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第1章

掲示板①

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 私の朝は早い。


 鶏の鳴き声によって目覚め、まだ日が昇りきっていないうちから行動を始める。


 私の家は、村で養鶏場を営んでいた。


 家族総出で毎日、朝早くから鶏たちのお世話をする。


 両親はメスが産んだ卵を集め、かごに入れていく。

 鶏を移動させて鶏舎を掃除するのは、私たち子どもの役目だ。


 最初は、凄く嫌だった。

 糞まみれの小屋を掃除するのは、もともと公爵令嬢だった私に耐えられる代物ではなかった。


 しかし人間という生き物は、時間の経過とともに慣れてくる生き物だった。


 今では、鶏小屋の掃除もお手のもの。

 鶏の糞だって、手で触れる。


 鶏の世話が終わったら、今度は身を清めて教会へ向かう。


 この村の人々は信心深いが、それでも教会に通うのは週に一度。


 毎日熱心に教会へ行くのは、村の中でも私だけ。


 前世ではそうでもなかった私が、どうして敬虔な信徒となったのかは、生まれ変わりに由来する。


 前世の私は、恐ろしいまでに罪を犯しまくった。


 地獄行きになってもおかしくないほど、たくさん酷いことをしてきた。


 それなのに、神様は私を憐れんで、もう一度生きるチャンスをくださったのだ。


 もしかすると本当は、今祈りを捧げている神様ではないのかもしれない。

 もっと別の誰かが、私を生まれ変わらせてくれたのかもしれない。


 それでも、祈ることは大事だと思っている。


 私は、国教を本気で信じているわけではない。


 私にチャンスをくれた誰かに向かって毎日感謝することこそが大事で、その感謝の心の受け皿になっているのが、この村の教会なのだ。



 祈り終わると、迎えに来てくれた友達と一緒に、村の学校に通う。

 放課後は家に戻り、また鶏たちのお世話をする。


 私の毎日は、いつもこんな感じだった。

 平日も休日も変わらない。


 時々町へ遊びに行く友達とは対照的に、私はずっと村で過ごしていた。


 それが良い。

 それで良い。


 私は堅実に生きる。

 分相応に生きていく。


 毎日毎日同じことをする、平凡な村娘。


 それが私だった。


 しかし、今日は少し違うみたいだ。


 いつもの通り、教会で祈っている私を迎えに来た友達が、興奮気味にこう言ったのだ。


「ねえ、エミリー! 見た? 掲示板」

「一緒に見に行こうよ! 凄いわよ!」


 彼女たちはそう言うと、強引に私を外へ引っ張り出した。

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