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第61話
しおりを挟む応接室を飛び出した私に、メグは驚いた顔をした。
「奥様、どうされました?お加減でも悪いのですか?」
と訊ねるメグは心配そうだ。
「いえ。少し緊張してしまっただけ。
メグ、私のワンピースで良いから、イメルダ様に合うやつを見繕ってくれる?
あの格好ではお食事に埃が入ってしまいそうだもの」
と私が弱々しい笑顔を見せると、
「本当に大丈夫ですか?旦那様がお戻りになるまで、少しお部屋でお休みになって下さい。
って言うか、あの女に奥様のワンピースを?勿体ないですよ!私ので丁度良いでしょうから、私のをくれてやりますよ!」
と少し怒ったように言うメグが可愛らしい。
「そんな事をしたら、メグが困るでしょう。良いの、私のを差し上げて?
…だって私の持ち物は…本当ならイメルダ様の持ち物だったんですもの」
と言う私に、メグは眉を下げた。
「あれは奥様…いえアメリア様の為の物です。決して他の人の為に用意された物なんかではありませんよ」
と優しく言うメグに、私は微笑みながら、
「そうね。ごめんなさい。言い方が悪かったわ。…でも、良いの。私があまり着ない…ほらピンクのワンピースがあったでしょう?あれなら、イメルダ様に似合うと思うわ。私には少し派手だったから。
サイズが合わないのは勘弁してもらって頂戴。…じゃあ、私は少し部屋で休むわね」
と言ってメグに背を向けた。
メグは少ししてから、その場を動き出したようだ。
私が部屋で休んでいると、メグが渋々といった様子で私の言っていたワンピースを持って行った。
私はメグにお礼を言うと、さっきのイメルダ様の言葉を思い出していた。
『そこは私の場所』
…そう。邪魔者は私。
旦那様だってイメルダ様が生きて帰って来たとわかれば、直ぐにでも戻ってくるだろう。
再会した2人は…熱く抱擁を交わすのだろうか?
口付けを交わすのだろうか?
旦那様から閨の時も口付けをされた事がない私は、思わず唇をきつく噛み締めていた。
…そんな2人は見たくない。イメルダ様に笑顔を見せる旦那様を見たくない。
…あぁ…そうか。私は旦那様に惹かれていたんだ。
この場所を失いたくないだけじゃない…私は、旦那様の側に居たかったのだ。旦那様の子を産みたかったのだ。
気づくと頬を涙が濡らしていた。
私は居ても立ってもいられず、部屋をそっと出る。
遠くから、
「このワンピース、胸がきついわ!」
と文句を言うイメルダ様の声が聞こえる。
…確かに、イメルダ様の胸は豊かだった。私のワンピースでは、少しきついだろうが我慢して欲しい。
この王都のタウンハウスも旦那様の意向で、使用人は少ない。
今なら、誰にも気づかれずにこの屋敷を出る事が出来るかもしれない。
私は、辺りを見回して、人が居ない事を確認すると、急いで下に降りて、裏庭に回り、裏門から屋敷を後にした。
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