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一章 四人の勇者と血の魔王

第20話 悲しい過去がある奴が偉いのかよって誰か言ってくれ

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 ルリマと俺は家が隣同士じゃなかったら恐らく関わっていなかっただろう性格と立場だ。

 俺はお調子者の採掘師。と言っても採掘師へのモチベも腕前も並程度。
 対するルリマは生意気な剣聖の娘。傲慢な性格も『まぁそうなるか』と納得出来てしまう肩書きと、それに見合った剣の実力があった。

 別に親父の採掘師という職業を嫌っている訳じゃない。むしろ誇りに思っている。

『他人から見て泥臭くても』

『お前から見てカッコイイならその道を歩めよ』

 真っ当に生きろ、じゃなくて俺に判断を委ねるような言葉を毎度口うるさく言ってきたのは、ロクトという人間を信じ、期待していてくれたから。

 ただ─────ルリマは父親以外にも、無数の人間からの期待を背負っていた。


 その重圧を実感するのは、俺がルリマの聖剣を奪ってからの事だ。























 ーーーーーーー
 赤刃山脈 小屋
 ーーーーーーー


「俺は勇者あぁぁああああぁぁあああ!?」

「はい、自己紹介ありがとうございます」

「へ?」

 自分でも意味不明すぎる目覚めの声を上げて飛び起きたかと思うと、フカフカのベッドが俺を包んでいたことに気づく。そして横には──────めっちゃ可愛い人。クール系のショートカットで胸はそんなだけど、人気が出るタイプの人だ。

「師匠、彼が起きました」

「む……そうか」

 女性は部屋のソファの上で本を片手に目を瞑っていた男の肩を叩いた。白銀の長髪が目立つ……エルフ族の男だ。

「あんたが助けてくれたんだよな?マジでありがとうございます!俺、あの時本当に危なくて───」

 さっきに場面を思い出していくうちに、俺には一つ聞かなければいけないことがあったのを思い出した。

「ってか、小屋!多分ここだよな!?俺が落ちたせいでどこか壊れてたりとか、誰か怪我してたりとかは……」

「問題無い。防御魔法を展開していたからな。怪我人は強いて言うなら君自身だ。回復魔法で治療はしたが、すぐに無理はしない方がいい」

「え、あぁ、ども……」

 確かに全身のどこにも傷は無かった。回復魔法治療後の特有の違和感があるし、怪我してたのは間違いないんだが、この完璧な治療具合、回復魔法のレベルはまるで────

「申し遅れた。私はルタイン・アネストフール。こちらは弟子のテラだ」

「……テラ・オリミー。覚えなくていいけど」

「あぁ、ロクト・マイニングですぅ……ん?ルタイン・アネストフール……?」

 そりゃもう、聞けばわかるくらいのビッグネームだった。寝起きじゃなきゃ聞いた瞬間に驚いてただろうよ。

「ってアンタ、大賢者の……!?」

「そうだ」

「そんでサヴェルの師匠の!?」

「兼、保護者だ」

 大賢者ルタインと言えばすごいすごい人で────って感じに具体的にどう凄いのかは俺はよく知らん。大昔から生きてるって事しか。後、魔界との関係が良かった時の人間界側の交渉人の代表だったっけ?ただ……一番魔法を上手く扱える人間って事だろ、大賢者って。それにアイツの師匠だ。凄いに決まってる。

「それにしても、いつも世話になってるサヴェルの親御さんにも迷惑かけちまうなんてな……申し訳ない」

「いや、いい。というか……君が気にするべきはそこじゃない」

 ……含みのある言い方に、俺は息を呑んだ。

「あそこに立てかけて置いてある剣に見覚えはあるか?」

 指さされた方向は、玄関があるあたり。

 一本の剣があった。壁に寄りかかっていたその剣は、目立たない茶色の刀身で一般的な剣より少し細く、どこか頼りなさそうにも見えた。が─────それを上回る神聖さが、滲み出ていた。

「ま、さか……岩の聖剣?」

「……ほう、よく分かったな。君は刀身を見た事はないはずだが」

「相棒っすからね。後、柄の部分にめちゃくちゃ見覚えがあった。……じゃなくて!!」

「む?」

「聖剣の周りの岩!あんたが剥がしてくれたのか!?」

 ……岩が剥がれたくらいで、実際の強さが変わる事はない。俺がいきなり本物の勇者になることも無い。ただ────嬉しかった。
 やっと素顔を見れた。

「いや、私じゃない」

「え」

「……師匠、コイツ物分かり悪くてイラつきます」

「いや仕方なくね!?確かに俺は馬鹿だけどもう少し判断待とうよ!?」

 テラちゃんから毒を吐かれながら、俺はルタインの次の言葉を待った。

「……いいだろう。そこも含めて私から話をしよう。岩の聖剣と君の今後についての、だ」

「聖剣と……俺の?」

「聞くだけでは退屈だろう。せめて……おぉ、もうやっていてくれたか」

「どうぞ」

 テラちゃんから微妙に嫌そうな顔でコーヒーらしき香りのするコップを手渡される。なんでもう嫌われてるんだ?ってかコップが絶妙に熱い。持てはするんだけど熱いから手を離したくて仕方がない。でも俺はベッドの上にいて周りにテーブルっぽい置き場所はない。あ、これ熱さに我慢しながら大賢者のお話聞くしかない感じ?

「どう?ワタシの業火は」

「やっぱわざとかよ!」

「まず最初に、軽く私の事について触れよう」

 テラちゃんの言葉をスルーして、大賢者は語り始めた。

「大賢者と呼ばれている。まぁ、現時点では魔法技術のトップだろうと自負している。が……私が主に行っている研究は『聖剣の研究』だ」

「……聖剣の?」

「友の遺産だからという理由もあるが……これは人間と魔族の平和を保つための装置。人を救うためのものだ。加えて圧倒的な力を持つ。此度のような魔王、マジストロイ相手には必須となる……そもそもレナの奴が職務放棄しなければ良い話だったがな」

 現魔王、マジストロイ。前魔王レナの旧体制を破壊し、魔界に君臨した統率者。別名は……【血の魔王】。具体的な情報こそないが、『強い』という噂はあちこちで広められている。

「誰かが知ってなくてはならない。もし何らかの理由で聖剣を扱えない勇者がいたらどう対処すべきかを……な」

「!」

「話はサヴェルから聞いている。自分を偽の勇者だと?」

「……そうっすよ。岩の聖剣は俺を認めていない」

 ルタインは腕を組み、眼鏡を指で押し上げる。冷静に、俺と俺の言葉を分析するような目だ。

「アイツが、サヴェルが話したって事はアンタは良い人なんだろうし、多分サヴェルは俺の事を相談しようとしたんだと思う。だから話すよ。聖剣を扱えない勇者がいたら……って言ったけど、俺はそもそも勇者じゃない。ただの採掘師だ」

「……」

「もし他に岩の聖剣に相応しい奴がいるんなら、そいつに握らせてやってください。聖剣もそっちの方が喜ぶだろうし、何よりサヴェルとゴルガスと肩を並べられるくらい強いと思う。王国には俺が話をつけるから─────」

「あぁ、馬鹿だな君は」

「何アンタも突然!?いや確かにさっき俺は馬鹿だって言ったけど」

 ため息をついたルタインは……言葉の割には怒っていなさそうだった。……呆れというよりかは、もう少し優しさがある顔だ。

「聖剣には不適合者を『拒絶』する機能がある。知っているな?」

「ま、まぁ」

 手に取った瞬間に分かるらしい、握った人間側が。この剣は自分に持たれたくないのだ……って。俺は当時焦りまくりでそんな事感じる暇はなかったけど。

「実は、聖剣によってその拒絶の強弱が分かれているのだ。例えば黒の聖剣は誰に対しても拒絶はしない。あの聖剣が少し特殊というのもあるが……」

「へぇ……」

「岩の聖剣は全ての聖剣の中で拒絶が『最も強い』聖剣だ」

「……そう、なんすか」

「不適合者は触った瞬間に正体の分からない違和感が襲う。握り続ければ頭痛、吐き気、めまいを起こし最悪

「……」

「ここまで言わなければまだ分からないか。いや、その演技をやめられないか」

 分かっている。この人が何を言いたいかは。でもそれは────少しばかり、いやかなり、信じられない事だったんだ。

「ロクト・マイニング。君は『聖剣の適合者』だ。頑固者で有名な岩の聖剣はとっくのとうに─────君を認めていた」

「……だったら」

 俺は自分でも、その事実が嬉しかったのか、そうでないのかが分からなかった。でも。ただ、今は……これだけが聞きたい。

「─────だったらなんで俺は勇者じゃないんですか」

だ」

「は?」

 特にどこかを指差しているわけでもない。目の前の大賢者は……ただ俺を見つめている。

「君のその『態度』だ。それが君が勇者である事を妨げている」

「な、なんじゃそれ。どういう事すか?」

「君を【勇者】だと認めていないのは岩の聖剣ではなく────君自身だった、という事だ」

「……そんな」

 そんな事が本当な訳ない。なんて言葉を言いたかったが、残念ながら腑に落ちている。確かに俺は……うん、認めていなかった。ルリマを差し置いて聖剣を手にした自分を責めて責めて責め続け、ここにいる。

「そんな事が原因だったなら……はは、岩の聖剣に申し訳なさすぎる」

 肝心な俺が俺を認めていなかったのに、俺は聖剣のせいにし続けてきた。不甲斐ないどころじゃない。なのに────失望せずにずっと力を貸していてくれたのか。

 初めて手にした時も。
 さっきマリちゃんと戦った時も。

 ずっと───────。

「今になってその真の姿を岩の聖剣が見せたのは、君が何かしら『自分は勇者だ』という精神を持ったから、違うか?」

「……」

『─────俺は【勇者】だァァァァアアアアッ!!!』

 あの時ヒビが入ったように見えたのは、俺の都合の良い幻覚なんかじゃなかった。聖剣は俺が俺を認めるのをずっと待っていた。そして……今も。

 ─────どうして俺なんかを。

「まだ自分自身の事を認められないという顔だな」

「そりゃ無理っすよ。岩の聖剣は見る目が無い。適任は……他にいただろうに」

「……良かったら、話してくれないか」

「え?」

「君が聖剣を手にした時や……君が抱えている確執にまつわる出来事を、だ。もちろん自分のペースで構わない」

 ソファに座り直したルタインは本を手に取る事なく、レンズの奥から俺を見たままだ。

「君と岩の聖剣の間には奇妙な経緯があるのだろう?私は聖剣研究家として、滅多に自分を握らせない岩の聖剣が認めた人間の事を知りたい。それに────誰かに話せば何か変わるかもしれない。そう思わないか?」

 大賢者の微笑んだ顔を、その時初めて見た。性格は似てなさそうだけど、眼鏡を触る仕草や良いヤツだって所は……師匠譲りなんだな。

「それもそうっすね……じゃあ、まずは俺がこの世に生まれ落ちた日の事」

「……ん?」

「え、あ、すんません!ちょっと昔すぎたか。じゃあ……まずは俺がまだ10歳くらいの事」

「あ、いや、どっちにしろ遡りすぎでは」

「その日────俺は腐れ縁の幼馴染と初めて出会ったんだ」

「これは……長くなるな。テラ、私にもコーヒーを──────」

























 ーーーーーーー
 ナルベウス王国 小さな村
 ーーーーーーー


「あぁ、まずいなこれ思いっきり上に場面転換の ナルベウス王国 小さな村 がある。確定で長くなる過去編だ」

『いっでぇ!何すんだよ親父~!』

『いっでぇじゃねぇ!レディのハートを掴むには第一印象が大事っていつも言ってんだろッ!』

「怒る所はそこで合っているのか……?」

 まぁ親父はそういう人なので!俺みたいな奴の親っすからね、そこは納得でしょ?
 え、初めて出会ったルリマはどうだったかって?

「いや、別に聞いてないから早く聖剣の事を……」

 うん、剣聖の娘ってだけなのに自分まで偉いと勘違いしてるガキ感は結構あった。

「……そうか…………」

『何、あんた……変なやつ』

 こんな感じで睨んできて。

 でも、ですよ。
 当時俺はクソガキ真っ只中。イタズラとかすれば親父にこっぴ「あぁ、ありがとうテラ。ところで今炎魔法を使っていたのは何故だ?……見間違え?大賢者である私も歳か」どく叱られるから悪さはしてなかったけども、活発な子供だったとは思う。

 そんな男の子がお隣にめち「待ってくれテラ、熱すぎるぞこのコーヒー。大賢者である私に【極界】を撃たせるとどうなるかは分かっているはずだろう」ゃくちゃ可愛くて、ツンツンした態度と目線を送ってきて、将来のサイズが見通せてしまう、同年代では全く存在を確認できなかった胸の膨らみを目撃してしまったら──────


 そいつに惚れちまうには十分すぎやしませんk「あ“っづ!……いや、取り乱してなどいない。続けたまえ」

 いやうるさいって!!今俺が小さい頃ルリマの事好きだったっていう衝撃的な告白したの!!話してる途中でコーヒー飲むなっていやこれあ”っっづ!!??

「別に衝撃など受けてないが。というか君も飲んでいるじゃないか」

 ま、まぁサヴェルとかゴルガスにはルリマの事全然好きじゃないみたいなテンションで通してたからな。

「ふむ。まぁとりあえず─────次の1話でまとめてくれないか。長いし」







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 聖剣について。

 聖剣は全部で12本あると言われています。現在、作中で名称が出てきたのは3本。
 岩の聖剣。
 雷の聖剣。
 黒の聖剣。
 世界で最も規模が大きく小競り合いを続けるナルベウス王国、ツーキバル、コンロソン帝国がそれぞれ所持しています。
 が、三国は他にも聖剣を隠しているという噂もあります。魔王が倒されれば聖剣は身を隠し、魔王の代替わりに合わせて聖剣は姿を現します。レナが就任した時に現れた4本の聖剣のうち3本は、岩、雷、黒と今回と変わりません。別の聖剣が現れた時の記録は既に途絶えているため、あくまで噂としか言われていません。
 この時の4本目が、『白の聖剣』です。元々狂信者はいないような善良な派閥だった白剣教が、信仰する『白の勇者』の再来によって凶暴化したきっかけでもあります。
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