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2章

2章32話(133話)

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 ついたのはなんと畑だった。グレン先生もいらっしゃる。私たちに気付くと、驚いたような顔をしていた。

「ごきげんよう、グレン先生」
「ああ……。って言うか、エリザベスとジーンはさっきの授業ぶりだな」

 もう名前を憶えてくれていたのかと驚いていると、ディアが窺うように私たちを見ていることに気付いた。

「ディア、こちら料理担当のグレン先生。グレン先生、こちらは――」
「知っている。レーベルク王国の十四番目の王女、クラウディア……だろ?」
「は、はい。そうです。ごきげんよう」

 私たちは思わず顔を見合わせた。……グレン先生、もしかして新入生の顔と名前を全部覚えているのかも……?
 そうだとしたらとても見事な記憶力だわ……!

「それで、イヴォン。私にやってみてもらいたいことって?」
「ああ、それなんだけど……、グレン先生、水やりって終わりましたか?」
「いや、これからだ」
「なら! リザ、この畑の水やりをやってみて欲しいの!」

 イヴォンは目をキラキラと輝かせながらそう言った。ぽかんと口を開けてしまい、慌てて閉じる。

「わ、私が……?」
「ええ、ここの畑広いから……。リザならどのくらいの範囲を水やり出来るのかしらって」

 私は少し悩んで、グレン先生に顔を向けた。グレン先生は考えるように目を伏せていたけれど、すぐに「やってみるか?」と私に聞いて来た。……とても広い範囲だから、少し不安もあるけれど……、好奇心のほうが買った。

「やってみたいです! ……でも、広さが広さなので、精霊たちの力も借りたいです」
「……うん、じゃあそれでやってみろ」

 こくりとうなずいてソルとルーナを呼び出す。ポンっと現れてくれたソルとルーナに説明しようとすると、「聞いてた」、「お手伝いするー!」と私に向かって言ってくれた。
 よーし、それじゃあ、やってみよう!
 私は深呼吸を繰り返してから水の球体を何個も作り出す。同じように、ソルとルーナも。球体を上空に向けて畑全体に行き渡るように……。そう、雨を降らせる感じで……。土砂降りではなく、小雨。恵みの雨になるようなイメージで――……。

「ソル、ルーナ、準備は良い?」
「ああ」
「もちろん!」
「行くよ!」

 私の合図によって、上空に浮かび上がる水の球体が破裂する。自分のイメージ通り、小雨が降るような感覚――……。畑の土が水分を受けて、色が濃くなるのを見て、このくらいかな? と魔法を止める。すべての破裂した球体が小雨へと変わり、球体がなくなると太陽の光を受けて虹が浮かび上がった。

「……綺麗ね……」

 うっとりと、ディアがそう言ったのと同時に、ぐぅ、と彼女のお腹がないた。……そうか、私とジーンは食べていたけれど、ディアとイヴォンはまだ昼食を食べていない……!
 そのことに気付くと、グレン先生が肩をすくめて、「こっちに来い」と私たちを近くにある小屋へと案内してくれた。
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