215 / 353
3章
3章77話(287話)
しおりを挟むエドはじっくりと本を選んで、一冊の童話を選んだ。
「これにする!」
「それだけでいいの? 本当に?」
「いいの!」
大事そうに童話を抱えて、エドは店員に近付いて本を購入した。こうして自分でお金を払う行為も滅多なことではないから、少し……ううん、かなり新鮮に感じているみたい。
「自分の分はいいの?」
ひそり、と囁くように耳元で言われて、こくりとうなずいた。
「私は建国祭、堪能しているから」
「まあ、エドはちょっとタイミングが悪かったね」
「まさか風邪を引くとは思わなかったでしょうからね……」
元気いっぱいのエドを見ていると、早足で近付いてきた。大事そうに本を抱えて。きっと、帰ったら読むつもりなのだろう。今からワクワクとした表情を浮かべている。
可愛い。やっぱりエドを見ていると和むわ。
「リザ姉様、自分の分はいいの?」
「ふふ、ヴィニー殿下と同じことを口にするのね」
「だって、リザ姉様……あんまり物欲なさそうだから……」
……物欲。誰かしら、エドにそんな言葉を教えたのは……。
「そんなことないわよ。……たぶん」
物欲は普通にあるわ。……ただ、求める前に与えられているだけで。
可愛くて綺麗なドレス、思わず目を奪う煌めく宝石たち。
髪を飾るリボンや花飾り。……私が欲しいと口にする前に、アンダーソン家の家族が与えてくれた。
私が自分から求めたものは、ヴィニー殿下に渡したアミュレットのための宝石が初めてかもしれない。
……いえ、正確に言えば、シー兄様の誕生日プレゼントのブローチが初めてかも。
「……リザはもう少し、望みを口にしてもいいと思うよ」
「え?」
「そうだよ。リザ姉様、なにが欲しいのかよくわかんないもん」
拗ねたように唇を尖らせるエドに、小さく笑みを浮かべて彼の頭を撫でた。キョトンとした表情になったエドは、頬を膨らませた。
「アル兄様やシー兄様の欲しいものはわかるの?」
「わかるよ! えっとね、アル兄様は魔法の本で、シリル兄様は軽い鎧!」
「なんでそれが欲しいものだってわかるのさ?」
「屋敷にある魔法の本は全部読んだって言っていたし、もうちょっと軽いほうが動きやすいって言っていたから!」
アンダーソン家にはたくさんの本がある。それは魔法書も。一番魔法書があるのは魔塔だろうけど……。
「あのくらいの軽さでも満足していないのか……。改良しなくちゃ……」
エドの言葉を受けて、ヴィニー殿下は片手を顎に添えてぶつぶつとなにかを口にしていた。確かに以前、聞いたことがある。魔塔が鎧の軽量化に参加していることを。
「いっそ、布の服に保護魔法を掛けるのも手かもしれませんね」
「それも手なんだけど、布だとどうしても耐久性がないから……。いや、待てよ。糸から魔法を掛けたらどうだろう?」
「魔法の服!? 着てみたい!」
「アル兄様やヴィニー殿下が、たまに羽織っているローブと同じように作れませんか?」
「あれはソフィアさんの案だからなぁ……。今度聞いてみよう」
そんな風に服そのものを強化するような話をしていたら、そろそろ戻らないといけない時間になった。
もう少しエドと一緒にいたかったけれど、「リザ姉様、ダンスがんばってね!」と応援してくれたから、エドの期待に応えられるダンスをしたいなって思った。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
8,761
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。