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2章

2章53話(154話)

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「ああ、すみません。あまりにも珍しいもので……」
「……精霊は、人間の前には現れないのですか?」

 私が首を傾げて問うと、レナルド大司祭は曖昧に微笑んだ。

「精霊によるようですが、こんなにハッキリとした姿の精霊を見るのは初めてです」

 ……ソルとルーナは動物の形をしているものね。ヴィニー殿下の精霊は影に隠れて姿を見せないから、どんな姿なのかわからないし……。

「……えーっと、そろそろ家系図見せても良い?」
「うむ」
「どうぞー!」

 シー兄様が右側の水晶に手を置いて魔力を込める。ぱぁっと光が満ちて、水晶の上に文字が浮かんできた。シー兄様の名前が見える。……シー兄様が魔力を込めたから、自分のところが映ったのかしら?

「オレとアル、エドだな」

 アンダーソン家の直系だものね。少し横に逸れて、私の名前が映った。……なんだか不思議な気持ち。お母様とお父様の名前も出て、遡るシー兄様はふと「あ、ここから先は無理」と呟いた。

「無理?」
「ロック掛ってる」
「え?」
「これ以上先を見るには、王城じゃないと」
「王城?」

 びっくりして目を丸くすると、シー兄様が肩をすくめた。

「陛下の許可が必要だな。古すぎると……」
「……そうなんですね……」

 じゃあファロン家の家系図もそうなのかしら……? 少し不安になりつつも、アンダーソン家の家系図にしっかりと記載されているのを見て、嬉しかった。

「……それじゃ、次は……」
「……はい」

 私は自分の胸に手を置いてゆっくりと息を吐く。ドキドキと鼓動が早くなるのを感じながら、左側の水晶に手を置く。魔力を込めると、アンダーソン家の家系図と同じように水晶の上に文字が浮き上がった。

「ジュリー……ジェリー……、え……?」

 浮かび上がって来た文字に私は目を大きく見開く。……これは、どういうことなの……?

「シー兄様……家系図って愛人まで含まれるのですか……?」

 ファロン家のお母様の名前ではない女性名と、ファロン家のお父様の名前。そこを結ぶように私の名があった。そして、ファロン家のお父様とお母様の名前の下にはジュリーとジェリーの名前も有り、混乱していると、ジェリーが養子に行ったことが記載されていた。……どういうこと? 彼女は亡くなっていたのではないの――……?

「……これは一体、どういうことだ……?」

 シー兄様も驚いたような声を上げていた。ソルとルーナは黙っている。……私は、ファロン家の家系図を遡る。ファロン家の家系図は、アンダーソン家の家系図と違いロックされていないようで、最初まで遡れた。

「……ファロン家は……、移住民だったのか」

 感心したようにそう呟くシー兄様。ソルとルーナが水晶の乗っている机に飛び乗り、そっと水晶に触れた。――すると、ぱぁっと淡い光が満ちた。

「エリザベス」
「水晶に、もう一度魔力を込めて」

 ソルとルーナにそう言われて、私はもう一度魔力を込める。すると――家系図の文字ではなく、人物が映った。――誰? 私と同じ銀髪に黄金の瞳の人物。宝石眼ではないけれど……。

「誰……?」
「初代ファロン子爵」
「えっ?」
『これを見ていると言うことは、我が血筋の者かな?』

 声まで……!

「映像魔法……?」
『……我らが捨てた故郷はどうなっただろうか。カナリーン王国は、まだ健在か?』

 ――カナリーン王国の人が移住してきた人が、この国で子爵になったと言うこと……?

『どちらにせよ、近付かないことだ。カナリーン王国の王族は、我らを許さぬだろうからな。同じ血が流れているのでさえおぞましい』

 私たちはひゅっと息を飲み込んだ。
 カナリーン王国の王族と同じ血が流れている……それは、つまり――ファロン家は……。

「ファロン子爵はカナリーン王国の王族だった? だが、なぜ王族がこの国へ?」

  シー兄様の言葉に、私はソルとルーナを見る。ソルがカナリーン王国のことを話したがらないのは、それも理由に入っていたの……?

『宝石眼を持たない王族は、実験材料にされていた。我らはそれから逃げ出したのだ。この水晶には正当な血筋の者しか見られないようにロックを掛けている。我が子孫よ、カナリーン王国には近付くな。あれは、悪魔の国だ……!』

 切なそうに目元を細めて、耐えるような表情を浮かべた。……悪魔の国……? 人間を、実験材料にしていた……? 王族でも……? 宝石眼を持たない王族を……。ぞくりと背筋に寒気が走る。

『……我が子孫よ。どうか、幸せに暮らして欲しい。それが、この地に根を下ろした我らの願いだ』
「……実験材料される前にこの国に亡命して来たのか……?」

 ……ファロン家のお父様は、カナリーン王国のことなんて一言も口にしなかった。カナリーン王国が、滅んでいたからかもしれないけれど……。だけど、それじゃあ……、私も、ジュリーもジェリーも……カナリーン王国の王族の血を引いている……!?
 ――私がカタカタと震えているのを見て、シー兄様がそっと抱きしめてくれた。

「――私、私は――……」

 どちらの血も引いていたの――……?
 カナリーン王国の王族の血。そしてマザー・シャドウの王族の影としての血。

「――たとえリザがカナリーン王国の王族の血を引いていても、関係ない。あの国は滅んでいるし、リザはアンダーソン家の長女なのだから」
「……シー兄様……」

 震える私を落ち着かせるように、頭を撫でてくれた。
 ……そうだ、私はエリザベス・アンダーソン。それ以外の何者でもない。シー兄様に顔を向けると、シー兄様は優しく微笑んでいてくれた。
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