20 / 160
第一章 移住編
19. やる気のない生徒たち
しおりを挟む
数日後、私とアニエスはフェリクス殿下と共に学園に向かった。
王都の中心街から少し離れたところにある学園は、かなりの広さだった。
入り口には衛兵まで立っている。まあ高位貴族や王族も通っているのだから当然か。
「引っ越しは無事に終わったか?」
「ああ。手伝いにパトリックとロベールを寄越してくれて助かったよ」
陛下の容態も落ち着いたので、私たちは用意してもらった屋敷に移ったのだ。使用人も用意されていた。
国王の病気を治したのだから当然かもしれないが、ハラデュールとは比べものにならないほど手厚い待遇だ。
「俺も行きかったのだが、政務が溜まっているから手伝えと兄上に捕まってしまってな」
「今日はいいのかい?」
「学園の行事だと言って無理矢理出てきた」
意外にも、フェリクス殿下はまだ学生だった。
いや、年齢を考えれば当然なのだが。
学園に通っている気配が無かったので、もう卒業したものと思っていた。
彼曰く、既に飛び級でほとんどの課程を終えており、あとは気が向いた時や特別授業の時だけ顔を出しているらしい。
「飛び級!殿下は優秀なんですね」
「いや。政務の人手が足りないんだ、とっとと課程を終わらせろと父上と兄上に言われて、死ぬ思いで単位を取りまくったんだ。あれはキツかった……」
フェリクス殿下が遠い目をしている。
王族も大変なんだな。どっかのバカ王子とは大違いだ。
「そろそろ精霊術の授業が始まる時間だ。先生には話を通してあるから、見学に行こう」
教室に入ると既に授業は始まっていた。
席には十人程度の生徒が座っている。教壇に立っていた男性はこちらを見て軽く頭を下げ、授業を再開した。
「文献に残っている精霊術士のもっとも古い記録は、千年前の精霊術士サロモン・ダンドリューです。当時は精霊術士という言葉はなく、単に精霊使い、もしくは魔法使いと呼ばれて……」
教師が説明しているというのに、真面目に聞いている生徒はほとんどいない。
隣の生徒とコソコソ話に興じる者や、寝ている者。振り返ってこちらを見ている者もいる。
「見て、フェリクス殿下よ!今日は学園にいらっしゃる日だったのね」
「隣の女性たちは誰かしら?見かけない顔だけれど」
小声でしゃべっているつもりだろうが、丸聞こえだ。
なるほど。殿下の整った容姿に王族という身分。さぞ女性徒たちに人気があるんだろう。
女生徒の刺すような視線を受けながら、私たちは授業を見学した。
「私はユベール・エストレと申します。大精霊士シャンタル殿にお会いできるとは光栄です。こちらはお弟子様ですか?」
ユベールは眼鏡をかけた痩せぎすの男性教師だった。
彼は子爵位の持ち主で、水の精霊士でもあるそうだ。
「はい、アニエスと申します」
「この子は三属性の持ち主でね。弟子にして十年になる」
「おお、ならば未来の小精霊士様ですな。優秀な生徒をお持ちでうらやましい」
ユベール先生は眼鏡をくいっと上げながら、アニエスを興味深そうに見た。
「授業を拝見したが。正直に言って、あまり活気が無いようだね」
「恥ずかしながら……。精霊術は選択科目ですが、本当に興味を持って受けようとする生徒は、ほとんどいないのが実状です」
生徒たちは単位目当てに受けているらしい。
各科目には最低限、合格させなければならない生徒数のノルマがある。人気の無い科目の方が、合格しやすいと思っているのだろうとユベール先生が述べた。
「ですが、”炎のアルカナ”シャンタル殿が講師となれば、皆興味を持つでしょう」
「こりゃあ責任重大だね」
教えるのは嫌いじゃないが、あそこまでやる気の無い相手だとなあ。
彼らの興味を惹くような授業内容を考えないと。
王都の中心街から少し離れたところにある学園は、かなりの広さだった。
入り口には衛兵まで立っている。まあ高位貴族や王族も通っているのだから当然か。
「引っ越しは無事に終わったか?」
「ああ。手伝いにパトリックとロベールを寄越してくれて助かったよ」
陛下の容態も落ち着いたので、私たちは用意してもらった屋敷に移ったのだ。使用人も用意されていた。
国王の病気を治したのだから当然かもしれないが、ハラデュールとは比べものにならないほど手厚い待遇だ。
「俺も行きかったのだが、政務が溜まっているから手伝えと兄上に捕まってしまってな」
「今日はいいのかい?」
「学園の行事だと言って無理矢理出てきた」
意外にも、フェリクス殿下はまだ学生だった。
いや、年齢を考えれば当然なのだが。
学園に通っている気配が無かったので、もう卒業したものと思っていた。
彼曰く、既に飛び級でほとんどの課程を終えており、あとは気が向いた時や特別授業の時だけ顔を出しているらしい。
「飛び級!殿下は優秀なんですね」
「いや。政務の人手が足りないんだ、とっとと課程を終わらせろと父上と兄上に言われて、死ぬ思いで単位を取りまくったんだ。あれはキツかった……」
フェリクス殿下が遠い目をしている。
王族も大変なんだな。どっかのバカ王子とは大違いだ。
「そろそろ精霊術の授業が始まる時間だ。先生には話を通してあるから、見学に行こう」
教室に入ると既に授業は始まっていた。
席には十人程度の生徒が座っている。教壇に立っていた男性はこちらを見て軽く頭を下げ、授業を再開した。
「文献に残っている精霊術士のもっとも古い記録は、千年前の精霊術士サロモン・ダンドリューです。当時は精霊術士という言葉はなく、単に精霊使い、もしくは魔法使いと呼ばれて……」
教師が説明しているというのに、真面目に聞いている生徒はほとんどいない。
隣の生徒とコソコソ話に興じる者や、寝ている者。振り返ってこちらを見ている者もいる。
「見て、フェリクス殿下よ!今日は学園にいらっしゃる日だったのね」
「隣の女性たちは誰かしら?見かけない顔だけれど」
小声でしゃべっているつもりだろうが、丸聞こえだ。
なるほど。殿下の整った容姿に王族という身分。さぞ女性徒たちに人気があるんだろう。
女生徒の刺すような視線を受けながら、私たちは授業を見学した。
「私はユベール・エストレと申します。大精霊士シャンタル殿にお会いできるとは光栄です。こちらはお弟子様ですか?」
ユベールは眼鏡をかけた痩せぎすの男性教師だった。
彼は子爵位の持ち主で、水の精霊士でもあるそうだ。
「はい、アニエスと申します」
「この子は三属性の持ち主でね。弟子にして十年になる」
「おお、ならば未来の小精霊士様ですな。優秀な生徒をお持ちでうらやましい」
ユベール先生は眼鏡をくいっと上げながら、アニエスを興味深そうに見た。
「授業を拝見したが。正直に言って、あまり活気が無いようだね」
「恥ずかしながら……。精霊術は選択科目ですが、本当に興味を持って受けようとする生徒は、ほとんどいないのが実状です」
生徒たちは単位目当てに受けているらしい。
各科目には最低限、合格させなければならない生徒数のノルマがある。人気の無い科目の方が、合格しやすいと思っているのだろうとユベール先生が述べた。
「ですが、”炎のアルカナ”シャンタル殿が講師となれば、皆興味を持つでしょう」
「こりゃあ責任重大だね」
教えるのは嫌いじゃないが、あそこまでやる気の無い相手だとなあ。
彼らの興味を惹くような授業内容を考えないと。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
98
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる