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79.「目覚めの魔法」
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薬が全く効かずに少なからず落ち込みはしたが…まだ、挑戦を始めたばかりだ。
食器や薬瓶の片付けを済ませてから、次に取り掛かろうと【目覚めの魔法】の記述を読み直す。
【眠りの魔法】は闇属性で、【目覚めの魔法】は光属性との事で本当に良かった。
これが逆だと闇属性に殆ど適正の無い俺では修得出来ないか、出来たとしても効果が充分に発揮できなかったと思う。
一先ず、他の魔法が使える段階なので、魔力の操作は分かる。
形になるまではイメージが大切で、眠っている人を目覚めさせる想像とは…なんだか、とても抽象的で選択肢も幾つかあるように感じる。
眠りから覚める状態とは一体?普段当たり前にしている事だからこそ、意識した事が無かった。
科学的に考えた方が良いのだろうか、確かレム睡眠が脳が休んでいないので目覚め易く、ノンレム睡眠は逆に脳が休んでいるので目覚め難い。
シュヴァルト様が現在、ノンレム睡眠状態だと仮定して、そこから…そこから…。
「勇者、一先ず落ち着け。」
自分でも分かる程に険しい表情で考え込んでいたせいか、守護神が見兼ねて声を掛けて来る。
「ですが…。」
「良いから、焦っても良い結果が出るとは限らない。」
「それは、そうなんですが…。」
気が急いてしまって仕方がない。
困ったように笑うしか出来ず、再び思案しようとすると遮るようにまたヘルマプロディートス神が話し掛けて来た。
「そんなに、シュヴァルトが好きか…?」
「それは、勿論です。」
「その考えは、刷り込みでは無いのか?何も分からない状態で異世界に飛ばされ『初めて君を保護したのがシュヴァルトだった』から、に過ぎないのでは?」
「…確かに、最初はそうでしたし、依存しているのも薄々自覚はありました。でも、だからって…その、好きでも無いのに抱かれる決意は、出来ません。俺は男なんですよ?」
何なら今でも、根本的には女性が恋愛対象だと思う。
元々、同性が恋愛対象だった訳でも無い。それを分かった上で、『男性のシュヴァルト様』に身を差し出せるなら、それは純然たる好意からだ。
「ああ…実に説得力があるね。分かった…、止めはしないが余り根を詰めるなとは言って置こう。」
「…ありがとう、ございます。」
何処か寂しげに、同時に慈愛深い眼差しで気遣われて戸惑ったが、何とか礼を口にするとその後は落ち着いた気持ちで魔法の習得に取り組めた。
しかし、やはり難しい魔法なのだろう。
感覚の先ぐらいは掴んだ気がしたが、半日で完成に至る程、甘くは無かった。
ある意味納得し、再びレシピと茶葉を届けて下さったシュタルクさん、しっかり自分の分も買って下さった様子に安堵しつつ、別れた後に夕飯の準備をした。
因みに、夕飯はレシピを見ながら魚介類を使ったスープと、メインはチーズフォンデュのような形にした。
パンに野菜、果物に肉と選択肢があると守護神も好む物があるかと期待してだった。
新しい茶葉で紅茶も準備し、夕飯は問題なく済む。
肉よりも果物や野菜、パンなどがお好きなようだったので覚えて置こう。
夕食の後は一言断って、出来ていなかった鍛錬を軽く庭で行ってからヘルマプロディートス神の寝支度を手伝い、俺も身を清めてから就寝した。
そして、塔に住み始めて三日目の朝…俺は既視感を感じていた…。
「どうして!服を着てないんですか!?」
寝る前は確かに夜着を着せたのに!何故だ!?
理由があるのならば聞きたいと、本日も寝起きの悪い守護神に新しい着替えを押し付けながら怒っていた。
「君は衣類に頓着し過ぎじゃないか?私は寝るときは全裸派なんだ…とでも思って置けば満足だろう?」
「不満足ですよ!適当に言ってますよね?後、夜着はどうしたんですか?」
「洗って干して置いた。」
「またかよ!?どうして、洗濯だけは…ああ、もうはい、分かりました。人をからかって遊びたいんですね…。」
「決めつけは良くないと思うがな。」
脱力しそうになりながらも着替えを始めたので回れ右をする。
もしかしなくても、明日もこのやり取りをするのだろうかと考えると何だか憂鬱だ。
どうしたら服を着て眠ってくれるんだろうかー…?
いや、真剣に悩む所では無い。
妙な思考に取り憑かれる前に朝食の配膳準備に向かった…。
その日も相変わらず【目覚めの魔法】の習得練習を重ね、新鮮な食料と共に様子を見に来てくれたシュタルクさんとたわいない世間話をしてから別れた。
何というか、神官…しかも恐らくそれなりの立場だと思われるので忙しいだろうに、様子を確認に来てくれ、更に邪魔にならないようにと考えてくれているのか、必要以上の事は突っ込んで来ない。
優秀な人なのだろう、そんな方に身の回りの世話を焼いて頂いて心苦しい気持ちもあるが、この国の方に親切にして頂いて、本来の役目である『浄化の旅』にも今後はもっと力が注げるとも思う。
「早く、合流出来ると良いな…。」
今は、シュヴァルト様が心配で、更にヘルマプロディートス神から目を離す訳にはいかない。
何も出来ない状態にストレスを感じなくは無いが、傍にいられれば何とか耐えていられる。
そう気持ちを強く持って、今後も過ごす筈だったー…。
食器や薬瓶の片付けを済ませてから、次に取り掛かろうと【目覚めの魔法】の記述を読み直す。
【眠りの魔法】は闇属性で、【目覚めの魔法】は光属性との事で本当に良かった。
これが逆だと闇属性に殆ど適正の無い俺では修得出来ないか、出来たとしても効果が充分に発揮できなかったと思う。
一先ず、他の魔法が使える段階なので、魔力の操作は分かる。
形になるまではイメージが大切で、眠っている人を目覚めさせる想像とは…なんだか、とても抽象的で選択肢も幾つかあるように感じる。
眠りから覚める状態とは一体?普段当たり前にしている事だからこそ、意識した事が無かった。
科学的に考えた方が良いのだろうか、確かレム睡眠が脳が休んでいないので目覚め易く、ノンレム睡眠は逆に脳が休んでいるので目覚め難い。
シュヴァルト様が現在、ノンレム睡眠状態だと仮定して、そこから…そこから…。
「勇者、一先ず落ち着け。」
自分でも分かる程に険しい表情で考え込んでいたせいか、守護神が見兼ねて声を掛けて来る。
「ですが…。」
「良いから、焦っても良い結果が出るとは限らない。」
「それは、そうなんですが…。」
気が急いてしまって仕方がない。
困ったように笑うしか出来ず、再び思案しようとすると遮るようにまたヘルマプロディートス神が話し掛けて来た。
「そんなに、シュヴァルトが好きか…?」
「それは、勿論です。」
「その考えは、刷り込みでは無いのか?何も分からない状態で異世界に飛ばされ『初めて君を保護したのがシュヴァルトだった』から、に過ぎないのでは?」
「…確かに、最初はそうでしたし、依存しているのも薄々自覚はありました。でも、だからって…その、好きでも無いのに抱かれる決意は、出来ません。俺は男なんですよ?」
何なら今でも、根本的には女性が恋愛対象だと思う。
元々、同性が恋愛対象だった訳でも無い。それを分かった上で、『男性のシュヴァルト様』に身を差し出せるなら、それは純然たる好意からだ。
「ああ…実に説得力があるね。分かった…、止めはしないが余り根を詰めるなとは言って置こう。」
「…ありがとう、ございます。」
何処か寂しげに、同時に慈愛深い眼差しで気遣われて戸惑ったが、何とか礼を口にするとその後は落ち着いた気持ちで魔法の習得に取り組めた。
しかし、やはり難しい魔法なのだろう。
感覚の先ぐらいは掴んだ気がしたが、半日で完成に至る程、甘くは無かった。
ある意味納得し、再びレシピと茶葉を届けて下さったシュタルクさん、しっかり自分の分も買って下さった様子に安堵しつつ、別れた後に夕飯の準備をした。
因みに、夕飯はレシピを見ながら魚介類を使ったスープと、メインはチーズフォンデュのような形にした。
パンに野菜、果物に肉と選択肢があると守護神も好む物があるかと期待してだった。
新しい茶葉で紅茶も準備し、夕飯は問題なく済む。
肉よりも果物や野菜、パンなどがお好きなようだったので覚えて置こう。
夕食の後は一言断って、出来ていなかった鍛錬を軽く庭で行ってからヘルマプロディートス神の寝支度を手伝い、俺も身を清めてから就寝した。
そして、塔に住み始めて三日目の朝…俺は既視感を感じていた…。
「どうして!服を着てないんですか!?」
寝る前は確かに夜着を着せたのに!何故だ!?
理由があるのならば聞きたいと、本日も寝起きの悪い守護神に新しい着替えを押し付けながら怒っていた。
「君は衣類に頓着し過ぎじゃないか?私は寝るときは全裸派なんだ…とでも思って置けば満足だろう?」
「不満足ですよ!適当に言ってますよね?後、夜着はどうしたんですか?」
「洗って干して置いた。」
「またかよ!?どうして、洗濯だけは…ああ、もうはい、分かりました。人をからかって遊びたいんですね…。」
「決めつけは良くないと思うがな。」
脱力しそうになりながらも着替えを始めたので回れ右をする。
もしかしなくても、明日もこのやり取りをするのだろうかと考えると何だか憂鬱だ。
どうしたら服を着て眠ってくれるんだろうかー…?
いや、真剣に悩む所では無い。
妙な思考に取り憑かれる前に朝食の配膳準備に向かった…。
その日も相変わらず【目覚めの魔法】の習得練習を重ね、新鮮な食料と共に様子を見に来てくれたシュタルクさんとたわいない世間話をしてから別れた。
何というか、神官…しかも恐らくそれなりの立場だと思われるので忙しいだろうに、様子を確認に来てくれ、更に邪魔にならないようにと考えてくれているのか、必要以上の事は突っ込んで来ない。
優秀な人なのだろう、そんな方に身の回りの世話を焼いて頂いて心苦しい気持ちもあるが、この国の方に親切にして頂いて、本来の役目である『浄化の旅』にも今後はもっと力が注げるとも思う。
「早く、合流出来ると良いな…。」
今は、シュヴァルト様が心配で、更にヘルマプロディートス神から目を離す訳にはいかない。
何も出来ない状態にストレスを感じなくは無いが、傍にいられれば何とか耐えていられる。
そう気持ちを強く持って、今後も過ごす筈だったー…。
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