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謎の秘書

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 謎の秘書とイヴァンの父親は、私たちの顔色が急変したのを、自分たちが有利になったと判断したらしい。


 イヴァンの父親は得意げな顔で、その封筒から証拠を取り出す。


「こちらが、その証拠でございます。どうぞ陛下、ご覧くださいませ」


 彼はどたどたと陛下の前にやって来て、仰々しくその中身を渡した。


 陛下の前の机に、数枚の写真とテープレコーダーが置かれた。


「まずは、このテープをお聞きください」


 イヴァンの父親は、レコーダーのボタンを押す。


 ガガガー。

 ピー。


 ザーザー、という雑音とともに、人の声が聞こえ始める。


『えー、えーっと、なんだっけ……』

 ジェシーの声だ。

『あー、ええっと。あっ』


 ここで、ブチッと不自然に切れた音。


『な、なんで俺とジェシーが付き合っているだなんて言うんだ……!?』


 鬱陶しいくらいドラマチックな声色を出す男。


 イヴァンだ。


『そうよ、グレース。あなたとイヴァンは仲睦まじいカップルじゃない。私、あなたとイヴァンの邪魔をしたことなんて一度もないわよー』


 少し棒読み気味なジェシーが続ける。

『私とイヴァンが付き合っているなんて誤解しないで! 私たちは潔白よぉ』

『お前もわかっているだろう、俺はグレース一筋なんだ! どうして、そんなことを言うんだ。グレースぅ……!』


 すると、

『キャハハハハハハハハハハ!』

 甲高い女の笑い声が部屋に響き渡る。


 誰だ?

 この女は。

 聞いたことがない。


『もちろん、あなたたちが爛れた関係でないことは知っているわよぉ』


 ……なんだか、ねちょねちょした話し方をする人だな。


『では、どうして俺たちが付き合っているなんていう噂を流したんだ、グレース……!』


 イヴァンが叫んだ。

『もちろん、あなたとジェシーを陥れるに決まっているじゃない! 私は、あなたたちを不幸のどん底に落としてやりたいのよぉ!』

『どうして、どうしてなんだ、グレースぅ!』


 また不自然に音声が途切れた。

「……」


 陛下は何も言わない。


 ただじっと、テープレコーダーを見つめている。

 私とお父様は顔を見合わせた。


 えっ、何これ。


 何これ。


 何これ。


 これが証拠?


 空気が重い。

 誰も何も声を発さない。


「どうですか、陛下」

 
 その静まり返った雰囲気をぶち壊したのは、イヴァンの父親だった。

「これでおわかりになったでしょう。グレース嬢は、イヴァンとジェシーが不適切な関係にあるという嘘を周囲に広めたのです」


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