【完結】俺は遠慮します。

抹茶らて

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定位置

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色々あった林間学校が終わり普通の学校生活が戻って来た。相変わらず非公式の親衛隊はいるがその行動は以前より制限されているとかいないとか。俺の崖から落とされて遭難した事件は生徒へ対して大々的に伝えることはしていないが、親衛隊とかの中で多少なりとも噂が広がっているのは確かだろう。

処罰のことを色々考えたけど良い案が出ないんだよなぁ。でも、もうすぐ輝樹先輩に言い渡された期限が来てしまう。退学とかは大きすぎると思ってるんだよな。尊と徹は退学だって騒いでるんだけど。

「はーい、そこまで。次は二人一組で柔軟!」

今は体育の授業中だけど俺は手足を捻挫しているから見学中。やることもないから、と言うか出来ることがないからひたすら考えてるんだけど良い案が出ない…

「夜須川ージッとしてるものしんどいだろ。保健室行っていてもいいぞ。」

体育の鈴木先生がけが人の俺を労わる様に言葉を掛けてくれる。
本当にやることないし、先生のお言葉に甘えて校舎に入る。

先日のことを思い出し、保健室へ行くのはな~と思いつつ授業中で誰もいない廊下を徘徊する。
ちょうど中庭が見えるところまでやって来ると、いつもは行かない中庭へ入る。なんとなく行きたくなったから。ちなみに、俺は中庭に入ったことはない。

暇からくる好奇心なのか、未知なる場所に引き寄せられる。花壇の先には立派な桜の木の下にベンチが一つ。周囲の木々によって木陰になっている。
ベンチに近づき、そのまま座って横になる。目を瞑ると木々の葉の間からさす温かな日の光と気持ちのいい風が俺の夢へといざなう。


―――――――――
「なんだ?俺の定位置に誰かいるのか?……栄人ッ!」

栄人の担任こと如月裕翔のいつもの定位置には、風に髪を弄ばれながらもすやすやと眠る栄人の姿が。

自身の容姿は理解しつつも騒がれることを好まない裕翔は、生徒がほとんど来ないこの場所がお気に入りなのである。

いつも自分が座っている場所に栄人が寝ているだけで、変にドキドキする心臓に学生に戻ったような錯覚を感じる。これだけのことで、照れる様な舞い上がるような気持ちになるのはいつ振りかと。

自分の気持ちを知ることはないであろう目の前の思い人は、キレイな顔を少し幼くして寝入っている。



自分の引率していた林間学校で栄人の身に起こったことは粗方聞いてはいたが、実際に目のあたりにすると痛々しい手足首が目を引く。
自分が引率をしていながら守れなかった。予測できなかった。自分が無力なために好きな子を危険に晒してしまった。その現実が裕翔の胸に刺さる。

「俺が謝っても受け取ってはくれないだろうな。だから、今のうちに謝っておくよ。栄人、危険な目に合わせてごめんな。…チュッ…」

栄人が寝ていることいいことに、守れなかったことの謝罪をする裕翔。そしてそのまま、額にキスを落とす。
それからしばらく、風に弄ばれている栄人の髪を撫でて、普段は出来ない甘やかしの時間を楽しんだ。



その温かさは裕翔が去った後もかすかに栄人の頭に残っていた。


「んぅ~…ん…?誰かいた?…気のせいか…」




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