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第二章 『「主人公」と「ヒロイン」』
第二章14 『自首』
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アメリア・ローズウェルの自白と自首。
それは、ただでさえ燃えていた帝都に油をかけたようなもので、瞬く間に広がっていった。彼女は裏から情報を流したわけでもなく、ある日唐突に婦人たちの集まるサロンに現れて、地面に跪いて罪を告白したのだ。
ここなら、一番情報が広まると思ったから。
運命というものからの解放と、そして人生最後の反逆のため、アメリアはマルガリータに助力することを選んだ。ヴァイスの恐怖に屈したからではない。
あの後、泣きながら部屋の中で考えたのだ。
家族に振り回されて。やっと転生したかと思ったら作者に振り回された。もちろん自分も、ヒロインとして色んな人を振り回してきた。
この手で殺していなくても、マルガリータの傍にヴァイスがいなかったら、彼女がアメリアの立ち回りのせいで結果的に死を迎えることは間違いない。ノアリデアートのこともそうだ。今でも彼の愛を得るためにはあの手段以外思いつかないが、苦しみを与えたことは覆しようがない。
アメリア・ローズウェルにできる精一杯で生きてきたつもりだった。
それでもアメリアが『九条理華』である限り、変えられるものはなにもなかった。
――けど、マルガリータは変わってみせた。
愛と嫉妬に狂った悪役令嬢ではなくて、慈愛と強靭さを兼ね揃えた立派な指導者になった。敗北が確定した今、思えばアメリアはずっと、羨ましかっただけだったのだ。
血反吐を吐くような努力。壮絶な試練。
彼らのそんな現実的な切磋琢磨を天賦の才という言葉で切り捨ててきた。それが間違いであったことは、マルガリータを見ていれば容易に分かる。
見事に運命に勝利してみせた彼女。ああいう人に、なりたかった。
今からでもなれるとしたら……アメリア・ローズウェルに、何ができるのか考えたら、やはりヴァイスの言う通り自白する事しか思いつかなかった。
(マルガリータ……あんたなら、あの作者を、運命を、壊せるんでしょ。お願い……私の代わりに、運命に、勝って!!)
悪役令嬢も、本当は九条理華と同じで。
どうしようもない運命に嘆き苦しんで、努力もせず嫉妬ばかりして。他人を害して、自分も傷ついた。でも、マルガリータは違う道を歩いている。
九条理華も、まだ、夢が見られる。自分と同じだった人が、運命を覆して、自分だけの未来を手に入れる。それが、見られるなら。
(――絶対に謝ってあげない。だけど……必ず生きて。生きて私を……この運命から助けてね)
最後まで自己中心的に。
最後まで傲慢に。
完全に運命に見放されるまで、アメリア・ローズウェルとして、生きてやろうじゃないか。
〇
エルムライト・ルカスは顔面蒼白で執務室で固まっていた。彼の目の前には大量の抗議文と、そして口々に各々の主張をする大臣たちがいる。
エルムライトには何も分からなかった。
ずっと自分の味方で、同じように北境の奴らを憎んでいて、ふたりで頂点に立とうと誓ったはずのアメリアが、どうして急に裏切りを選んだのか。
自分だけではなく、帝国の名誉さえ傷つけることになると、彼女なら分かるはずなのに。
尊大で、傲慢ないつもの態度が、とれない。
アメリアありきの『皇帝エルムライト』だったのだと気づいたころには、彼女はもう自分から貴族用の収監所に入っていて。
もちろん面会をしたいと望めば、エルムライトにできないことはない。
でも、虚しい喪失感に支配されていた今のエルムライトは、思考を放棄してしまっていた。
「なんで……なんでなんだよ、アメリア……」
「陛下! 皇后陛下を廃位すべきです! 私の娘なんていかがでしょうか?」
「北境には謝罪を入れるべきでしょうね……いや、ここで北境を救えば、我々が北境を吸収する口実になるやもしれない?」
「私は、このまま戦争に入っても良いと思うがね。どうせ統率者は今倒れているんだから」
普段は心地よかった大臣たちの声が、今は耳に刺々しく不快だ。何で、気が付かなかったんだろう。彼らは一度も、エルムライトに寄り添ったことなどない。
記憶の中にある兄の傍にいる者たちは、ずっと彼を気遣っていたはずなのに。どうしてこうも違うのか。自分の方が優しいはずなのに。兄の部下になるなんて絶対に嫌だと常々思っていたのに。
アメリアが裏切って。マルガリータも倒れて。周囲に味方もいなくて。
――いつから、こんなことになってしまったのだろう?
〇
「陛下、皇后陛下の罪は明瞭です。帝国は法に基づいて処罰するべきでありますが……皇后陛下はいかにしてこのような凶悪な魔法陣を手に入れたのでしょうか? 治癒の魔法使いとしては優秀であせられると思いますが……生命を奪うような魔法は使えないはずですね。裏に人が必ずいるはずです。帝国にはそれを調査する義務があるのではないでしょうか? 北境は、このようなことが二度と起こらない保証を望みます」
「陛下! 背後にいる人間を探し出すことこそ、根元から断つ核心です! 我々北境は、帝国の即時調査を要求する! もしも帝国が我々に対し納得いく説明ができなかった場合……その責任は、帝国に取っていただく!」
ソフィア・ヴァノルテ。そしてアウグスト・ヴェルゼン。二人の猛攻と追及に、エルムライトは耳鳴りがするほどの苦しみを感じていた。
自分の思考さえ整理できていないのに、一歩一歩追い詰められていくような圧迫感が、エルムライトに警鐘を鳴らし続けていた。
アメリアに会いに行ったが、彼女は背中を向けたまま、一言も話そうとしなかった。
分からない。
何も分からない。
自分が今何を言って、何をしているかも、ぼんやりしていて記憶に残らない。
ちゃんと、皇帝として対処できているだろうか。まともに北境の人間と戦えているだろうか。
分からない。
いつもは、アメリアが色々策を出してくれていたのに、彼女は今いないから。
魔法使いレインズウェルも、塔にこもって出てこない。なんで、こうなってしまったんだろう?
アメリアの自首。エルムライトの錯乱。北境団の追及。騒然とする帝都。
帝国に暗雲立ち込める中で、ついに、マルガリータを北境へ連れていくための環境が、整った。
「――行くよ、グランツさん!」
「おうよ!」
こうして、グランツとヴァイスによる別行動の戦いが、瑠璃宮にて繰り広げられることとなった。
それは、ただでさえ燃えていた帝都に油をかけたようなもので、瞬く間に広がっていった。彼女は裏から情報を流したわけでもなく、ある日唐突に婦人たちの集まるサロンに現れて、地面に跪いて罪を告白したのだ。
ここなら、一番情報が広まると思ったから。
運命というものからの解放と、そして人生最後の反逆のため、アメリアはマルガリータに助力することを選んだ。ヴァイスの恐怖に屈したからではない。
あの後、泣きながら部屋の中で考えたのだ。
家族に振り回されて。やっと転生したかと思ったら作者に振り回された。もちろん自分も、ヒロインとして色んな人を振り回してきた。
この手で殺していなくても、マルガリータの傍にヴァイスがいなかったら、彼女がアメリアの立ち回りのせいで結果的に死を迎えることは間違いない。ノアリデアートのこともそうだ。今でも彼の愛を得るためにはあの手段以外思いつかないが、苦しみを与えたことは覆しようがない。
アメリア・ローズウェルにできる精一杯で生きてきたつもりだった。
それでもアメリアが『九条理華』である限り、変えられるものはなにもなかった。
――けど、マルガリータは変わってみせた。
愛と嫉妬に狂った悪役令嬢ではなくて、慈愛と強靭さを兼ね揃えた立派な指導者になった。敗北が確定した今、思えばアメリアはずっと、羨ましかっただけだったのだ。
血反吐を吐くような努力。壮絶な試練。
彼らのそんな現実的な切磋琢磨を天賦の才という言葉で切り捨ててきた。それが間違いであったことは、マルガリータを見ていれば容易に分かる。
見事に運命に勝利してみせた彼女。ああいう人に、なりたかった。
今からでもなれるとしたら……アメリア・ローズウェルに、何ができるのか考えたら、やはりヴァイスの言う通り自白する事しか思いつかなかった。
(マルガリータ……あんたなら、あの作者を、運命を、壊せるんでしょ。お願い……私の代わりに、運命に、勝って!!)
悪役令嬢も、本当は九条理華と同じで。
どうしようもない運命に嘆き苦しんで、努力もせず嫉妬ばかりして。他人を害して、自分も傷ついた。でも、マルガリータは違う道を歩いている。
九条理華も、まだ、夢が見られる。自分と同じだった人が、運命を覆して、自分だけの未来を手に入れる。それが、見られるなら。
(――絶対に謝ってあげない。だけど……必ず生きて。生きて私を……この運命から助けてね)
最後まで自己中心的に。
最後まで傲慢に。
完全に運命に見放されるまで、アメリア・ローズウェルとして、生きてやろうじゃないか。
〇
エルムライト・ルカスは顔面蒼白で執務室で固まっていた。彼の目の前には大量の抗議文と、そして口々に各々の主張をする大臣たちがいる。
エルムライトには何も分からなかった。
ずっと自分の味方で、同じように北境の奴らを憎んでいて、ふたりで頂点に立とうと誓ったはずのアメリアが、どうして急に裏切りを選んだのか。
自分だけではなく、帝国の名誉さえ傷つけることになると、彼女なら分かるはずなのに。
尊大で、傲慢ないつもの態度が、とれない。
アメリアありきの『皇帝エルムライト』だったのだと気づいたころには、彼女はもう自分から貴族用の収監所に入っていて。
もちろん面会をしたいと望めば、エルムライトにできないことはない。
でも、虚しい喪失感に支配されていた今のエルムライトは、思考を放棄してしまっていた。
「なんで……なんでなんだよ、アメリア……」
「陛下! 皇后陛下を廃位すべきです! 私の娘なんていかがでしょうか?」
「北境には謝罪を入れるべきでしょうね……いや、ここで北境を救えば、我々が北境を吸収する口実になるやもしれない?」
「私は、このまま戦争に入っても良いと思うがね。どうせ統率者は今倒れているんだから」
普段は心地よかった大臣たちの声が、今は耳に刺々しく不快だ。何で、気が付かなかったんだろう。彼らは一度も、エルムライトに寄り添ったことなどない。
記憶の中にある兄の傍にいる者たちは、ずっと彼を気遣っていたはずなのに。どうしてこうも違うのか。自分の方が優しいはずなのに。兄の部下になるなんて絶対に嫌だと常々思っていたのに。
アメリアが裏切って。マルガリータも倒れて。周囲に味方もいなくて。
――いつから、こんなことになってしまったのだろう?
〇
「陛下、皇后陛下の罪は明瞭です。帝国は法に基づいて処罰するべきでありますが……皇后陛下はいかにしてこのような凶悪な魔法陣を手に入れたのでしょうか? 治癒の魔法使いとしては優秀であせられると思いますが……生命を奪うような魔法は使えないはずですね。裏に人が必ずいるはずです。帝国にはそれを調査する義務があるのではないでしょうか? 北境は、このようなことが二度と起こらない保証を望みます」
「陛下! 背後にいる人間を探し出すことこそ、根元から断つ核心です! 我々北境は、帝国の即時調査を要求する! もしも帝国が我々に対し納得いく説明ができなかった場合……その責任は、帝国に取っていただく!」
ソフィア・ヴァノルテ。そしてアウグスト・ヴェルゼン。二人の猛攻と追及に、エルムライトは耳鳴りがするほどの苦しみを感じていた。
自分の思考さえ整理できていないのに、一歩一歩追い詰められていくような圧迫感が、エルムライトに警鐘を鳴らし続けていた。
アメリアに会いに行ったが、彼女は背中を向けたまま、一言も話そうとしなかった。
分からない。
何も分からない。
自分が今何を言って、何をしているかも、ぼんやりしていて記憶に残らない。
ちゃんと、皇帝として対処できているだろうか。まともに北境の人間と戦えているだろうか。
分からない。
いつもは、アメリアが色々策を出してくれていたのに、彼女は今いないから。
魔法使いレインズウェルも、塔にこもって出てこない。なんで、こうなってしまったんだろう?
アメリアの自首。エルムライトの錯乱。北境団の追及。騒然とする帝都。
帝国に暗雲立ち込める中で、ついに、マルガリータを北境へ連れていくための環境が、整った。
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「おうよ!」
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