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2章

2章13話(114話)

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 イヴォンが私のために怒ってくれているのがわかる。さっきのやり取り……どう考えても、私への悪意を感じたもの。……ただ、私は悪意に慣れていた。三歳から十三歳まで、十年間ずっと両親からも妹からも……、使用人たちでさえ私に悪意を向けていた。二年間、ほぼ悪意のない場所で過ごして来たけれど、やはり公爵家と言うことで色々言われたりもした。
 私自身のことを言われるのは良いけれど、アンダーソン家の人たちが悪く言われるのはイヤだった。同情を誘っているとか、容姿が良かったから引き取ったとか……。
 アンダーソン家の人たちは、そんな噂話なんて気にするだけで損とばかりに明るく振舞っていたけれど、お母様がたまに私を抱きしめて、『負けないで』と伝えてくることがあった。

「……ありがとう、イヴォン。でも、私は大丈夫よ。こういう悪意ある態度を取られることには慣れているの」

 私が肩をすくめながらそう言うと、三人は大きく目を見開いて私に詰め寄った。

「慣れちゃダメでしょ、それは!」
「そうよ、エリザベスは悪いことをしていないじゃない!」
「悪意に慣れないでください! 心が死んでしまいます!」

 上から順にイヴォン、ジーン、クラウディア様だ。私は彼女たちの勢いに押されながらも、小さくうなずいた。こんな風に親身になって怒ってくれるなんて、本当に良い人たちだなぁと思いながら……。クラウディア様に関しては、今日初めてお会いする方なのに、こんなにも言葉を紡いでくれるとは……。そのことに感動しつつ、感情を表に出さないように微笑む。

「嬉しいです、クラウディア様にもそう言って頂けるなんて」
「あ、……えっと、あの、よ、余計なことだったらごめんなさい……」

 私は緩やかに首を横に振った。だってクラウディア様の心が嬉しかったから。

「え、と……、先程お話しした通り、わ、わたくし……国ではあまり存在感のない王族でして……。十四番目の王女で、父である国王陛下にも殆どお会いしたことがなく……、この国に留学するために勉学だけは頑張ったのです。国王陛下に留学を認めてもらう時、とても緊張しました……」

 段々と流暢な言葉遣いになるクラウディア様。……それにしても、十四番目の王女とは……。たくさん居るであろう彼女の血縁関係者について考えると、少し頭が痛くなった。彼女の言い方だと、国に居たくないから留学を決めたような気がして……。

「わたくし、側室の子ですの。なので、王位継承権もないに等しいもの。それにこれからの時代、女性も自分の足で立ち手に職を持っていたほうが……! あ、す、すみません……つい、熱くなってしまいましたわ……」

 ぐっと拳を握ってそう言うクラウディア様。未来のことをそこまで考えて行動しているなんて……、とても素晴らしい方だわ。途中ではっと我に返ったようで、恥ずかし気に目を逸らした。
 私は彼女の手を取って、にこりと微笑む。

「クラウディア様、是非とも私と友人になってください!」

 私がそう言うと、クラウディア様は一瞬動きを止めて、それからぎぎぎ、と音がするくらいぎこちなく私へと顔を向けた。信じられないとばかりに大きく目を見開いているクラウディア様に、私は満面の笑みを浮かべた。
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