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第拾玖話-有名

有名-6

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「そうでしたか。そんな事が」
 松坂にこれまでの事を報告した長四郎。
「それで、ですね。美雪さんは、夢川苺さんとは親しいんですか?」
「いや、特に親しいとかそういった話は聞いていませんけど」
「そうですか。それともう一つ、今回のストーカーについて外部の誰かに話したそう言ったことはないですか?」
「ないですよ。この件を知っているのは私と美雪そして、マネージメント部の部長と社長だけですから」
 松坂が言い終えると、燐は長四郎を肘で小突いて耳を貸すよう合図するので長四郎は素直にそれに従い耳を燐の方に傾ける。
「聞いた話と違くない」松坂に聞こえないように耳打ちした。
 長四郎は黙って頷くだけで、松坂と話を続ける。
「今回の事件で、何か脅迫のような類の事はありませんでしたか? 例えば、番組を降板しろとか」
「いえ、そういったものは。あの、ストーカーの正体は過激なファンじゃないんですか?」
「それについては、まだ調査中なので何とも。まぁ、それも視野に入れて調査はしていますから」
「頼みますよ」長四郎にそう言った松坂は、美雪の楽屋のドアをノックした。
「はい」中からそう返事が返ってきたので、「入るぞ」と松坂はドアを開けて中に入る。
 だが、長四郎と燐はそれに続いて入らず、踵を返し別の場所へと移動した。
 そんな事つゆ知らずの美雪と松坂は楽屋で、長四郎と燐について話し合う。
「あの人達で本当に大丈夫なんですか?」
 そう話を切り出したのは、美雪であった。
「大丈夫。だと思う?」
「思うって。なんか、信用できないんですけど。特にあの男の人なんか、終始いやらしい目で見てくるような感じがしてたまんないですけど」
「そんな事ないよ。確かに何考えているのか、分からなさそうだけど、俺を信用してくれ」
「分かりました」美雪は渋々、納得するしかなかった。
 一方、長四郎と燐は苺が出演する番組の収録スタジオに居た。
「では、収録開始しまぁ~す。盛大な拍手でお願いしまぁ~す」
 ADの男が観覧客に言うと、盛大な拍手が演者に向かって送られる。
「さぁ、始まりました。今宵も恋に生きよう!! 総合ナビゲーターのパキ糖です」
 司会の男性芸人・パキ糖がカメラに向かって話始めると、客席から黄色い完成が上がる。
「アレのどこがカッコイイのかな」燐はパキ糖を見ながら首を傾げる。
 パキ糖の見た目は、ふくよかな体型かつ丸眼鏡をかけ春先なのに暑そうなダウンジャケットに身を包んだ男であった。
「面白きゃあ、何でも良いんだよ」腕を組みながら収録を見学する長四郎はそう答えた。
「そうなの?」
「・・・・・・」
 長四郎は燐の問いかけに答えず、黙ったまま収録を見学する。
「いつもの長考モードか・・・・・・」
 燐は呆れながら長四郎と共に収録見学するはずだったのだが、松坂に見つかってしまい美雪が出演するニューススタジオへと移動させられた。
「今後一切、あのような事はなさらないでください!」
 松坂から注意される長四郎と燐は『すみませんでした』と声を揃えて謝罪した。
「まぁまぁ、先輩。そんなに怒らないであげてください。彼らも悪気があったわけじゃないですから」
 松坂の同僚であり後輩の栗栖 裕くりす ゆうであった。行方が分からなくなった2人を見つけ出したのが栗栖だった。
「じゃあ、先輩。俺、行きますから。それと頂いた服でバッチリ決めますから」
 栗栖は松坂にサムズアップして、自分の持ち場へと戻っていった。
「あの人に服上げたんですか?」長四郎が質問すると「ええ、彼女との初デートで着ていくらしいです。彼女紹介したのは俺なんですけどね」どこか嬉しそうに答える松坂。
 それからあの事件が起こるまでの3日間、美雪にとって普段通りの日常が流れるはずであった。
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