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2章
2章31話(132話)
しおりを挟む調理室から出て教室に戻る途中、イヴォンにばったり会った。
「料理の授業、どうだった?」
「……難しかった」
「美味しかったけどね、グレン先生の料理」
「あはは、でしょうー? ってことは、二人はもう昼食要らないわよね。それじゃあ、これからアカデミー内を案内するわ」
「え、イヴォン、昼食は?」
「もう食べた。……あ、でもディアは食べていないかもしれないね」
そうよね……、ディアは古代語の授業だし……。とりあえず、ディアを迎えに行こうと声を掛けると、二人ともうなずいた。
料理の授業でなにを作ったのかを尋ねられて、サラダとドレッシングと答えると「懐かしー」と目元を細めて微笑んでいた。教室に辿り着くと、ディアがソワソワした様子でノートを真剣に見つめていた。
「――ディア?」
「ひゃっ、あ、みんな……」
「ご、ごめん。そんなに驚くとは思わなくて……」
「ううん、私がノートに夢中になっていたから……」
声を掛けたことでとても驚かせてしまったようで、ディアの肩が跳ねた。ディアは慌てたように首を横に振って、それからぎゅっとノートを抱きしめるように掴むと嬉しそうにはにかんでいた。
「とても素晴らしかったわ、古代語の授業……。一年生の間は文字を覚えるのが優先されるのだけど、続けていけば石碑のある場所に連れて行ってもらえるって……!」
キラキラと目を輝かせるディアに、私たちは顔を見合わせて、ぽんぽんとディアの肩を優しく叩いた。
「好きなことを追い続けられるって素敵よ」
「石碑、楽しみね?」
「どんな内容が書かれていたのか、教えてくれる?」
「もちろんよ、あぁ、本当に楽しみだわ……!」
うっとりと恍惚の表情を浮かべるディア。……そんなに夢中になれることがあるって、良いことよね。……私の場合はなんだろう……。
ジーンは刺繍や裁縫、ディアは古代語、イヴォンは……料理、かな? みんなそれぞれ得意なものがあって……対して、私はなにも持っていない。劣等感、とはこの気持ちのことかしら……?
「私にも……得意なものって見つかるのかな……」
急に不安になってそう呟くと、三人は視線を交わしてそれからこういった。
「魔力コントロールでしょ」
――と。
「魔力コントロール?」
「そうよ、自分で気付いていなかったのね……。リザの魔力コントロールはかなりレベルの高いものよ」
そうだったの!? と目を大きく見開くと、続けてジーンが、
「生活魔法でレタスの水滴を集める、なんてとても器用なことだと思ったのだけど……」
「え、レタスの水滴?」
ジーンが料理の授業のことを簡単に教えると、イヴォンもディアも目を丸くしてしまった。それから、イヴォンは考えるように顎に指先を掛けて、それからぽんっと手を叩いて私の手を取る。
「リザ、やってみてもらいたいことがあるの!」
「わ、私に出来ることなら……」
「じゃあ、来て! ほら、二人も!」
ぐいぐいと引っ張られて私はイヴォンに手を引っ張られながらアカデミー内を走った。……先生に見つかったら怒られるだろうけど、なんだか楽しくなってきてしまい、イヴォンの目的の場所まで走って行った。
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