21 / 160
第一章 移住編
20. 新居 ◇
しおりを挟む
学園を辞した後、フェリクス殿下が私たちを家まで送って下さった。
新しい家は、王都の中心街から少し離れた閑静なところにある。元は男爵家がタウンハウスとして使用していたが、今は新しい屋敷へ移ったので空き屋となっていたらしい。
玄関には立派な階段とシャンデリアがあって、大広間が二つもある。
客室もたくさん。二人で住むには大きすぎるくらいの広さだ。
せっかくだからお茶でも飲んでいきなとお師匠様が誘い、殿下が我が家へ寄ることになった。
お師匠様がお茶に誘うなんて、珍しいこともあるものだ。フェリクス殿下を気に入ってるのかしら?
「お帰りなさいませ」
玄関で使用人の二人が出迎えてくれた。
二人とも女性で、住み込みで働いてくれている。
年輩の女性がアンナさん。以前は子爵家に勤めていたこともある、ベテランだ。結婚して引退していたけれど、子供が独り立ちしたので再就職したそうだ。
もう一人はセリアさんで、アンナさんの姪ごさん。以前は商家に勤めていたそうだ。
この広い屋敷を一人でお掃除するのは大変だなあと思っていたので助かった。
お師匠様は家事には無頓着だから、放っとくと部屋がすぐにぐちゃぐちゃになる。研究に没頭して食事を忘れることもしばしばだ。
ここでは彼女たちが食事を用意してくれるので、毎日美味しいものが食べられる。
小さい方の応接間で、セリアさんが出してくれたお茶を飲んだ。焼き菓子もついている。
焼き菓子はふんわりと美味しくて、ナッツの味がした。
アンナさんが作ったのかな。アンナさんのお料理は本当に美味しいんだもの。
「美味しそうに食べるな」
私の顔を見て、フェリクス殿下が面白そうに言った。
そんなに顔に出していたのだろうか。恥ずかしい。
「学園はどうだった?」
「とっても綺麗な建物だし、生徒さんたちは楽しそうでした。私は学校なんて通ったことがないから、興味深かったです」
「アニエス殿も入学したら良いではないか」
私が学園に通う……?
でも、あそこはほとんどの生徒が貴族の子息令嬢だと聞いた。学費もかかるだろうし、私なんかが通っていいところではない。
「いえ、私は精霊士の修行がありますので」
「そうか」
フェリクス殿下は少し残念そうに、お茶を口にした。
「うん、このお茶は美味いな」
「お茶もそうだが、料理も美味いんだ。良い使用人を紹介してもらったよ」
「それは良かった。だが、本当に使用人は彼女たちだけでいいのか。男手もあった方が良いと思うが」
女所帯では不用心だ、と殿下が続ける。
「その点は問題ないよ。屋敷には結界が張ってある」
「結界?」
一旦、三人で外に出てみた。
お師匠様に促され、殿下が窓に触ろうとする。だが、その手は弾かれてしまった。
「これが結界か。見えない壁のようだ」
「入れるのは私が認めた者、もしくは玄関から招き入れた者だけだ。招かれざる客は入れない」
「なるほど。これなら防犯は問題ないな」
その後は殿下も自由に入れるよう、結界に登録した。
やり方は簡単で、要石として用意した精霊石に手を降れてもらうだけだ。
これもお師匠様が発明した術らしい。似たような結界術はあるけど、こんな小さい精霊石で賄えるのは、お師匠様が工夫して効率を良くしたからなのだ。
「ふうむ。この屋敷の土地全体に張ってあるのか。これは、もっと広い地域に使うことは可能か?」
「できなくはないだろうが、特大の精霊石が必要になるな」
「そんな大きな精霊石、手に入れられたとしても国家予算レベルの代金が必要になるだろうな。国境の防衛に応用できればと思ったが、無理そうだ」
殿下が帰られた後に食器を片づけるセリアさんを手伝っていたら、お師匠様に声をかけられた。
「アニエス。学園に通いたいかい?」
「え、でも」
「金のことなら心配いらないよ。折角この国に来たんだから、経験できることは何だってしておくべきだ」
お師匠様には、私の気持ちなんてお見通しだったようだ。
迷惑をかけてしまうかもしれないけれど。
やっぱり、行ってみたい。
「はい、行きたいです」
新しい家は、王都の中心街から少し離れた閑静なところにある。元は男爵家がタウンハウスとして使用していたが、今は新しい屋敷へ移ったので空き屋となっていたらしい。
玄関には立派な階段とシャンデリアがあって、大広間が二つもある。
客室もたくさん。二人で住むには大きすぎるくらいの広さだ。
せっかくだからお茶でも飲んでいきなとお師匠様が誘い、殿下が我が家へ寄ることになった。
お師匠様がお茶に誘うなんて、珍しいこともあるものだ。フェリクス殿下を気に入ってるのかしら?
「お帰りなさいませ」
玄関で使用人の二人が出迎えてくれた。
二人とも女性で、住み込みで働いてくれている。
年輩の女性がアンナさん。以前は子爵家に勤めていたこともある、ベテランだ。結婚して引退していたけれど、子供が独り立ちしたので再就職したそうだ。
もう一人はセリアさんで、アンナさんの姪ごさん。以前は商家に勤めていたそうだ。
この広い屋敷を一人でお掃除するのは大変だなあと思っていたので助かった。
お師匠様は家事には無頓着だから、放っとくと部屋がすぐにぐちゃぐちゃになる。研究に没頭して食事を忘れることもしばしばだ。
ここでは彼女たちが食事を用意してくれるので、毎日美味しいものが食べられる。
小さい方の応接間で、セリアさんが出してくれたお茶を飲んだ。焼き菓子もついている。
焼き菓子はふんわりと美味しくて、ナッツの味がした。
アンナさんが作ったのかな。アンナさんのお料理は本当に美味しいんだもの。
「美味しそうに食べるな」
私の顔を見て、フェリクス殿下が面白そうに言った。
そんなに顔に出していたのだろうか。恥ずかしい。
「学園はどうだった?」
「とっても綺麗な建物だし、生徒さんたちは楽しそうでした。私は学校なんて通ったことがないから、興味深かったです」
「アニエス殿も入学したら良いではないか」
私が学園に通う……?
でも、あそこはほとんどの生徒が貴族の子息令嬢だと聞いた。学費もかかるだろうし、私なんかが通っていいところではない。
「いえ、私は精霊士の修行がありますので」
「そうか」
フェリクス殿下は少し残念そうに、お茶を口にした。
「うん、このお茶は美味いな」
「お茶もそうだが、料理も美味いんだ。良い使用人を紹介してもらったよ」
「それは良かった。だが、本当に使用人は彼女たちだけでいいのか。男手もあった方が良いと思うが」
女所帯では不用心だ、と殿下が続ける。
「その点は問題ないよ。屋敷には結界が張ってある」
「結界?」
一旦、三人で外に出てみた。
お師匠様に促され、殿下が窓に触ろうとする。だが、その手は弾かれてしまった。
「これが結界か。見えない壁のようだ」
「入れるのは私が認めた者、もしくは玄関から招き入れた者だけだ。招かれざる客は入れない」
「なるほど。これなら防犯は問題ないな」
その後は殿下も自由に入れるよう、結界に登録した。
やり方は簡単で、要石として用意した精霊石に手を降れてもらうだけだ。
これもお師匠様が発明した術らしい。似たような結界術はあるけど、こんな小さい精霊石で賄えるのは、お師匠様が工夫して効率を良くしたからなのだ。
「ふうむ。この屋敷の土地全体に張ってあるのか。これは、もっと広い地域に使うことは可能か?」
「できなくはないだろうが、特大の精霊石が必要になるな」
「そんな大きな精霊石、手に入れられたとしても国家予算レベルの代金が必要になるだろうな。国境の防衛に応用できればと思ったが、無理そうだ」
殿下が帰られた後に食器を片づけるセリアさんを手伝っていたら、お師匠様に声をかけられた。
「アニエス。学園に通いたいかい?」
「え、でも」
「金のことなら心配いらないよ。折角この国に来たんだから、経験できることは何だってしておくべきだ」
お師匠様には、私の気持ちなんてお見通しだったようだ。
迷惑をかけてしまうかもしれないけれど。
やっぱり、行ってみたい。
「はい、行きたいです」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
98
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる