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第一章 『前皇帝と北境の主』
第一章5 『皇帝の誕生日宴会』
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エルムライトは焦燥を募らせながら自室であちこち歩きまわっていた。ノアリデアート失踪の知らせは、刻一刻と彼を焦らせるばかりだ。事態が己の統制下にない、その事実が狂おしいほどに恨めしい。
心臓をかきむしりたくなるような衝動に苛まれ続けるエルムライトは、ふと我関せずとでも言うかのように爪を整えるアメリアに目を向けた。
「あいつらめ、皇帝の人間を拘留するとは! 君も何か言わないか!」
アメリアは一瞬の沈黙の後、ぱっと顔を上げた。純朴さが滲んだその春の女神のような表情に、エルムライトの激情の蔓延がとどめられる。
ふわっと笑って見せたアメリアが、速足でエルムライトの元へ行き彼を優しく抱きしめる。
「陛下、どうして怒るんですかぁ? あんな、何にもない場所、怖くないですよ。あの人があそこにいても……働かされたり、いじめられたりして、苦しい目に遭うんじゃないですか? だって蛮族の地なんでしょう? だったら、私達、『心配』してあげないといけないのでは?」
「心配……?」
エルムライトが眉を顰めるが、アメリアは彼の瞳をじいっと見つめながら甘い声で話を続ける。
「そうです! もうすぐお誕生日でしょう? 北境でお誕生日会を開きましょうよ。貴族のみんなも一緒に行けば、みんなが悪事を暴くあなたの雄姿を見てくれますよ」
エルムライトは戸惑いの末に、喜びに目を光らせた。
「なるほど、宴会の名の下に私の人手を送ることもできるし、現地で捜索もできれば逮捕もできる。拒めば大義名分ができて処刑もできる! そしてそのまま北境をわが手に収めることも……!」
ひとりで興奮するエルムライトをしり目に、アメリアは内心でほくそ笑む。
(そこへ行けば、陛下に会える。きっとひどい目に遭っているはずだから、私が優しくしてあげれば、愛してくれるでしょ。私はヒロインなんだから、みんな私を愛するのが当たり前だよね!)
「アメリア、君はなんてすばらしい人なんだ。君を本当に愛してるよ」
「ええ、私も愛してますわ」
それぞれの目的を抱えて、エルムライトとアメリアは微笑み合った。
〇
「……で、それが、コレ?」
ぴっ、と人差し指と中指にその手紙をはさんで、マルガリータは掲げて見せる。
要は今年はここで宴会を開くから自費で準備しろとのことだが、呆れしかでない。目的が明確すぎるし、これではいくらでも防ぎようがある。
もう少し頭がいいと思っていたのだが、そうでもなかったか。それとも、別の目的があるのか。
「わたしの地で、あいつのために宴会? でわたしが準備するの?」
「はい。エルムライト・ルカス陛下はこの機会に大規模な軍隊を派遣するつもりのようです。アメリア皇后は……よく分かりません。本来、この時点でノアリデアート陛下が亡くなった後、もう関わりがなくなりますから。しかし目的がないと推察するのも現実的ではありませんね」
「そう、まあ、来たかったら来ればいいじゃない。忘れられないお誕生日にしてあげるわ」
「ご指示を」
「各辺境塔に知らせて。宴会に来る帝国貴族に対して歓待すること。ただし大人数の武装車両を見つけた場合は、辺境で拘留すること。人数をよく見て」
「承知いたしました」
頭を下げるヴァイスの横を、すっとマルガリータは通り過ぎていく。
扉付近で目を合わせると、ヴァイスの瞳が明らかに何かを問うようだった。どこへ行くのか。しかし、答えを告げる必要もない。
マルガリータは机に置かれた救急箱を手に取ると、すたすたと歩き去った。
「あああれ陛下のためのやつだったのか……くっ、てぇてぇ……」
決してマルガリータの前では言えぬ言葉をつぶやくヴァイスの声が、静かに響いた。
心臓をかきむしりたくなるような衝動に苛まれ続けるエルムライトは、ふと我関せずとでも言うかのように爪を整えるアメリアに目を向けた。
「あいつらめ、皇帝の人間を拘留するとは! 君も何か言わないか!」
アメリアは一瞬の沈黙の後、ぱっと顔を上げた。純朴さが滲んだその春の女神のような表情に、エルムライトの激情の蔓延がとどめられる。
ふわっと笑って見せたアメリアが、速足でエルムライトの元へ行き彼を優しく抱きしめる。
「陛下、どうして怒るんですかぁ? あんな、何にもない場所、怖くないですよ。あの人があそこにいても……働かされたり、いじめられたりして、苦しい目に遭うんじゃないですか? だって蛮族の地なんでしょう? だったら、私達、『心配』してあげないといけないのでは?」
「心配……?」
エルムライトが眉を顰めるが、アメリアは彼の瞳をじいっと見つめながら甘い声で話を続ける。
「そうです! もうすぐお誕生日でしょう? 北境でお誕生日会を開きましょうよ。貴族のみんなも一緒に行けば、みんなが悪事を暴くあなたの雄姿を見てくれますよ」
エルムライトは戸惑いの末に、喜びに目を光らせた。
「なるほど、宴会の名の下に私の人手を送ることもできるし、現地で捜索もできれば逮捕もできる。拒めば大義名分ができて処刑もできる! そしてそのまま北境をわが手に収めることも……!」
ひとりで興奮するエルムライトをしり目に、アメリアは内心でほくそ笑む。
(そこへ行けば、陛下に会える。きっとひどい目に遭っているはずだから、私が優しくしてあげれば、愛してくれるでしょ。私はヒロインなんだから、みんな私を愛するのが当たり前だよね!)
「アメリア、君はなんてすばらしい人なんだ。君を本当に愛してるよ」
「ええ、私も愛してますわ」
それぞれの目的を抱えて、エルムライトとアメリアは微笑み合った。
〇
「……で、それが、コレ?」
ぴっ、と人差し指と中指にその手紙をはさんで、マルガリータは掲げて見せる。
要は今年はここで宴会を開くから自費で準備しろとのことだが、呆れしかでない。目的が明確すぎるし、これではいくらでも防ぎようがある。
もう少し頭がいいと思っていたのだが、そうでもなかったか。それとも、別の目的があるのか。
「わたしの地で、あいつのために宴会? でわたしが準備するの?」
「はい。エルムライト・ルカス陛下はこの機会に大規模な軍隊を派遣するつもりのようです。アメリア皇后は……よく分かりません。本来、この時点でノアリデアート陛下が亡くなった後、もう関わりがなくなりますから。しかし目的がないと推察するのも現実的ではありませんね」
「そう、まあ、来たかったら来ればいいじゃない。忘れられないお誕生日にしてあげるわ」
「ご指示を」
「各辺境塔に知らせて。宴会に来る帝国貴族に対して歓待すること。ただし大人数の武装車両を見つけた場合は、辺境で拘留すること。人数をよく見て」
「承知いたしました」
頭を下げるヴァイスの横を、すっとマルガリータは通り過ぎていく。
扉付近で目を合わせると、ヴァイスの瞳が明らかに何かを問うようだった。どこへ行くのか。しかし、答えを告げる必要もない。
マルガリータは机に置かれた救急箱を手に取ると、すたすたと歩き去った。
「あああれ陛下のためのやつだったのか……くっ、てぇてぇ……」
決してマルガリータの前では言えぬ言葉をつぶやくヴァイスの声が、静かに響いた。
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