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第一章 移住編

19. やる気のない生徒たち

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 数日後、私とアニエスはフェリクス殿下と共に学園に向かった。

 王都の中心街から少し離れたところにある学園は、かなりの広さだった。
 入り口には衛兵まで立っている。まあ高位貴族や王族も通っているのだから当然か。

「引っ越しは無事に終わったか?」
「ああ。手伝いにパトリックとロベールを寄越してくれて助かったよ」

 陛下の容態も落ち着いたので、私たちは用意してもらった屋敷に移ったのだ。使用人も用意されていた。
 国王の病気を治したのだから当然かもしれないが、ハラデュールとは比べものにならないほど手厚い待遇だ。

「俺も行きかったのだが、政務が溜まっているから手伝えと兄上に捕まってしまってな」
「今日はいいのかい?」
「学園の行事だと言って無理矢理出てきた」

 意外にも、フェリクス殿下はまだ学生だった。
 いや、年齢を考えれば当然なのだが。
 学園に通っている気配が無かったので、もう卒業したものと思っていた。
 彼曰く、既に飛び級でほとんどの課程を終えており、あとは気が向いた時や特別授業の時だけ顔を出しているらしい。

「飛び級!殿下は優秀なんですね」
「いや。政務の人手が足りないんだ、とっとと課程を終わらせろと父上と兄上に言われて、死ぬ思いで単位を取りまくったんだ。あれはキツかった……」

 フェリクス殿下が遠い目をしている。
 王族も大変なんだな。どっかのバカ王子とは大違いだ。
 
「そろそろ精霊術の授業が始まる時間だ。先生には話を通してあるから、見学に行こう」

 教室に入ると既に授業は始まっていた。
 席には十人程度の生徒が座っている。教壇に立っていた男性はこちらを見て軽く頭を下げ、授業を再開した。

「文献に残っている精霊術士のもっとも古い記録は、千年前の精霊術士サロモン・ダンドリューです。当時は精霊術士という言葉はなく、単に精霊使い、もしくは魔法使いと呼ばれて……」

 教師が説明しているというのに、真面目に聞いている生徒はほとんどいない。
 隣の生徒とコソコソ話に興じる者や、寝ている者。振り返ってこちらを見ている者もいる。

「見て、フェリクス殿下よ!今日は学園にいらっしゃる日だったのね」
「隣の女性たちは誰かしら?見かけない顔だけれど」

 小声でしゃべっているつもりだろうが、丸聞こえだ。
 なるほど。殿下の整った容姿に王族という身分。さぞ女性徒たちに人気があるんだろう。

 女生徒の刺すような視線を受けながら、私たちは授業を見学した。

 
「私はユベール・エストレと申します。大精霊士アルカナ・マスターシャンタル殿にお会いできるとは光栄です。こちらはお弟子様ですか?」

 ユベールは眼鏡をかけた痩せぎすの男性教師だった。
 彼は子爵位の持ち主で、水の精霊士でもあるそうだ。

「はい、アニエスと申します」
「この子は三属性の持ち主でね。弟子にして十年になる」
「おお、ならば未来の小精霊士スート・マスター様ですな。優秀な生徒をお持ちでうらやましい」

 ユベール先生は眼鏡をくいっと上げながら、アニエスを興味深そうに見た。

「授業を拝見したが。正直に言って、あまり活気が無いようだね」
「恥ずかしながら……。精霊術は選択科目ですが、本当に興味を持って受けようとする生徒は、ほとんどいないのが実状です」

 生徒たちは単位目当てに受けているらしい。
 各科目には最低限、合格させなければならない生徒数のノルマがある。人気の無い科目の方が、合格しやすいと思っているのだろうとユベール先生が述べた。

「ですが、”炎のアルカナ”シャンタル殿が講師となれば、皆興味を持つでしょう」
「こりゃあ責任重大だね」

 教えるのは嫌いじゃないが、あそこまでやる気の無い相手だとなあ。
 彼らの興味を惹くような授業内容を考えないと。
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