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2章

2章114話(215話)

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 昼食を食べ終わり、次の授業へと向かう。精霊学の授業だ。すでに数人の生徒が集まっていて、座っていた。私たちも好きな席に座り、ソフィアさんを待つ。そのうちにアル兄様たちも教室につき、私たちの近くへ座ると、内緒話をするように声を小さくして話し掛けて来た。

「許可出たそうだ」
「……なら、……がんばりましょう」
「だね」

 ひそひそとそんな話をする私たちを、ディアとジーンが不思議そうに見ていた。生徒全員が教室に入り、ソフィアさんが教壇の前に立ち、みんなの顔をぐるりと見渡し、こほんっと咳払いをすると笑みを浮かべた。

「今日はね、みんなに精霊界に慣れてもらおうと思いまーす」

 歌うように明るい口調で、ソフィアさんはそう言った。ざわざわと生徒たちがざわめき始めた。ディアとジーンも、驚いたように目を大きく見開く。そして、こっちを見た。

「この学科に来たということは、精霊たちと仲良くなりたい子が多いってことでしょう? だったら、みんなで一度精霊界の空気に触れてもらおうと思ってね。滅多に行ける場所じゃないから、堪能するように!」

 人差し指を立てて、楽し気に話すソフィアさんに、生徒たちは歓喜の声を上げた。精霊学科を選んだ人たちなのだ。精霊界に興味があるのもわかる。……ただひとり、ジェリーだけが窺うような視線を向けていた。それでも、反対はしなかったので、精霊界には興味があるのだろう。

「それじゃあ、全員、目を閉じてね。先生が『良い』というまで目を開けちゃだめよ。目を開けたら、戻ってこれなくなっちゃうかもしれないからね」

 脅すように声を低くして怖い顔をするソフィアさん。その迫力に、ごくりと唾を飲み込む生徒たち。みんな目を閉じて、ソフィアさんが私に対して目配りをした。小さくうなずいて、私も目を閉じる。私の膝の上には、ソルもルーナもいた。その温かさを感じながら、私は深呼吸を繰り返した。
 ――パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。教室から、まったく別の場所になったことがわかる。鼻腔をくすぐる草の香り、土の匂い。教室では感じない、自然の香り。そして、川のせせらぎが聞こえる。

「――気をつけてね」
「ありがとうございます、ソフィアさん」

 生徒たちを巻き込むわけにはいかなかった。静かに目を開けると、傍にアル兄様とヴィニー殿下がいた。――そして、ジェリーも。ただ、ジェリーはこうなることを予感していたようで、小さく息を吐いてから目を開けた。そして、じっと私たちを見る。……このジュリーは、どちらのジュリーなのか……。

「シェイド、手筈通りに」

 しゅるり、とヴィニー殿下の影が動く。シェイドがジュリーへと向かい、その影に入り込む。それを見ていたジュリーは、くすりと笑った。

「なんの真似ですか、あなた方」
「……ジェリーの身体を返して。マザー・シャドウ」

 ジェリー……、いえ、マザー・シャドウは、緩やかに口角を上げた。
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