!」
「それより、事件解決に向けて頼みたいことがあるんですけど。良いですか?」
「頼み事ですか? 貴方、見かけないけど誰なんですか?」
「俺は」長四郎が「私は」燐が言い『探偵です』と声を揃えて答えた。
「探偵さんですか。なんか、ドラマみたいな展開だな」
「それより、お願いできますか?」長四郎にそう言われた男は「良いですよ」と快く引き受けてくれた。
「被害者の瞳さんと今回の料理を総指揮なさっているシェフの板前さんに接点があったのかを調べて欲しいんです」
「分かりました。調べてきます」勢いよく走り出すのまでは良かったのだが、靴が滑って思いきり転んでしまうおでこの広い男。
「ぷっ!」
 燐は思わず吹いてしまう。
「コラっ、ラモちゃん。笑わないの。大丈夫ですか?」
 長四郎の「大丈夫ですか?」の部分は完全に笑うのを堪え声が震えていた。
「だ、大丈夫です」
 差し出された長四郎の手を掴んで立ち上がる。
「ありがとうございました。では、調べてきます」
「ああ、すいません」長四郎は呼び止め「お名前は?」と聞いた。
「私ですか?」
「ええ」
「捜査一課の今西と言います」敬礼しながら自分の名前を明かす。
「自分は、熱海と言います。分かったら、ここに連絡を。待ってます」
 長四郎は名刺を今西に渡す。
「了解しました!」
 名刺をジャケットの内ポケットにしまうと、その場を後にした。
「ねぇ、あの人に頼んで良かったの?」
「良かったんじゃない」
「ふ~ん」つまらなさそうに返事をする燐。
「長さん、聞き込みを終えました」と長四郎の命を受けた絢巡査長が戻って来た。
「どうだった?」
「はい。今日の料理を担当したシェフ達に被害者及びテレビ関係者と面識のある人物は居ませんでした」
「そうか。ありがとう」長四郎は礼を言い、ぶつぶつと呟き始めた。
 いつもの長考タイムに入ったのだ。
「絢さん、今西っていう刑事さんってどういう刑事さん何ですか?」
「今西さんが何かしたの?」
「いえ、あいつが頼み事していたんですけど。なんか頼りなさそうで」
「その通りだと思うよ。あの人、少し抜けている事で有名だから」
 絢巡査長から今西の評判を聞いた燐は少し不安になるのだった。
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