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18:氷の妖精から炎の妖精にジョブチェンジしたピヨちゃん?

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手元に戻ってきた母上の日記。それは少女が好むもののようなピンク色をしていて可愛らしい花が表紙に描かれているものだ。

鍵はついていないが、この日記にはとある魔法が掛かっていてそのままでは開くことができない仕組みになっている。だから、正妃が先に見つけても開けるまでには時間がかかったはずではある。

勿論、僕は母上から解除の合言葉を直接口頭で聞いていた。だからそれを唱えた。

「もっと熱くなれよ 熱い血燃やしてけよ!人間熱くなった時が本当の自分に出会えるんだ!!」

「ティラノたんが、いきなり熱血系に??あの冷たい感じの目をする罵られたい系ナンバーワンのティラノたんが??えっ、全裸でうろうろしたから風邪引いたかな??大丈夫??強い根っこを作るためにお米食べる??」

ヨグ様がオロオロしながら、なんかモコモコした羽織ものを僕に着せた。

「今のは日記を解除するための呪文です。なんでお米たべさせようとしているのですか。まぁ食べ物はなんでも食べますが……」

昔、残飯を食べさせられていた時期があったのもあり、僕には好き嫌いはない。しかしこの国の主食はパンなのでお米はあまり食べられてはいない。異国の料理を出す店で出しているそうだけれど実は一度も食べたことのない食材だったりする。

「そっか、てっきり僕はティラノたんに炎の妖精あるいは太陽の神が憑依したのかとちょっと心配になったよ。僕としては今の氷の妖精みたいなティタノたんが好きなんでいきなり180度も属性が変わるとね、どんなティラノたんも好きだけどびっくりしちゃうよ」

「今のは母上の信条です。ちなみに日記にも母の熱い血潮があふれています」

僕は見慣れた、母上の日記の最初の一文を朗読した。

『100回叩くと壊れる壁があったとする。みんな何回叩けば壊れるかわからないから、90回まで来ていても途中であきらめてしまう。でも私は諦めたくはない。だからこの日記をつけることにした。これは私が何回その強制力かべを叩いたか、挑んだかを確認するための日記。いつか私がその強制力かべを叩き割れると信じている』

僕の記憶にある母上はいつも戦っていた。それがどうやら強制力というものとらしいことは、幼いながら理解していた。母上には僕にない異国の知識もあった。そしてその知識はこの日記にいくつか記されていて僕を何度も救ってくれた。

「ティラノたんの母上は熱い女性なんだね。しかし、この熱さ既視感があるな。どこだっけな……」

ヨグ様がめずらしく大人しいので今のうちに必要そうな部分を読み返そう。何度も何度も読み返しているその日記には読み癖がついている。

(多分、この辺りの記載がずっと気になっている)

そこには以下の記載がされていた。

『この世界は間違いなく妹ざまぁ小説で人気だった『何でも欲しがる妹に全て奪われた私ですが竜族の血を引く王太子様の番だったので溺愛されています』の世界だ。そして、私はざまぁされる妹のエウラリア・イホウンデー・ベテルギウス。今はまだ婚姻前だから苗字はベテルギウスではないけれど。しかし、私は転生者なので、なんとしてもその未来を変えようと思う。明日私は母と一緒に公爵家に連れ子としてついていく。その際に姉と少しでも仲良くなれるように努力しよう。絶対に破滅から逃れてみせる!!』


『おかしい。姉と仲良くしたいし私はあの小説のエウラリアのように姉から何かを奪ったりもしていないしいじめてもいない。それなのに姉がどんどん貧相な恰好をしていく。小説では私以外に父、母、使用人が姉をいじめる。父母には手を回した。だとすれば使用人が何かしているのか??姉が幸せに暮らせるように私はそれを調べないといけない』

『使用人もなにもしていなかった。ではなぜ姉はまるで小説のようにボロボロの格好をして社交界に出ることを拒むのか??姉が持っていたはずの服飾品やアクセサリーはどこに消えたのか。原作では私に奪われて……そこまで考えて私はある恐ろしいことに気付いた。この世界は果たしてweb版の世界だろうか??それとも書籍版の世界だろうか??web版なら姉から奪ったアクセサリー類を妹は身に着けて飽きたら捨てているが、書籍版なら確か飽きるまでつかった後は売りさばいていたはず……』

『ビンゴだ。何故か姉は自身の私物を私の名前で売りさばいていた。なぜそんなことを彼女はしたのだろう??それだけじゃない。私は姉が不自由しないように使用人にも、姉を嫌う母も説き伏せて嫌がらせをしないように言明している。正直自身を愛していない家族に形だけまとわりつかれてもそれはそれで姉としたら、ウザイだろう。だから、せめて、快適に暮らせる環境を整えた。そこからどうするかは姉次第。私が決めることではないから。けれど何故か姉はわざと酷い目にあっているフリをしつづけている。お茶会や、舞踏会にも「ドレスがない」「私には相応しくない」等理由をつけて断り続けている。私が「ドレスは一緒につくればいい」「お姉様なら私よりマナーもできる」と説き伏せても頑なに断り続ける。姉の意図が全く分からない』

『この国の王太子との婚約話が持ち上がった。私は即座にその相手は姉であるべきだと自身は身を引いた。それなのに何故か結果的に私が婚約者にされた。何度も、姉が王太子の番で私では釣り合わないと話したが、父が納得しなかった。この婚約話は公爵家の娘ならどちらでも良いという打診だったと父は言っていたが、本当は姉を指名しているはずだ。それを原作では私と父と母で結託して捻じ曲げて婚約者を挿げ替えたのだが、今回、破滅を防ぐべく私はそれを拒絶した。それなのに何故??父を問いただせば姉が私と結ばれた方が王太子が幸せになれると辞退したそうだが、とても引っかかる。web版では私が強引にその座を奪っていた。書籍版では姉が辞退したことにして無理やりその座を奪ったはずだ。なんとか姉が婚約するように持っていきたいけれど方法はないだろうか??』

『そういうことだったのか。私は、姉の意図を悟ることになった。いつも頑なに社交の場に出ない姉が、建国記念パーティーに出るといった。心境の変化があるなら良いことだと思い、私達は姉の好きなようにドレスを作らせたし、アクセサリーを買うお金も出した。けれど姉はそのドレスもアクセサリーも着用せず見たことのない高級な青いドレスで現れた。そしてこの国の秘宝『竜の涙』を胸につけて現れたのだ。人々はその美しさに羨望の眼差しを向けたが、私はとても嫌な予感がした。その恰好は確か正体を隠して姉と親密になっている番の王太子が贈ったものだった。そして、その日、私は罪なき罪で断罪された。全ては冤罪だった。けれど証拠が何故か提出される。そこで私は気づいたのだ。この世界の強制力かべの盤石さに』

真剣に母上の日記を読んで考え込んでいたので、僕に隙が生まれていた。

「ティラノたん。はぁはぁ、めぼしい内容は見つかったのかな??」

いつの間にかすぐ後ろに居た変態が僕の首筋辺りのにおいを嗅いでいた。気付いた瞬間こそばゆい感覚がして思わず払いのけるが、簡単にかわされたので腹が立つ。

「距離が無駄に近いです。息が首にかかって気持ち悪いのでもう少し離れてください」

「えええ、ティラノたんが構ってくれないと僕、暇なんだよ。せめてティラノたんのその香しいにおいくらい嗅がせてよ。本当はこのままこの寝室を封印してティラノたんと1年巣籠耐久エッチをしたいの我慢しているんだよ??あのタンスの中にはティラノたんに着せたいエッチなナイトドレスもいっぱいなのに着せないで我慢しているんだよ??さらにティラノたんに……」

「一応、日記のめぼしい部分は見つけました。ただ、僕にはいくつかわからないことがあります。世界が生まれた日から生きているヨグ様の見解を伺いたいです」
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