【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

文字の大きさ
41 / 97
3章:竜の国 ユミルトゥス

留学準備 4話

しおりを挟む
「――これを」
「これは?」

 とてもきれいな青い宝石のネックレスを差し出されて、首をかしげる。

 あれ? このネックレス、どこかで見たことがあるような……あああ、そうだ、これは……肖像画で見たことがある――……バッとお父さまを見上げた。

「リディアの母……私の妻が大切にしていたネックレスだ。持っていきなさい」
「ですが……! これはお母さまの形見ではありませんか……!」
「だからだ。この形見を通して、ユミルトゥスを見せてやってくれ」
「お父さま……」

 お父さまは、私の首にネックレスをつけてくれた。

 お母さまは、私がまだ幼い頃に病気で亡くなったしまった。後妻を、という声もあったようだけれど、お父さまは『彼女と同じように愛せない』と断っていたことを知っている。

 そっと、ネックレスに触れる。冷たい宝石の感触が指先に伝わり、静かに息を吐いた。

「よく似合っている」
「……ありがとうございます、お父さま。とても、とても大切にします……!」

 思わず涙ぐんでしまった。お母さまが亡くなったあと、お母さまの部屋はそのまま残された。

 お父さま以外入ることは許されず、ずっと開かずの間になっていた部屋。

 きっと、私のためにこのネックスレスを探してきてくれたものだろう。

「――そのネックレスは、妻が産まれたときに、両親から贈られたものらしい。彼女もきっと、リディアを見守りたいだろうと思ってな」
「私、たくさん……たくさん、ユミルトゥスを見て回りますわ。お母さまと一緒に」

 目を伏せて口角を上げると、お父さまは「ああ」と一言だけつぶやいた。

 それとほぼ同時に、来客を知らせる鐘が鳴る。

 ――ああ、迎えがきたのね。

 ローレンとチェルシーが玄関の扉を開けた。

 そこにいたのはやはりフィリベルトさまで――……いつも着ていた制服ではなく、黒のタイトな服に、金色の刺繍がとても似合っていた。もしかしたら、ユミルトゥスの制服なのかもしれない。

 彼にはこちらの制服のほうが似合っているな、と頭の片隅で思ったけれど、気を取り直してフィリベルトさまに向けカーテシーをした。

「ごきげんよう、フィリベルトさま。迎えにきてくださってありがとうございます」
「おはようございます、リディア嬢、みなさん。もしや、待たせてしまいましたか?」
「いや、我らが早めに玄関にきていただけだ。フィリベルトさん、リディアをよろしくお願いします。ローレンとチェルシーも」
「はい、大切にお預かりします」

 この数ヶ月で、お父さまの彼の呼び方が、『フィリベルトくん』から『フィリベルトさん』に変わった。それは、お父さまが彼のことを気に入ったということなのよね。

 フィリベルトさまは、すっとお父さまに頭を下げた。

 彼は、あの日――陛下と一緒に食事をした日から、熱心にこの屋敷まで足を運んでくれて、お父さまともいろいろ話して、今ではすっかり仲良くなったみたい。

 もう、第二の息子、とばかりに可愛がっているのよね。

『彼なら、リディアを任せても大丈夫だろう。あとは、お前の気持ち次第だよ』

 と、言われたこともある。

 アレクシス殿下との婚約は無事に白紙になったし、お父さまも陛下も、私とフィリベルトさまの婚約は『本人が合意したなら、認める』というスタンス。

 フィリベルトあまのご両親には、彼自身が手紙を出してやり取りを繰り返していたらしく、ユミルトゥスについたらまず、彼のご両親に挨拶をする予定。

 学園は寮があるらしいから、ユミルトゥスでは寮生活をするの。

 フィリベルトさまは家から通うのかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

処理中です...