【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

空の散歩 2話

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「わぁ……っ!」

 ドラゴン……ムーンに乗るのはこれで二回目だけど、頬を撫でる風がとても心地いい。

「流れ星が手の中に落ちてきそうです!」
「はは、本当にそうなったら、宝物になるのにね」

 楽しそうな声が耳元をくすぐる。

 その感覚に身じろぐと、逆に身体を固定するように抱きしめられた。

「寒くない?」
「へ、平気です」

 むしろ、背中に伝わる彼の体温に、私の体温が上昇した気がする。

 ムーンはただ、公爵家の上空をくるくるとゆっくり飛んでいた。

 夜だからなのか、それともただ単に私たちのことを気遣っているのか……どちらだろう?

「こんなに流れ星が見られると、願いが叶いそうですね」
「願いが叶う?」
「ええ。流れ星が流れているあいだに三回願い事をとなえると、叶うという話があるのです」

 ……この世界であるかどうかは、わからないけれど。

「へぇ、確かにこんなに流れていると、唱えられそうだ」

 フィリベルトさまは、私の言葉を素直に受け取ってくれて、同意してくれた。

「でも、流れ星に願って叶えられるって、すごい発想だね」
「そうですね……それだけ、そのことに本気なのかもしれません」

 普通なら流れ星が光っているあいだに願い事を三回唱えるなんて、無理だと考えるだろう。

 でも……もしもそれがとても真剣な願い事だったら? わらにもすがる思いだったら?

「リディアなら、なにを願う?」
「私なら……いえ、もう叶いましたわ」

 フィリベルトさまが「叶った?」と不思議そうに聞いてきたので、こくりとうなずいた。

「だって、私の望みは『恋愛がしたい』ですもの」

 くすっと笑いながら、自分の望みを口にすると彼は納得したように「なるほど」とつぶやく声が耳に届く。

 そう――私が望んだのは、恋愛がしたいということ。それはもう叶ったもの。

 フィリベルトさまのおかげで。

「フィリベルトさまは、願い事がありますか?」
「オレ? ……そうだなぁ……このまま、リディアがオレのことを受け入れてくれますように?」

 彼ならどんな願い事をするのだろう? と好奇心が湧いて尋ねると、そんな答えが返ってきた。

 その言葉に、小さく口角を上げてしまう。

 この人は私のことを愛してくれているのだと、じわじわと実感できて、心が温かい。

「そうなりますわ。きっと。私のことを、離さないでくださいね」
「もちろん。きみも、オレのことを離さないでくれよ」
「……ええ、もちろん」

 そっとフィリベルトさまの手が頬に触れる。

 くいっと顔を後ろに引き寄せ、ちゅっと軽くキスをした。

 ムーンがぴたりと動きを止めて、ゆっくりと降下する。

 空の散歩は、ここで終わりみたい。
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