【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

竜の国へ! 1話

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「それでは、お父さま。お身体に気をつけてくださいね。――いってきます」
「ああ、いっておいで。リディアも、身体に気をつけるんだよ」

 お父さまの優しい口調には、寂しさがにじんでいた。

 フィリベルトさまがすっと手を差し出し、その手を取って玄関から出ていく。

 彼と一緒に馬車に乗り込み、屋敷が小さくなるまでずっと窓から外を眺めていた。

 お父さまや使用人たちが、見送ってくれていたから。

「……寂しい?」
「……そうですね。ですが、留学は楽しみでしたのよ?」

 これは本音だ。

 だってこの国とは違い、『私』を知らない人が主だもの。

 国内ではアレクシス殿下の婚約者ということで、城下町にも名が広まっていたからね。

 公務のときは表に出ていたし……国民たちは私が次期王妃ってことで、羨望のまなざしを注いでくれたけれど……ごめんね、こんな形で国を離れることになって。そう、心の中で謝罪した。

「それはよかった。両親もリディア嬢にお会いするのを楽しみにしていたから」

「やだ、そんなことおっしゃらないで。緊張してしまいますわ。……ところで、ユミルトゥスにはずっと馬車で向かいますの?」
「いや、国境を越えたら……ふふ、貴女あなたの驚く顔が楽しみだ」

 二人きりになると、割とこういう砕けた口調になるのよね、フィリベルトさま。

 まぁ、別に構わないのだけど。それだけ気を許してくれているってことだもの。

 国境まで、数回休憩を挟みながら向かい、国境を越えて広い草原で馬車をとめた。

 そして――……

 思わず、あんぐりと口を開けてしまい、慌てて両手で口元を隠すことになった。

 広い草原の中、存在感を放つ生物――竜が、私たちを見下ろしている。

 いやうん、竜の国って言うくらいだし? 竜がいてもおかしくない……おかしくない、よね?

 竜の背中には鞍みたいなのがつけられていて……まさか、とフィリベルトさまに視線をやる。

「あの、まさか……」
「そのまさかだ。察しがいいな、リディア嬢」

 うそぉ、と心の中でつぶやく。

 でも、ワクワクとした気持ちが勝っていた。たぶん、それが顔に出ていた。

 くっくっくっと、フィリベルトさまが喉の奥で笑う。……この人、猫を被らなくなったわね。

「触ってみてもいいですか? 竜のお名前は?」
「その子はムーンだ。月のように淡い色をしているだろう?」

 ……月って、たまに濃い黄色だったり、赤かったりするけどね!

 ドキドキと胸を高鳴らせながら、そっと竜――ムーンに近づいた。

 ムーンは私に気づくと、じっとこちらを見る。

「初めまして、ムーン。私はリディアと申します。……触れてみても、いいですか?」

 そっと手を伸ばすと、寝そべって自分の頬をすりっと触らせてくれた。ひんやりとしていて気持ちいい。

 優しく撫でると、気に入ってくれたのか目を閉じた。

 な、なんて可愛いの……!

 撫で続けていると、後ろからぎゅっと抱きつかれた。フィリベルトさまだ。

 ……ええええ!?

 な、なんで私、彼に抱きしめられているの!?

 頭と心がパニック状態になっていると、ムーンは私の手から離れてしまった。
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