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爺さんの頼まれ事

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俺は手元の手紙を握りしめて、爺さんの家の裏山を登っていた。昔ながらの大きな家の敷地内の裏山は、なだらかながら登ると案外息が切れた。大学生になって運動というものから遠ざかっていた俺は、肩で息をしながら裏山のてっぺんにある祠目指して歩いていた。家からは見えなかったけれど、登り切った頂上には5m四方に平らに整地してあって、奥に石造りの1mほどの祠があった。


俺は少しシワになった手紙を広げると、もう一度手順を確認した。リュックに入れてきたペットボトルの水2リットルと大さじ1の塩と砂糖をその場で混ぜ合わせると祠の上からドブドブと全部かけた。

よく考えたら、これってスポーツ飲料だよなぁと思いながら、乾き切った石の祠にあっという間に吸い込まれる水を眺めた。俺は重い荷物が減ったことに喜んで、周囲を見渡した。手紙には祠への水掛けと、水を掛け続ける期間の祠の周囲への草むしりが書いてあった。


ヘルニアの手術で入院中の爺さんから、高額報酬のバイトの話が来たのは一本の電話だった。たまたま春休みが始まったばかりでごろごろしていた俺は、爺さんの相変わらず人の話を聞かない一方的な電話で、バイトを引き受けることになっていた。

先月キツいバイトを辞めたばかりで金欠だった俺は、押し切られる形で引き受けた。それから直ぐに届いた俺宛の手紙には、一日1万円で爺さんちの裏山の祠の管理を頼むという事、そのやり方、期日が書かれていた。

管理を始めたら10日間休みなく必ず実行する事と、朝7時から8時の間に行う、この二つの条件を守ること、それだけは赤文字で書かれていたので、まぁ大した内容でもないし、10日で10万円、交通費支給で小旅行気分でここまで来たわけだ。



やべー、完全に寝坊だ。俺は布団から飛び起きると、用意してあったなんちゃってスポドリを抱えて、部屋着のまま慌てて裏山へ走った。

昨日は滞在3日目で、このど田舎に娯楽などあるはずも無く、暇で困った俺は付近をトレッキングと言う名の散策をした後、適当に自炊をして、それこそ時間の許す限り動画サイトで評判のアニメを観まくってしまった。

その結果として、俺は朝どころか、もはや昼に近い11時過ぎに山を駆け登っていた。この寝坊がとんでもない事に巻き込まれる着火剤だとは思いもせずに。
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