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2章
2章8話(109話)
しおりを挟むさっきまであの中に自分が居たことが不思議なくらい、煌びやかな世界。そんな世界の中に私がいるなんて……。ソルとルーナが私に顔を向けていることに気付いて、「どうしたの?」と声を掛けた。
「エリザベスは楽しんでる?」
「楽しんでいるわよ。アカデミーってどんなところなのか良く知らなかったけれど、イヴォンやアル兄様との文通で想像を膨らませていたの。想像の何倍も素敵なところだなぁって、入学初日から思っているわ」
キラキラと輝く世界。色が見えるようになった時も世界が広がったと思った。……二年前まで、私の世界は暗くて狭い場所だと思い込んでいた。それが今ではこんなにも明るく輝かしい場所に立てる。そのことがとても嬉しい。
今の私なら、色々なことに向き合えそうだと思った。
「家族にも友達にも恵まれて、私は果報者だとしみじみ思うもの……」
「まだまだ」
「これから」
「もっともっと」
「幸せにならなくちゃ」
ソルとルーナが交互に喋る。精霊たちと一緒に眠るようになってから、私の身体はすこぶる健康だ。今までは身体の中に魔力をぎゅうぎゅうに詰め込んでいたみたいで、アカデミーに入る前にソルとルーナに二年分の魔力がどのくらい溜まったのかを聞いたら、アンダーソン家が三つは入るくらいと言われた。とても広いお屋敷だから、そのくらいの魔力がソルとルーナに食べられていると思うと何だか不思議な気がした……。
「……お邪魔だったかな?」
一通り踊り終えたのか、ヴィンセント殿下も飲み物を手にしてバルコニーにいらっしゃった。私は緩やかに首を横に振る。ホッとしたような笑みを浮かべるヴィンセント殿下に、私も微笑みを返した。
「改めて、入学おめでとう」
「ありがとうございます」
乾杯、と目元までグラスを持ち上げる。一口飲んで、それからゆっくりと息を吐いた。
「運動後のレモネードって美味しいよね」
「本当に。……殿下はレモネードがお好きなのですか?」
「こういう運動後ならね。酸っぱすぎるのは苦手なんだ」
肩をすくめるヴィンセント殿下に、私はくすくすと笑い声を上げた。ヴィンセント殿下はすっと目元を細めると、会場へと視線を向ける。つられるように会場へと視線を向けると、真っ赤なドレスを着た女性……ジェリーが誰かと踊っているのが見えた。
「……そっくりだね」
「え?」
「ジュリー・ファロンによく似ている。ただ……何となく違和感があるな……」
「……違和感?」
「うん。……なんだろう、混ざり合わないような何か、かな……。うーん、言葉って難しい。うまく説明できなくてごめん」
そう言って眉を下げるヴィンセント殿下に、「いえ、そんな」と私は慌てて手を横に振った。
会場へと視線を戻すと、やはり彼女の真っ赤なドレスは目立つなぁと考えた。
「……ヴィンセント殿下は、アカデミーでどんなことを学んでいますか?」
「魔術がほとんどかな。クリフ様のおかげで魔力と巫子の力はそれなりにコントロール出来るようになったし……、自分の力がどのくらい通用するのか試してみたいから、剣術も磨いているよ」
「剣術も?」
「うん。もっと言えば体術も。最終的には剣よりも拳のほうが頼りになるかもしれないし」
片目を閉じて人差し指を口元で立てるヴィンセント殿下に、彼もまたこの二年の間で色々あったんだろうなぁと思った。
「――僕はね、この手で色々なことを掴み取りたいと思っているんだ。僕に出来ることを掴み取るつもり。アカデミー在籍中に色々やってみたいんだ」
「素敵ですわ、ヴィンセント殿下」
「ありがとう。前向きな気持ちになれたのは、君たちアンダーソン一家のおかげだよ」
……お礼を伝えられるとは思わなくて、思わず目を瞬かせた。ヴィンセント殿下は、すっと私の手を取ると手の甲に唇を落とす。その仕草があまりにも自然で……思わず見惚れてしまった。
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