本物の聖女が来たから用済みだと言われたので、出張聖女は自分の国に帰ることにしました

小倉みち

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第2章

帰郷

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 妖精の住まう国というのは。


 簡単に何者かが侵入することの出来ないよう、入り組んだ場所に存在し、さらに結界が何重にも貼られている。


 なぜ、魔族である私たちが、人間界でそこまでする必要があるのか。


 それはひとえに、私たち妖精族が物理的攻撃に対して非常に弱いという側面があるからだ。


 私たちは魔族の中でも一際小柄で、繊細な生き物だ。

 特に羽が傷つくと1発でアウト。


 そういう種族だからこそ、魔族という魔法に特化した生き物でいられて、非常にありがたかったと思っている。


 ちなみに、私たち妖精族が魔界へ行かなかった理由について、それも一部含まれているなんていう説もある。


 魔界は実力主義の世界だ。

 そんなところにのこのこと現れれば、私たちは一瞬にして他の魔族に滅ぼされるだろう。


 神話時代のご先祖様は、それを見越して人間とともに生きるという選択肢を選んだのかもしれない。


 妖精族や、ギルなどの一部の信用出来る者しか入ることの出来ない結界を何度も通り抜けると、その先に「太古の森」と呼ばれる広大な森林が現れる。


 太古と名のつく通り、魔族と人間族の争いの前から存在する場所だと、族長は言っていた。


 妖精の国は、その太古の森の中心部にあった。


 私たちの身体に合わせた、こじんまりとした家々の立ち並ぶ小さな集落である。


 自然とともに生き、死すれば私たちの身体は大地に還元される。

 神に対する信仰心の強い私たちは、そうやって何千年、何万年という気の遠くなる年月を過ごしてきたのだ。


「ただいま!」


 ギルの身体から飛び降りた私は、久しぶりに会う妖精族のみんなに駆け寄る。

「えっ! フィオーネ!?」

 集落の外れに住んでいるルーは、突然現れた私の姿に驚きを隠せない。

「どうして? 仕事は? 出張聖女は?」

「うわ、酷い」


 私は顔を両手で隠し、ウソ泣きをする。

「2年ぶりに会ったのに、まずは、

『おかえり』

 って言ってくれないんだ。私に会いたくなかったのね」


「いや、そんなこと……」


 思春期に今にも入ろうとしている少年は、顔を真っ赤にして俯いた。

「お、お帰り」

「ただいま」


 私はルーを抱きしめる。

「こら」


 人型の姿に戻ったギルは、私からルーを無理やり引きはがす。

「ちょっと」

「何やってんだ。お前の馬鹿力で、ルーが息出来なくなるだろ」

「ひっど」

「酷くない。事実だ」


 相変わらず、ギルはデリカシーという言葉をお母さんのお腹の中に置いてきてしまっているらしい。


「……それより」


 まだ顔の赤いルーは、私たちを交互に見比べる。

「まだ契約中だったはずだよね? ……ええっと、どこだっけ?」

「ギーリウス王国よ」

「そうそう。その、ギーなんとかの出張聖女、期限が延びたっていう連絡、向こうから来たって先日族長が」

「それがねぇ、聞いてよ」


 私はルーの肩をポンポンと叩く。

「本物の聖女が見つかったんだってさ」

「本物?」


 ルーは首を傾げる。

「本物ってどういうこと? だって、『聖女』に本物もどうもないじゃないか。僕らが適当に作った造語なんだから」

「そうなのよねぇ。でも、向こうが言うには、『本物の』聖女らしいわ」


 私はキョロキョロと周囲を見渡す。

「族長はどこ? 挨拶してこなくちゃ」

「族長なら、自室にいらっしゃると思うよ」

 ルーは答えた。

「ありがとう。じゃあ、ちょっと挨拶してくるわね」


 私は彼に手を振り、その場を離れた。




 
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