49 / 353
2章
2章30話(131話)
しおりを挟む「全員に行き渡ったな? それでは手を合わせて――『いただきます』」
「い、いただきます……?」
「俺の故郷では食事の時にこう言うんだ。俺の授業ではこれが普通だから、慣れてもらうぞ貴族たち」
……言葉からして、グレン先生は貴族の出身ではない……? ……と言うか、この授業では全員が貴族だったのね……。見覚えがあるようなないような……。うーん、人の顔と名前を覚えるのって、まだ苦手だわ……。
「いただきます」
手を合わせて、そう呟くとグレン先生が大きくうなずく。……よし、サラダから食べてみよう。フォークとナイフ、スープ用にスプーンまで用意してくれていた。レタスをまず食べてみる。……うん、やっぱりアンダーソン家で食べたサラダのほうが美味しいわね……ってそりゃそうよ。……でも、ちゃんと食べられる味になっている。
他の人たちも手を合わせて「いただきます」と呟いてからサラダを食べ始めた。その表情はちょっと微妙そうな感じだったけれど、どこか嬉しそうでもあって……。
「いつも美味しい料理を食べられるのは、料理長たちが頑張っていたからなのね……」
「ふふ、そうね。私たちも頑張って料理を覚えましょう」
「ええ!」
白身魚のソテーとスープは、とっても美味しかった。……グレン先生、もしかして本業は料理人なのでは……? と考えながらすべていただく。
「全員食べ終わったようだから、この瓶に残りのドレッシングを入れて、ラベルに自分の名前を書いておけ。ドレッシングは先生が預かるからな」
「預かる……?」
首を傾げて問う生徒に、先生は大きな鞄を生徒に見せつけるかのように掲げた。
「これは空間収納が出来る鞄だ。この中に入れておけば品質が下がることはない。いつでも新鮮そのものだ。とても便利だから勧めておこう」
「その中にはなにが入っているんですか?」
「収穫した野菜が主だな。興味があるヤツは畑も見に来てくれ。歓迎するぞ」
人手が足りないのかしら……?
……イヴォンに場所を聞いてみようかな。アカデミーにそんな場所があるとは思わなかった……。
「それでは、全員食器を洗い終わり、ハンドクリームを塗ったら解散して良し」
瓶にドレッシングを入れて、しっかりと蓋をする。名前を書いて……っと。うん、これで良いわね。先生が「書き終えたヤツから持って来い」と手招いていたので、私たちはドレッシングを持って先生の鞄に入れた。
それから戻って、食器を洗う。……ふふ、なんだか不思議な気分だわ。食器を洗う時は洗剤を使った。……洗剤を使うとすぐに落ちるのね。便利だわ……。
食器を洗い終わり、手を拭いたら頂いたハンドクリームの蓋を開けてみる。白いクリームを少々手に取って、手に馴染ませていく。べたべたしないクリームのようで、つけ心地が良かった。
「ああっ、大事なことを忘れていた! 食事の最後の挨拶は、手を合わせて『ごちそうさまでした』だ!」
そんなグレン先生の声に、私たちは小さく笑って手を合わせ、全員で「ごちそうさまでした」と声を出した。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
8,761
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。