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3章

3章34話(244話)

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「どうしてあなたがここに……?」
「今日はサービスデーだから」

 ジーンの言葉に人懐っこそうな笑みを浮かべて、ひらひらと手を振るハンフリーさん。サービスデー? と私たちが疑問の視線を向けていると、彼は後頭部に手を置いた。

「旅芸人の芸を観に行けない人たちに、見せに行っているんだ。とはいえ、出来ることは限られているけれど」

 そう言ってハンフリーさんがポケットから何かを取り出した。小さな丸いものだった。五個あるそれをポーンと空中に放り投げて、キャッチするとクルクルと回し始めた。

「本当はナイフ投げが得意なんだけど、トスジャグリングも一応出来るからね。こういうのでも喜んでもらえるもんだよ」

 器用に五つのボール投げ回す姿に、シリル兄様が「器用だなぁ」と呟く。その呟きを聞いて、ハンフリーさんは「やってみます?」と聞いて来た。まさかそんなことを言われるとは思わなくて、シー兄様は「え?」と少し困惑したように彼を見て、好奇心に負けたのか手を差し出した。

「シリル兄様……」
「いや気になるだろ?」

 シー兄様に二つのボールを渡すと、一個をポケットにしまって、お手本のようにボールを投げ回した。ゆっくりとした動きで、私たちにも出来そうだと思えるくらいに。

「えーっと……、こう、か……?」

 ハンフリーさんの手の動きを真似するようにシー兄様がボールを投げる。右手で空中に投げたものが落下する前に左手のボールを投げ、右手で投げたボールを左手でキャッチ。左手で投げたものを右手でキャッチすると、ハンフリーさんが「そうそう」と手を叩いた。

「それをもう少し早く。連続でやると楽しいよ」
「よし、じゃあやってみるか」

 シー兄様が意気揚々と右手のボールを空中へと投げる。その間にもハンフリーさんはボールをクルクルと回していた。そのうちにポケットからボールを取り出して、三つ、四つ、五つ、とボールを増やしていった。……あのポケットのどこにボールが入るのかしら、と考えて私は頬に手を添えた。
 シー兄様はコツを掴んだみたいで、「ボール増やすよ~」とシー兄様にボールを渡していた。シー兄様は「うわっ」と驚いたような声を上げたけれど、三つのボールをクルクルと器用に投げ回していた。

「わぁ、シー兄様、すごい!」
「これ、結構難しいな。二個までなら良いけれど、ボールが増えると難しい……!」

 と、言いながらも器用に操っていた。

「……これ、わたくしにも出来ますか……?」

 ソワソワ、とディアがハリスンさんに向けて尋ねた。ハンフリーさんは「やってみます?」とシー兄様と同じようにボールを二つ渡した。

「そのポケット、一体何個のボールが入っているんだ……?」

 ヴィニー殿下は、ハンフリーさんのポケットに興味津々のようだった。
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