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2章

2章54話(155話)

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「……これは、奥様方に報告しなくてはいけませんね」

 カインの声に、私たちはうなずく。……私の出生のこともだけど、亡くなっていたはずのジェリー・ファロンが生きている可能性が高いと言うことも……。それなら、二年前に見たあれはなんだったの? あれは、ジェリー・ファロンではなかったと言うことになる。……知れば知るほど、底なしの沼に足が引きずり込まれていくような感覚がして、怖い。

「……ソル、ルーナ。あなたたちは、私の出生のことを知っていたの……?」
「我らは精霊」
「古くからを知るモノ」

 ――それが答え、なのね。

「……まさか、水晶にこのような映像があるとは……。初めて知りました」

 レナルド大司祭の声にハッとしたように顔を向ける。私の出生やファロン家のことを知ったレナルド大司祭は、少し戸惑っているようだ。ソルが翼を羽ばたかせ、静かにレナルド大司祭と視線を合わせる。ふらり、とレナルド大司祭が眩暈を起こしたかのようにふらついた。それを支えるようにルーナの身体が大きくなって、ぽふんと音を立ててレナルド大司祭はルーナの身体に埋もれた。……ルーナ、そんなに大きくなれたのね……!

「悪いが記憶を消させてもらった」
「そ、そんなことも出来るの……?」
「ソルはそう言うのも得意だよね~」
「ルーナには言われたくないものだ」

 ソルの呆れたような言葉に、私は首を傾げた。
 レナルド大司祭はすぐに目が覚めて、ルーナの身体に埋もれていることに気付くと至福そうに表情を和らげて「も、もふもふ……」と幸せそうに呟いた。……う、羨ましいなんて思っちゃダメよ、エリザベス……!

「……はて、なにをしていたのでしょうか」
「家系図を見せてもらっていました。ありがとうございました、大変勉強になりました」

 シー兄様がにこりと微笑みを浮かべて頭を下げた。レナルド大司祭はルーナから離れると(少し残念そうに見えるのは気のせいかしら?)、「そうでしたか」と呟く。納得しているのかしていないのか、ちょっと首を傾げているけれど、シー兄様は抱きしめていた腕を解いて、私の肩に手を置きそのまま部屋から出て行こうとする。ソルとルーナはシー兄様が扉に手を触れる前に魔法を解除してくれた。
 その後、神殿の中を見回っていたディアたちに声を掛けると、心配されてしまった。

「どうしたのリザ! すごく顔色が悪いわよ!?」
「……うん、ちょっと、ね。……心配かけてごめんね」
「謝ることじゃないわよ。体調が優れないのなら、もう寮に戻りましょう?」

 イヴォンの言葉に、私はシー兄様を見上げた。シー兄様は「……いや」と首を横に振り、それから胸元のポケットからメモ用紙を取り出して、さらさらと文字を書く。

「悪いが、アルフレッドにこれを渡してくれないか。寮よりも屋敷のほうがリザも落ち着けるだろうから。明日……も、アカデミーは休みか。外泊届もアルに頼もう」
「かしこまりました、シリル様」

 ハリスンさんがメモ用紙を受け取って、私とシー兄様、カインはアンダーソン邸へと向かうことになった。……確かに、寮よりもアンダーソン邸のほうが落ち着くだろう。心配そうなイヴォン、ディアに対して、無理矢理微笑んでみせると、ディアが近付いて来た。

「……無理に笑わなくても良いのよ。ゆっくり休んで来て」
「……うん、ありがとう……」

 正直に言えば頭が混乱している。私は私なのだと、しっかりと自我を保てているのは、シー兄様たちのおかげだ。
 イヴォンたちと別れて、私たちはアンダーソン邸へ向かう。心配そうに私たちを見る三人に、「またアカデミーで」と声を掛けてから。
 馬車を手配してもらってアンダーソン邸に帰ると、リタが入口で待っていてくれた。……私、今日帰るなんて伝えていないのにどうして……?

「お帰りなさいませ、シリル様、エリザベス様」
「ただいま。……仕事中?」
「いえ、奥様が……」
「ああ、なるほど。巫子の血すごいな」

 感心したようにそう言うシー兄様に、私はうなずいた。私たちが来る予感を感じ取ったのだろう。

「エリザベス様の顔色が悪いですね。すぐにお部屋の用意をしますので、リラックス効果のあるお茶を用意してもらいましょう」
「ああ、頼む」
「かしこまりました」

 リタの顔を見て、なんだか安心してしまった。ここは安全なんだと知っているから……?

「行こう、リザ」
「はい、シー兄様」
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