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4章
4章79話(379話)
しおりを挟む飾りもなく、ただただシンプルな杖。なんだか、ヴィニー殿下らしいなと感じてしまう。
「魔力が多いとコントロールも大変でしょ? 僕はクリフ様とアルと一緒にこの杖を作ったんだ」
「手作りだったのですね」
「何本か失敗したけどね。それ以来、結構作るのに凝っちゃって……いや、それはどうでもよくて。リザの魔力のコントロールはかなりだと思うけど、やっぱり杖を使ったほうがやりやすいと思うんだ。そうですよね、クリフ様?」
クリフ様に顔を向けると、クリフ様は「うむ」と首を縦に動かした。月の女神の杖を使っていたときは、確かに自分の身体のようにコントロール出来ていたことを思い出して、私は真剣な表情を浮かべてぎゅっとソルとルーナを強く抱き、声を出す。
「杖は、私にも作れますか?」
「……リザが作るよりは、こやつに任せたほうが良いじゃろうな」
ちろり、と視線でヴィニー殿下を差すクリフ様。その瞳には絶対の信頼が寄せられていた。ヴィニー殿下は少し驚いたように目を瞬かせて、それからぱぁっと明るく笑った。
「じゃあ、じゃあ、早速木材を選びに行こう!」
ワクワクと目を輝かせるヴィニー殿下は幼い子どものように見えた。クリフ様はもう一度、ヴィニー殿下の脇腹を杖で突く。「うぐっ」と突かれたところを押さえるのを見て、思わずクスクスと声を上げてしまう。
「暴走するなと言っておるじゃろうが!」
「だって、久しぶりに作れるから……!」
「そんなに久しぶりなのですか?」
「うん。杖を作るの禁止されていたから」
こくんとうなずくヴィニー殿下を見て、私は首を傾げる。説明を求めるようにクリフ様に視線を移動させると、クリフ様は頭痛でも感じているのか、こめかみを揉むように親指と人差し指を動かしていた。
「……限度を知らんのじゃよ、ヴィンセントは。アルもじゃが」
「それは、一体どういう……?」
「……こやつらに杖の作り方を教えてからというもの、徹夜で何本もの杖を作りよってな……。しかも絶妙なバランスの杖を作るもんじゃから廃棄することもできず、在庫が溜まる一方じゃったんじゃよ」
「何日徹夜したかは覚えていないけど、気が付いたらベッドの上で寝ていて、クリフ様にしこたま怒られたなぁ」
「当たり前じゃ。誰がそんなに作れと言った!」
「作っていくうちに楽しくなっちゃって……」
当時を思い出したのか後頭部に手を置いて目元を細めるヴィニー殿下に、アル兄様もきっとマリアお母様やクリフ様に叱られたんだろうなぁと考えて、眉を下げた。
ヴィニー殿下もアル兄様も、魔法や魔術のことになるとのめり込んでしまうみたいだから、もしもそんな状態になったのなら、私がヴィニー殿下の体調を気遣わないといけないわよね。だって、婚約者だもの。
「リザが持つなら、飾りにもこだわらないとね」
「飾り?」
「うん、あの杖は太陽と月がモチーフだったでしょ?」
月の女神の杖を思い出して、確かにとうなずく。ヴィニー殿下のようにシンプルな杖も良いと思うけれど……目をキラキラと輝かせている彼に、飾りは必要なのかと問うことは躊躇われた。
「どんな飾りが良いかなぁ? なにかリクエストはある?」
「えっ、ええと、そうですね……」
いきなり問われて言葉に詰まる。杖の飾りを意識したことはなかったから。でも、そうね。私が持つのなら――……。
「月と、星の飾りが良いです」
「月はわかるけれど、星?」
意外そうに目を丸くするヴィニー殿下に、私は「はい」と微笑んだ。浄化の火は月の女神の力だし、私の魔力の属性は『月』だ。『太陽』もあるけれど、その二つを組み合わせると、月の女神の杖になってしまう。
それになにより――あのとき、私を支えてくれたのは、ヴィニー殿下だから、彼の属性である『星』を取り入れたかった。
私の考えを読んだのか、クリフ様が「微笑ましいのぅ」と呟き、私たちを見ていた。
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