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第二章 『「主人公」と「ヒロイン」』
第二章13 『アメリア・ローズウェル②』
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目が覚めたら、知らない天井だった。
病院と言うにはあまりに景色が違いすぎて、変な記憶も頭に流れ込んできて、最初はパニックになるほど戸惑った。
でも、すぐに、私は初めて運命が私に味方してくれたんだと理解した。
私は、ローズウェル子爵家に。ヒロインのアメリア・ローズウェルとして、転生していたのだ!
可憐で可愛らしく、儚いながら正義感の強い、花のような女の子。万人に愛され、守られる、理想的なヒロインそのもの。
私は原作のことを良く知っている。アメリアのふりをすることなんて簡単だったし、驚くほどすんなり原作のストーリー通りに事が運んだ。
ノアリデアートはマルガリータを婚約者に選んで、哀しむエルムライトの傷心に付け込む形でアメリアが現れる。もちろん原作のアメリアは偶然彼に出会ったのだろうが、私はわざとだ。彼女の台詞を言って、そして彼がもっと自分に依存するように手招く。
――何故か、原作よりノアリデアートとマルガリータの関係が微妙な雰囲気なのは気になった。
本来は、ノアリデアートはアメリアに傾倒して、エルムライトを迫害するはず。そしてそれに嫉妬したマルガリータが、アメリアに嫌がらせをしてこなくてはならなかった。
もちろん、ノアリデアートは何でも許してくれたし、婚約者の女よりも私のことを気に掛けている素振りをしていたけれど、一向に笑顔のひとつさえ見せてくれない。人のいないところでは、私に話しかけることもない。
その上、ノアリデアートとマルガリータの関係は、原作よりは険悪ではない。まあ、彼女が私を虐めていないからかもしれないが、原作ではもっと混沌としていたはずだ。
アメリアを愛する皇帝。その彼を引き留めようとする悪役令嬢。そして行動のたびに皇帝に嫌われ、ついには婚約を破棄される悪役令嬢。
どうしてそんな流れ通りにいかなかったのか、私には分からなかった。それでも、どうにか世間上の評価だけは原作と全く同じにすることに成功した。エルムライトも、私を疑っていない。
大丈夫。私は『ヒロイン』だ。
そうだ、良いことを考えた。
どうせ、原作通りノアリデアートは廃位される。その時に、私が手を差し伸べて、優しくしてあげればいい。そうすれば、全部元通りになる。今は、あの悪役令嬢が婚約破棄になるように事を運ぶだけでいいのだ。
私とエルムライト、そしてマルガリータの対立が社交界でどんどんと顕著になっていく。原作のストーリーの通りになっていく。
私はヒロイン。全部が私の思い通り。なんて気持ちいいのだろう。ここでは私は世界の中心なのだ。
マルガリータ・エステル・ド・シャトーブランが公衆の目前で婚約を破棄され、ノアリデアートの手で荒れた北境に送られた。
やった。これで全部元通りだ。あの女が原作通りに行動しなかったことは気がかりだが、悪役令嬢は北境で死ぬ予定なのだから、婚約を破棄されればもう気にすることは何もない。
あとは、私の愛するノアリデアートに、幸せになるための絶望を贈ろう。大丈夫、辛いのはひと時だけ。私と一緒に居るようになれば、貴方は世界一幸せになれるから。
それは、私が初めて行った、原作に反する行動だった。
――ノアリデアート・エンバース・フォン・アーレンスフォルトが、死なないようにすること。
黒石地下監獄に叩き込まれた彼は、ある雪の日に北境でさっくりと処刑されて死ぬはずだった。だが、私は絶対に彼を殺させない。
でも、私を愛させるためには、ただ監獄の中にいるだけでは足りない。だって、原作が一瞬変だったから。元に戻すためには、もっと作用力が必要でしょ。
ヒロインが直々に動くんだから、絶対にどうにかなる。
死ぬはずの運命の暴君が、私だけを見て、私を光だと認識して、私のものになる。私が欲しいのは彼の死ではなくて、徹底的な無力と依存だ。
だから、ルカス、わかるでしょ。
『そうだよな……ただ監獄に入れるだけでは易すぎる。監獄の奴らには言っておくよ……』
『ルカス、無理しすぎないでね』
――それが始まりであり……終わりでもあった。
『――お前か? 俺の原作を壊したのは』
その声は、全ての変化の始まりだった。
驚くことに、その存在は原作に一度も出てきたことがなかったのに、唐突にみんなの記憶の中にインストールされていた。
大魔法師レインズウェル。何故か公爵位を持っていた正体不明の男が、私の前に現れた。
怒り心頭のレインズウェルは私を問い詰め、苦しめて、恐怖に陥れた。原作を壊したと言っても、ノアリデアートの待遇だけだと叫んだけど、信じてくれない。
やっと彼が落ち着いたのは、私が彼と出会ってから三日後のことだった。
地獄の三日間のあと、私はレインズウェルと共に、原作のストーリーの状況を整理した。
マルガリータとノアリデアートの動きが原作と違う。だから原作を是正するために、作者が自分にチートな設定をいろいろ盛り込んで自分から作品の中に入ったのだと、彼は言った。
誰も勝てないわけだ。彼は今、この世界の『上限』なのだから。
話し合いの末に、マルガリータに問題があるという結論になったが、彼女が北境で生き残る確率は低すぎる。
現状必要なのは、エルムライトの治世を完璧にすることと、ノアリデアートを救出した後絶対に彼を隠し通すことだと、レインズウェルに念を押された。
『処刑場への連行は君に任せるよ。だけど、ひとりだけ私の配下を入れてもいいかい?』
『うん、もちろん! ルカス陛下の力になれて嬉しいですわ』
――でも、三年後のその日。
あの雪の日、ついに私は絶望しているはずの私の愛する人を手に入れられる予定だった。
あの日が終わりの始まりになるだなんて、思ってもみなかった。
あの日を境に、全てが変わった。
私は宴会の柱の陰で、自分がまるで幽霊になったかのような感覚に歯噛みする。
私の言うことだけを聞いていたエルムライトは、訪れたマルガリータの尻を追いかけまわしている。あんな顔、私に見せたこともない。そして、死んでいるはずの悪役令嬢は、北境の支配者として輝きを放っている。私の愛する皇帝陛下も、私の想いに応えようとはしてくれない。
まただ。
また、こうも簡単に、私の全てが奪われる。こんなにも努力して築き上げたのに。私はヒロインなのに。たかが悪役令嬢にすら、全部奪われていく。
――また、運命に捨てられるの?
嫌!
嫌だ!!
そんなのはいや!!
怖い。苦しい。なんで私ばっかり、こんな目に遭わなくてはいけないの?
『――方法は、まだあるじゃないか。なァ、俺の愛しいヒロイン』
老人のふりをしているだけの、本当は若い作者――レインズウェルの底知れぬ瞳が、全てを飲み込むような笑みが、全てお見通しとでも言うように、私の心に深く染み渡る。
低い、沈み込むような声と言葉。絶望と恐怖と悔しさに支配された私の心に、注ぎ込まれていく。
『静寂の塔』。彼のためだけの場所で、私はそれを授けられた。
『この魔法陣を受け取れ。必要な魔力も全部注ぎ込んである。なんの痕跡も残さないさ。これを発動するだけで、相手の生命を停滞させ、ゆっくりと死に向かわせることができる。何、苦しみはしない。俺が自分のキャラクターを苦しんで死なせるわけがないだろ? 眠るように死ねるさ。何を恐れる必要がある? お前はこれを発動させるだけだ、そんだけだぜ』
魔法陣を受け取る私の手が、震える。それを、まるで第三者視点でぼんやり見ているかのようだ。
殺す。人を殺す。
そんなことは、考えたことがない。私はストーリーの通りに進めただけだ。マルガリータを北境に送ったのはノアリデアートだし、彼女を殺したのは伝染病だ。そんなの偶然の話で、私は悪くない。
ノアリデアートも、私のおかげでむしろ死なないのだから、私はむしろいい人になるはずだ。
私の計画は、救済だった。道徳と正義の側に立ちつつ、ヒロインとして全てを勝ち得ることだった。
直接的な殺人だなんて、したいとも思わなかった。
だって、私は、ただの普通の女の子でしかなくて。ヒロインに、みんなの中心になりたかっただけで。こんな、こんなのは……。
久々に会ったマルガリータ・エステルは、私の知る悪役令嬢とは全然違っていた。
生き生きしていて、颯爽としていて、信念と目標、実力と深慮を兼ね揃えた強い女になっていたと、私も、思う。
悔しかった。勝ちたかった。大嫌いだった。奪いたかった。でも、殺したいとまでは……思わなかった。
『わ、私、殺すなんて、出来な……』
『できない?』
『ひっ』
『おいおい、そりゃないだろ、アメリア。俺のヒロイン! 悪役令嬢が、手を汚すことなくお前の全てを奪える位置にいるんだぜ? お前の地位! お前の未来! お前の救済と計画! お前はそれを守りたくないのか? あの女が頂点に立った時、お前は自分がどうなるか、本当に想像ができないほど馬鹿なのか?』
『そっ、それは……!』
『やられる前に、やれよ。あの女が消えれば、お前の皇帝もお前のものだ。俺もあいつが表に出てこないのなら邪魔はしない。エンディングを見守れればそれでいい。それによ、アメリア』
『な、なに……?』
『マルガリータが本当にノアリデアートを救ってくれると思うのか? あの女はお前の皇帝に婚約を破棄され、北境に追いやられたんだぞ。あの女が頂点に立ったら……お前の皇帝は、どうなる? お前だけじゃない! お前が選択するだけで、お前は自分の愛する人も救えるんだぞ! 何をためらっているんだ、アメリア・ローズウェル!? ヒロインは、救済するもんだろ!?』
『は……っ! そ、そうだ……ひ、ヒロインだから……ヒロインだから助けてあげなくちゃ……』
『行けよアメリア。原作をぶち壊した大罪人を、――殺せ!』
殺す。
私の、作品の、愛するノアリデアートの未来のために。
ヒロインなんだから、これくらい許されるよね?
だって魔法陣を発動させるだけなんだし、私は命令されただけなんだし、私が作った魔法陣でもないし。
成功したら、みんな救ってあげられる。
正義のために、犠牲は必要だって言うから、私がこの手で正義を守るっていうことで、いいんだよね?
――私は、間違って、ない。
(私の物語に、貴女みたいな人はいらない! お願い、マルガリータ……もう消えて……!)
もう出て来ないで。私を苦しめないで。そんな眩い光で、私を惨めにしないで。
消えて。消えて。それで。
それで、私を。
――私を、助けて。
病院と言うにはあまりに景色が違いすぎて、変な記憶も頭に流れ込んできて、最初はパニックになるほど戸惑った。
でも、すぐに、私は初めて運命が私に味方してくれたんだと理解した。
私は、ローズウェル子爵家に。ヒロインのアメリア・ローズウェルとして、転生していたのだ!
可憐で可愛らしく、儚いながら正義感の強い、花のような女の子。万人に愛され、守られる、理想的なヒロインそのもの。
私は原作のことを良く知っている。アメリアのふりをすることなんて簡単だったし、驚くほどすんなり原作のストーリー通りに事が運んだ。
ノアリデアートはマルガリータを婚約者に選んで、哀しむエルムライトの傷心に付け込む形でアメリアが現れる。もちろん原作のアメリアは偶然彼に出会ったのだろうが、私はわざとだ。彼女の台詞を言って、そして彼がもっと自分に依存するように手招く。
――何故か、原作よりノアリデアートとマルガリータの関係が微妙な雰囲気なのは気になった。
本来は、ノアリデアートはアメリアに傾倒して、エルムライトを迫害するはず。そしてそれに嫉妬したマルガリータが、アメリアに嫌がらせをしてこなくてはならなかった。
もちろん、ノアリデアートは何でも許してくれたし、婚約者の女よりも私のことを気に掛けている素振りをしていたけれど、一向に笑顔のひとつさえ見せてくれない。人のいないところでは、私に話しかけることもない。
その上、ノアリデアートとマルガリータの関係は、原作よりは険悪ではない。まあ、彼女が私を虐めていないからかもしれないが、原作ではもっと混沌としていたはずだ。
アメリアを愛する皇帝。その彼を引き留めようとする悪役令嬢。そして行動のたびに皇帝に嫌われ、ついには婚約を破棄される悪役令嬢。
どうしてそんな流れ通りにいかなかったのか、私には分からなかった。それでも、どうにか世間上の評価だけは原作と全く同じにすることに成功した。エルムライトも、私を疑っていない。
大丈夫。私は『ヒロイン』だ。
そうだ、良いことを考えた。
どうせ、原作通りノアリデアートは廃位される。その時に、私が手を差し伸べて、優しくしてあげればいい。そうすれば、全部元通りになる。今は、あの悪役令嬢が婚約破棄になるように事を運ぶだけでいいのだ。
私とエルムライト、そしてマルガリータの対立が社交界でどんどんと顕著になっていく。原作のストーリーの通りになっていく。
私はヒロイン。全部が私の思い通り。なんて気持ちいいのだろう。ここでは私は世界の中心なのだ。
マルガリータ・エステル・ド・シャトーブランが公衆の目前で婚約を破棄され、ノアリデアートの手で荒れた北境に送られた。
やった。これで全部元通りだ。あの女が原作通りに行動しなかったことは気がかりだが、悪役令嬢は北境で死ぬ予定なのだから、婚約を破棄されればもう気にすることは何もない。
あとは、私の愛するノアリデアートに、幸せになるための絶望を贈ろう。大丈夫、辛いのはひと時だけ。私と一緒に居るようになれば、貴方は世界一幸せになれるから。
それは、私が初めて行った、原作に反する行動だった。
――ノアリデアート・エンバース・フォン・アーレンスフォルトが、死なないようにすること。
黒石地下監獄に叩き込まれた彼は、ある雪の日に北境でさっくりと処刑されて死ぬはずだった。だが、私は絶対に彼を殺させない。
でも、私を愛させるためには、ただ監獄の中にいるだけでは足りない。だって、原作が一瞬変だったから。元に戻すためには、もっと作用力が必要でしょ。
ヒロインが直々に動くんだから、絶対にどうにかなる。
死ぬはずの運命の暴君が、私だけを見て、私を光だと認識して、私のものになる。私が欲しいのは彼の死ではなくて、徹底的な無力と依存だ。
だから、ルカス、わかるでしょ。
『そうだよな……ただ監獄に入れるだけでは易すぎる。監獄の奴らには言っておくよ……』
『ルカス、無理しすぎないでね』
――それが始まりであり……終わりでもあった。
『――お前か? 俺の原作を壊したのは』
その声は、全ての変化の始まりだった。
驚くことに、その存在は原作に一度も出てきたことがなかったのに、唐突にみんなの記憶の中にインストールされていた。
大魔法師レインズウェル。何故か公爵位を持っていた正体不明の男が、私の前に現れた。
怒り心頭のレインズウェルは私を問い詰め、苦しめて、恐怖に陥れた。原作を壊したと言っても、ノアリデアートの待遇だけだと叫んだけど、信じてくれない。
やっと彼が落ち着いたのは、私が彼と出会ってから三日後のことだった。
地獄の三日間のあと、私はレインズウェルと共に、原作のストーリーの状況を整理した。
マルガリータとノアリデアートの動きが原作と違う。だから原作を是正するために、作者が自分にチートな設定をいろいろ盛り込んで自分から作品の中に入ったのだと、彼は言った。
誰も勝てないわけだ。彼は今、この世界の『上限』なのだから。
話し合いの末に、マルガリータに問題があるという結論になったが、彼女が北境で生き残る確率は低すぎる。
現状必要なのは、エルムライトの治世を完璧にすることと、ノアリデアートを救出した後絶対に彼を隠し通すことだと、レインズウェルに念を押された。
『処刑場への連行は君に任せるよ。だけど、ひとりだけ私の配下を入れてもいいかい?』
『うん、もちろん! ルカス陛下の力になれて嬉しいですわ』
――でも、三年後のその日。
あの雪の日、ついに私は絶望しているはずの私の愛する人を手に入れられる予定だった。
あの日が終わりの始まりになるだなんて、思ってもみなかった。
あの日を境に、全てが変わった。
私は宴会の柱の陰で、自分がまるで幽霊になったかのような感覚に歯噛みする。
私の言うことだけを聞いていたエルムライトは、訪れたマルガリータの尻を追いかけまわしている。あんな顔、私に見せたこともない。そして、死んでいるはずの悪役令嬢は、北境の支配者として輝きを放っている。私の愛する皇帝陛下も、私の想いに応えようとはしてくれない。
まただ。
また、こうも簡単に、私の全てが奪われる。こんなにも努力して築き上げたのに。私はヒロインなのに。たかが悪役令嬢にすら、全部奪われていく。
――また、運命に捨てられるの?
嫌!
嫌だ!!
そんなのはいや!!
怖い。苦しい。なんで私ばっかり、こんな目に遭わなくてはいけないの?
『――方法は、まだあるじゃないか。なァ、俺の愛しいヒロイン』
老人のふりをしているだけの、本当は若い作者――レインズウェルの底知れぬ瞳が、全てを飲み込むような笑みが、全てお見通しとでも言うように、私の心に深く染み渡る。
低い、沈み込むような声と言葉。絶望と恐怖と悔しさに支配された私の心に、注ぎ込まれていく。
『静寂の塔』。彼のためだけの場所で、私はそれを授けられた。
『この魔法陣を受け取れ。必要な魔力も全部注ぎ込んである。なんの痕跡も残さないさ。これを発動するだけで、相手の生命を停滞させ、ゆっくりと死に向かわせることができる。何、苦しみはしない。俺が自分のキャラクターを苦しんで死なせるわけがないだろ? 眠るように死ねるさ。何を恐れる必要がある? お前はこれを発動させるだけだ、そんだけだぜ』
魔法陣を受け取る私の手が、震える。それを、まるで第三者視点でぼんやり見ているかのようだ。
殺す。人を殺す。
そんなことは、考えたことがない。私はストーリーの通りに進めただけだ。マルガリータを北境に送ったのはノアリデアートだし、彼女を殺したのは伝染病だ。そんなの偶然の話で、私は悪くない。
ノアリデアートも、私のおかげでむしろ死なないのだから、私はむしろいい人になるはずだ。
私の計画は、救済だった。道徳と正義の側に立ちつつ、ヒロインとして全てを勝ち得ることだった。
直接的な殺人だなんて、したいとも思わなかった。
だって、私は、ただの普通の女の子でしかなくて。ヒロインに、みんなの中心になりたかっただけで。こんな、こんなのは……。
久々に会ったマルガリータ・エステルは、私の知る悪役令嬢とは全然違っていた。
生き生きしていて、颯爽としていて、信念と目標、実力と深慮を兼ね揃えた強い女になっていたと、私も、思う。
悔しかった。勝ちたかった。大嫌いだった。奪いたかった。でも、殺したいとまでは……思わなかった。
『わ、私、殺すなんて、出来な……』
『できない?』
『ひっ』
『おいおい、そりゃないだろ、アメリア。俺のヒロイン! 悪役令嬢が、手を汚すことなくお前の全てを奪える位置にいるんだぜ? お前の地位! お前の未来! お前の救済と計画! お前はそれを守りたくないのか? あの女が頂点に立った時、お前は自分がどうなるか、本当に想像ができないほど馬鹿なのか?』
『そっ、それは……!』
『やられる前に、やれよ。あの女が消えれば、お前の皇帝もお前のものだ。俺もあいつが表に出てこないのなら邪魔はしない。エンディングを見守れればそれでいい。それによ、アメリア』
『な、なに……?』
『マルガリータが本当にノアリデアートを救ってくれると思うのか? あの女はお前の皇帝に婚約を破棄され、北境に追いやられたんだぞ。あの女が頂点に立ったら……お前の皇帝は、どうなる? お前だけじゃない! お前が選択するだけで、お前は自分の愛する人も救えるんだぞ! 何をためらっているんだ、アメリア・ローズウェル!? ヒロインは、救済するもんだろ!?』
『は……っ! そ、そうだ……ひ、ヒロインだから……ヒロインだから助けてあげなくちゃ……』
『行けよアメリア。原作をぶち壊した大罪人を、――殺せ!』
殺す。
私の、作品の、愛するノアリデアートの未来のために。
ヒロインなんだから、これくらい許されるよね?
だって魔法陣を発動させるだけなんだし、私は命令されただけなんだし、私が作った魔法陣でもないし。
成功したら、みんな救ってあげられる。
正義のために、犠牲は必要だって言うから、私がこの手で正義を守るっていうことで、いいんだよね?
――私は、間違って、ない。
(私の物語に、貴女みたいな人はいらない! お願い、マルガリータ……もう消えて……!)
もう出て来ないで。私を苦しめないで。そんな眩い光で、私を惨めにしないで。
消えて。消えて。それで。
それで、私を。
――私を、助けて。
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